第36話 新たな問題 その2


「いや別に俺を断たなくても……」


「よくよく考えたら私は甘え過ぎているのです!!」


 急に席を立つとキリッとした顔をして綺姫は俺の方を見て胸を張った。制服に押し上げられた胸が目立っていて男が自分だけで良かったと思う。でも教室ではいつもこんな感じかもしれないと急に冷静になった。


「お? どうしたんアヤ、独立宣言でもしちゃう?」


「あと葦原はアヤの胸ガン見すんな、きっしょ……引くわ」


「あ、ああ……わるい」


 ここ数日間は綺姫と寝ていないから軽い禁断症状が出ていた。家で一緒に過ごすだけで落ち着くから彼女の体の負担を考えて抱く頻度は二日や三日おきになっていたのも原因だろうと考えていたら綺姫が素早く近寄って来た。


「星明、大丈夫?」


「問題は無いさ……」


 そう言いながら耳元で「今夜は一緒に寝よ」とささやかれ頷いた。自分でも顔が赤くなっている自覚が有るくらい頬が熱い。いつから俺はこんなウブになったんだ自慢じゃないが女なんて何人も抱いたのに綺姫が相手だと俺は……。


「じゃあ後でね……と、とにかく星明に頼ってばっかじゃダメだし!!」


「ウチは今更な気がするんだけど?」


 海上が釈然としない感じの顔をして綺姫を見ると、うぐっと言葉に詰まっている。


「そこは私も同じ、てか何で遠慮してんのアヤ?」


 さらに追撃とばかりに浅間まで俺の味方をしている。状況は完全に綺姫に不利になっていた。すると綺姫は俺たち三人を見て宣言した。


「さ、作戦たーいむ!! 星明は部屋を出て!!」


「へ? 何で俺だけ?」


「い、いいから!! 女の子だけの女子タイムだよ!!」


 そう言うと俺はリビングから追い出されてしまった。仕方ないのでエントランスで待っていると声をかけ下まで降り、ついでにコンビニで綺姫の好きなチョコでも買って来ようと財布を持って外に出た。



――――綺姫視点


「どうしよう二人とも~!! アタシますます星明が好きになっちゃう、何なのあの無限の優しさ!!」


 星明の良い所は優しい所で悪い所も優し過ぎる所だ。そもそも夜の街で会った時が恐かった分その後から優しくしてくれたのが強過ぎる。もう理想のタイプど真ん中で今すぐ付き合いたい。


「今さら惚気のろけるなし、てか告れ、もう行けっから」


「そうそ、てかあんたらって、その……もう色々とシてるん……でしょ?」


 二人には私が星明に片思いしてるのも治療名目でエッチしてることも話してしまった。星明を裏切っちゃったけど二人に相談しないと、いつまで経っても体だけの関係から先に進めない気がして私は思わず相談してしまった。


「え? してるって何を?」


「だ、だからっ……そのぉ、葦原と、そのぉ……あれよあれ!!」


 ちなみにタマも咲夜も私と違って恋愛経験は豊富でタマには大学生のカレが咲夜にも社会人で大人でスマートな恋人がいると聞いている。だから私は二人に色んな恋愛事情を聞いた。三人の中で私だけ彼氏が居なかったからスマホで相談もしていた。


「あれ? あれって何?」


「だからぁ……あれはあれよ」


 咲夜が顔を赤くしてアレと連呼しているのは謎だったけど横のタマがすぐに私の疑問を解決してくれた。


「セックスでしょ? ど~せ覚えたてで毎晩盛ってんでしょ?」


「いやタマ、あんた真昼間から……そのぉ、そういうのさ」


 何で照れてるんだろう? そりゃ男子の前でならこういう話はしないけど三人だけで遊んだ時は割と話してたのにと疑問に思ったけど私には別に切実な悩みが有った。


「ううっ……それが星明、ここ三日間抱いてくれなくて」


「あ~さすがに飽きたか」


 タマから聞きたくなかった解答が返って来た。やっぱりそういうのも有るらしい。運命の二人なら永遠に愛し合えると思ってたのに……少なくとも私は毎晩いつでもオーケーなのに。


「そんな……私が一番って言ってくれたのに!?」


「いや、アヤ、あんたの話じゃ葦原ってかなりヤりまくってんでしょ?」


「うん……ぶっちゃけ彼女……のフリはアタシが初めてだけど他の女共にけがされちゃってる……」


 星明の前のバイトや借金の具体的な所は隠してるけど二人は大体の私達二人の関係は話した。だから星明が過去に何度も色んな女を抱いているのも知っている。


「穢されるってアヤあんた、そ、そういうのは経験豊富な方がいいって聞くけど?」


「そりゃ咲夜の彼氏はもう社会人で経験豊富だから……さすが違うね」


 そう言うとなぜか咲夜は震えて「と、当然よ……」と言っていた。でも話を聞いてて私は別な疑問が出て来た。


「そういえば咲夜いつもより彼氏の話あんましないね?」


「えっ!? そ、それは……ほら今はアヤと葦原の話だしさ……初心者にあんまエグい話とかも出来ないし~」


 なぜか動揺してるように見える咲夜の話を聞こうとしたらタマが止めに入って私の話が先だと言って本格的な作戦会議に入った。


「てかさ、葦原が出してくれるんなら甘えな。男は頼られると嬉しいもんだし、頼られてる~って自尊心も満たされんのよ」


「でも星明、アタシのために凄いお金を出してくれてるし……これ以上は」


 その後、私達は色々な案を出し合った。去年やった海の家のバイトとかも考えたけど七月からの募集で八月にはもう締め切っている。それに一ヶ月頑張っても10万円行かない可能性も有る。私の目標額の四分の一にもならないんだ。


「お金って、大事なんだね……」


 改めてお金の大事さを思い知らされる私達だった。

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