第75話 終わる契約 その3


――――星明視点


「えっ? 綺姫、いま俺のことを……え?」


「あっ……言っちゃった、でも、もう一回言うから!! アタシは……星明が好きなの!! てか、いい加減気付いて!!」


 頭が激しく混乱する。俺は初めてキチンと女の子に告白されているのか? 陰キャで病気持ちそれに裏社会とも繋がっているような不健全の塊の俺が女の子、それも俺と正反対の陽キャの美少女に告られた?


「その……少し待っ――――「待たない!! 星明、待ってくれなかったし、だから今すぐ返事して!!」


 落ち着け俺……俺に何が起こった? いや分かってる綺姫が俺を好きだと言ってくれたんだ。それは理解しているけど頭が完全に追い付かない。


「お、俺は、返事は……」


「へ、返事は?」


「綺姫を解放したっ――――んぐっ!?」


 解放したいと言おうとしたら強引にキスされた。こんなやり方……そう言えば割と俺がしてた……と思っていたら綺姫が涙目で顔を真っ赤にして俺を見つめていた。


「ふぅ……そういうの聞きたくない!! あと返事くれないと、またキスするから!! 今度は星明が教えてくれた大人のキスで!!」


「いや、だから……お、俺は……」


 綺姫は怒っているのに今まで俺が見た中で一番魅力的に映っていて、だから俺は陰キャモード並みに口も重くなる。夜の街で百戦錬磨の俺はどこに行ったんだ。


「星明はアタシのこと嫌いなの? カノジョにしたくない?」


「したいに決まって……あっ……」


「ちゃんと自分の言葉で!! もう一回!!」


 そう言いながら今度は頬に軽くキスをしてくる。互いの吐息を感じる距離で目が合うと綺姫の濡れた瞳が綺麗で同時になぜか懐かしさも感じて俺はこの子を誰にも渡したくないと強く強く思ってしまった。だから恥も外聞も無く自然と口が動く。


「俺は、いや俺の彼女に……なって、下さい」


「はい、よろしくお願いしま~す!! じゃあ星明……しよっか?」


 綺姫が「もう絶対に逃がさない」と言って抱き着いてくると、そのまま俺達はこの夏で一番熱い夜を過ごすことになる。今までの秘めた想いを互いにぶつけ合い確かめ合うように俺達は何度も激しく求め合った。




「ま~た凄いことになってる、あとニオイ……換気すっからね」


「いや海上、これは……」


「えへへ~、これが幸せの匂い~♪」


 俺達は疲れ切ってスタッフルームのソファで眠っているのを海上に発見された。浅間じゃなくて良かったとは海上の言葉で俺達の共通認識だった。


「はぁ……で? 今回も、ま~た葦原が我慢できなくなった?」


「いや~、それが幸せエッチと言いますか、義務セックス卒業と言いますか~」


 綺姫がニヤニヤしながら俺にキスしてくるから俺も綺姫に応えてキスを返し目が合うと彼女の笑顔がすぐ傍に有って幸せを噛みしめる。


「うっわ……なんか今までで一番ヤバいわね……」


「海上……こんな恰好での報告になるが綺姫と恋人同士になれた、奇跡だ!!」


「あっそ、オメデト、じゃあ早く服着て」


 おかしい、俺も綺姫も下着姿だが今のは重大報告だ。だが俺を試していた海上の答えは実にアッサリしていて不思議だった。まるで最初から答えが分かっていたかのような口ぶりだ。


「もっと驚かないのか?」


「そうだよタマ!! アタシ達もう正真正銘のカレカノなんだよ!!」


「いや両想いなのウチは知ってたから……や~っと、くっ付いたかって感じ」


 海上の言葉の意味が一瞬分からなかったが、すぐに理解すると俺と綺姫は同時に変な声出していた。


「「ほへっ?」」


「知らぬは本人達ばかりってね……はぁ、マジ疲れた。誰かウチを褒めて~」


「「ええええええええええええええええええ!?」」


 互いに顔を見合わせ俺達は二人で絶叫した。こうして俺と綺姫の気持ちは通じ合い本当の恋人同士になれた。だが俺の幸せな災難はここから始まる。まず最初はバイト上がり後の皆への報告だった。




「でもアタシ少し怒ってます」


「うっ、それはその……」


 そう、綺姫はお怒りだったのだ。主に昨晩の俺の行動が原因だ。


「付き合い立てで即ケンカか~?」


「穏やかじゃないね何したんだい星明くん?」


 聡思さんと瑞景さんの二人がからかうが綺姫はあれで割と怒っている。だがこれは昨晩から散々と言われ続けたし俺は何も言えない。


「星明はアタシの気持ちを考えずにアタシを守るために!! ア・タ・シを守るために……えへへ、じゃなくて!! 契約カンケイを勝手に終わらせてようとしたのです!!」


 さっそく昨晩のことを皆にバラされた。ちなみに、この場の全員には一切の隠し事をせずに昼の内に事情は全て話している。


「葦原はアヤ優先でそういうこと言いそう、ま、言われた方はサイアクじゃね?」


「てか普通にアヤの気持ち考えろって話でしょ、それでアヤは何でニヤニヤしながら怒ってんのよ、どっちかにしろし」


 最終的に二人にはこのように評された。最初は聡思さんも俺を説教していた側だったが途中からは無言だった。何か思う所でも有ったのだろうか?


「そりゃアタシは怒ってるけど、でも星明がアタシを守ろうとしてくれたのは最初の頃から変わってないし、それにぃ~」


「「それに?」」


 海上と浅間が不思議そうに聞く。珍しく綺姫が何を言うか分かっていない様子だ。綺姫はよく二人に行動を読まれると言っていたが今回は分からなそうだ。しかし俺は何を言うか大体分かっていた。


「星明が一晩中ずっ~と愛してくれたから契約終了に同意したの!! それで正式なカノジョになった記念で今回は許してあげることにしました~!! 以上!!」


「あっ……ううっ、なるほど、ね」


「あ~、お前は苦手だろ、こっちこ~い」


 浅間は綺姫の言葉で顔を真っ赤にして、それを見かねた聡思さんに浅間は部屋から連れて行かれた。そして反対に海上は目に涙を浮かべて大笑いしている。


「ぷっ、アハハハハ!! そんじゃ文字通り葦原は自分の体で謝罪と支払いしたってこと? てかアヤにも似たようなことしてたんだし、これでイーブン? てか得意分野で良かったじゃ~ん葦原」


「珠依……お前、まあ今後は二人で相談しなきゃな? 特に星明くんは」


「はい……」

「は~い!!」


 こうして俺へのオシオキ&断罪? の方は一応は終わったのだが、俺の幸せな災難はまだまだ始まったばかりだ。

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