第76話 一日だけの夏休み その1
◆
「あ~、みんな少し良いか? って、どうした?」
あれから俺は『カノジョになったらしたいことリスト』なるものを見せて来た綺姫に好き放題されて三十分は経過していた。そんなタイミングで聡思さんと浅間が戻って来た。
「いや、これは……あっ!?」
「はい星明、次の野菜だよ~」
俺は今日のバイトで残った野菜の切れ端で作られた野菜スティックをバニーの恰好の綺姫に食べさせられていた……しかし方法が特殊だった。
「何で最近の合コンでも絶滅しつつあるポッ〇ーゲームの野菜版やってんだ!!」
「そ、それには事情が……あっ!?」
「はい、今アタシ以外を見たので罰ゲームだよ星明、スティック半分の長さね~」
聡思さんのツッコミは完全無視で綺姫は理不尽にも人参スティックを半分の長さに折ると反対を咥えて俺の方に突き出した。どうあがいてもキス確定の長さだ。
「ほれほれ早くしな葦原~、夏休み中はアヤのお願い何でも聞くんだろ?」
「がんばれ星明くん」
いま海上が言ったが昨晩それも約束していた。あと三日だから良いと思っていたが綺姫の陽キャパワーを甘く見ていた。当然のように助けなんて無い。
「
「綺姫!? もうゲームの意味が無いよね!?」
最後は野菜ごと押し付けて来て六回目の
「あぁ……アヤが、アヤが肉食系になってるぅ……」
「せっかく落ち着かせたのに……仕方ねえ咲夜しばらく昔みたいにしてろ」
「う、うん聡思兄ぃ……」
そういうと浅間は聡思さんに隠れるように背中から抱き着いていた。
「「えっ!?」」
この行動には逃げようとしていた俺も新しいスティック用意していた綺姫も口からスティックを落として動きが止まった。
「まあ昔からこんなだったからな……でも体はデカくなってんだから気を付けろよ」
「あっ……で、でも聡思兄ぃだからノーカンだし」
顔を真っ赤にして答える咲夜に背中越しに「そうかよ」と言って苦笑すると聡思さんは俺達に向き直って話が有ると口を開いた。
「実は叔父さんから提案てか業務命令? みたいなのが有ってよ」
そこで俺達はホテル側から指示を受けた……その指示とは休暇だった。
◆
「今まで見てるだけだったけど遂に海だよ星明~!!」
「ああ、そうだね綺姫、ここの砂浜は整備もあまりされてないし海はクラゲも出ると思うから気を付けて……」
まさか俺が彼女と海水浴に来れる日が来るなんて思わなかった。そんな感慨に耽っていると綺姫が振り返って言った。
「星明!! 岩陰行こう皆から見えないとこ!!」
「え?」
「スマホの広告で見たの!! 岩陰で隠れてするマンガ!?」
「げほっ!? ごほっ!? 綺姫っ!? そういうのは読んじゃダメだ!!」
いきなり海に来て何を言っているんだ俺のカノジョ。やはりスマホにフィルターを付けるべきだったと後悔するが綺姫は赤いビキニ姿で極上の笑みを浮かべながら俺の腕に自分の胸を押し付けてくる。それだけで俺の思考は停止した。
「なぁ~に言ってんの発情娘が!! 大概にしろっ!!」
「そうだよアヤ、せっかくだし海で遊ぼうよ~」
俺の意識を戻したのは後ろから声をかける海上と浅間だった。彼女たちも水着姿だったが浅間は当然のようにパーカーを着てガードは完璧だ。対して海上は白のビキニ姿で自分の肌の色と対比するような選び方でセンスが抜群だと思った。
「星明!! 二人の水着ちょっと見過ぎだと思うんですけど~?」
「いや、ごめん新鮮だったから……つい」
本当に他意は無かった。今の俺には綺姫しか見えていないがバイト仲間としての二人はウェイトレス姿か学校の制服姿だけだったので珍しかった……それだけだ。
「そっか~、星明は昨日の夜い~っぱい見せちゃったからアタシの水着なんて見飽きちゃったかな?」
「あっ、綺姫!?」
昨晩、俺は今の赤ビキニに着替えて来た綺姫に「情熱の赤~」と言って飛びつかれ我慢が出来ずに連続して熱い夜を過ごし今朝は寝不足だった。
「あんたら、その格好で既に……」
「アヤ……もう私より色んな意味で上じゃん……」
「咲夜、上とか下とか無いよ……有るのは愛だけだよ~!!」
そんな三人を見ながら俺は聡思さんに感謝していた。人生初カノと海に来れたのは聡思さんのお陰だ。そもそも海で遊べているのは本来なら最終日である今日のバイトが無くなったからだ。
「はしゃいでんな……どうした星明?」
「あ、聡思さん……その綺姫に見惚れてました」
「そうか、楽しんでるようで安心だ。俺も一昨日はどうして良いか分からなくてな」
波打ち際で遊んでいる三人を見ながら俺も思い出す。本来なら今日もバイトで明日の午前中に帰ることになっていたが、聡思さんの叔父さんから最終日までやっても客も来ないし無駄という話になり昨日で大掃除をして店じまいとなった。
「お陰で最後の一日は休暇で、しかも
「休みが一日もなく働いてたからボーナスだとか言ってたけど……この休暇どうも叔父さんの提案じゃないらしいんだよな」
それに何となく引っかかりを覚えながら俺はこの場にいない瑞景さんのことが気になっていた。朝から所用が有ると出て行って俺だけじゃなく海上も気にしていた。
「瑞景さんどこ行ったんすかね?」
「一時間くらいで戻るって言ってたから遅くても昼には戻ってくんだろ、それよりもBBQの準備とか手伝えよ?」
「はい、やるのが初めてなんで役に立たないかも知れませんが……」
「大丈夫だ、火ぃ付けて焼けばいいだけだ。任せとけって教えるからよ」
それに頷くと俺と聡思さんはBBQ用のコンロや道具を持ってパラソルを立てた場所まで移動し準備を始める。すぐに綺姫たちも来るだろうから五人で瑞景さんを待とう。でも瑞景さんは一体どこに行ったんだろう?
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