第88話 一つの幕切れと残る謎 その2


「でも……俺は……」


「星明!! 須佐井のことで悩んでる時間がもったいないから……えっと、今は二人で楽しい学校生活のことを考えよう!! 落ち込んでるの良くない!!」


「っ!? そう、だね……綺姫の言う通りかもね」


 実際、俺が悩んだ所で状況は動かないし少なくとも須佐井が退学するのはほぼ確定だ。綺姫の言う通り前向きに考えれば俺が軽い怪我をした以外は全て作戦通り。いや須佐井という存在クズを学校から追放できるのは大戦果だろう。


「そうそ、それよりアヤ~昨日、ウチが入れといたジュース出して~」


「あっ、それと私の緑茶のペットもお願い」


「おっけ~、瑞景さんと八上さんも何か飲みますか?」


 そして堂々とくつろいでいるのは元バイト仲間の四人だ。あの騒動後、病院から帰って来た俺と綺姫を海上と浅間がマンション前で待っていて以降は毎日来ている。


「お構いなく綺姫ちゃん。今日はむしろ今回の報告がメインだったからね」


「そんで俺は咲夜を迎えに来ただけなんだが……悪ぃな二人とも」


 一応は年上の二人は遠慮してくれているが女子二人は遠慮なしで連日入り浸っている。本当はもう少し綺姫と二人でいたいのだが我慢だ。


「そんな~、せっかくですから二人も夕ご飯も食べてって下さいよ~」


 そう言ってエプロンを付けてパタパタ行ったり来たりしている綺姫を見て聡思さんは俺の肩を掴んで小声で言った。


「おい星明、お前ら結婚まだしてないよな? 天原がお前の新妻に見えて来たぞ」


「奇遇ですね。俺は毎朝そう思ってます」


 もちろん綺姫と付き合って須佐井も追い出した今となっては綺姫との将来も考えられるようになっていた。


「さて、じゃあ聞いて欲しい皆。難しい話は終わりで今後の計画をね?」


「まだ何か有るんですか?」


 綺姫が俺の隣に座ると浅間も隙を見て聡思さんの隣に自分の座布団を置いて腕を組もうかとソワソワしている。学校の姿とは雲泥の差だ。


「星明くんの怪我の経過次第だけど近い内に皆でトリプルデートしないか?」


「「「「ええええええええええ!?」」」」


 俺と綺姫さらに浅間&聡思さんが驚くと海上がニヤリと「大成功」と言って笑う。後で綺姫から聞いて知ったが海上はこの手の作戦を立てたり仕切るのが好きらしく須佐井の件もやたら乗り気だったのはそのせいだった。


「じゃあ、こっからはウチが説明するよ」


「また六人で遊べるんだやったね星明!!」


 まだ問題は解決してないけど俺は一ヶ月弱でカノジョも頼りになる友人も、そして親友も出来た。だから今は楽しそうに海上の話を聞いている笑顔の綺姫を見て面倒事は今度考えようと頭の隅に追いやった。



――――聡思視点


高校生組あいつらだけで行かせて良かったんすか瑞景さん?」


「すぐ下のコンビニだから大丈夫さ」(僕以外の監視も付いてるからね)


 俺は一つ年上の妙に大人びた男を見て言った。星明は良い奴だ……半引き籠りだった俺が前向きになれたのはアイツの生き様を見たからだ。だが、もう一人の友人に不信感は有った。そして今回の騒動で腹に何か一物を抱えていると確信した。


「実は二人きりになりたかったんですよ」


「おや熱烈だね……聞こうか」


 恋人の海上にですら直前まで黙って二人で校門近くに車を停め四人を待とうと前日いきなり誘われた。終わったら皆でサプライズ打ち上げだと言われ当初は何の疑問も無かった。だが今思えば今回の不測の事態に備えていたように感じる。


「……今回のトリプルデート、俺と咲夜をくっ付けたいからですか?」


 だから俺は自分のことをダシに話を続ける。いきなり「あんた怪しいですね」と言っても通じない人だから様子見だ。


「ああ、そうさ。だって聡思くん浅間ちゃんのこと好きだろ?」


「っ!? 気付いてたんすか」


「まあ俺も年下の彼女を持ってるしさ……そうだね、紅茶を一緒に淹れ始めた時にはもう好きだったんじゃないか?」


 凄い洞察力だ。その通り俺は二つ下の幼馴染に惚れている。拒絶して遠ざけておいて再会し成長した咲夜は俺好みになろうと必死な姿に驚いて気付けば……。


「そこは外れです。海行ってすぐに惚れたんで」


「くっくっくっ……そうかそうか、珠依も喜ぶよ」


「でも今の俺は……あいつに返事はできねえ」


 そう俺には未だに心に残ったトラウマが有る。ケジメを付けなければならない相手がいる。あの女、須佐井照陽てるひを……俺の大事な居場所をぶっ壊したサークラ女を乗り越えるまで俺は咲夜の告白は受けられない。


「何か事情が有るんだね? 例の件絡み?」


「まあ、俺にも色々有るんで……瑞景さんにも有るでしょ?」


「ふっ、人にはそれぞれ秘密や隠し事なんてざらだよ。あの二人だって嘘と隠し事から始まった関係じゃないか」


 確かに星明と天原の二人の話には色んな意味で驚かされた。夜の街とかヤクザとか普通に真っ黒な世界であいつらは二人で必死に戦っていたんだ。


「まあ……そうっすね」


「それより俺も聞きたい、何であの時に須佐井の拘束を外したんだい?」


 俺は内心を悟られないよう話を続ける。あの時、咲夜が言ったクズの苗字が俺の居場所を奪った女と同じ苗字で動揺し拘束を解いてしまった。


「そ、それは……」


 俺が答えに詰まった時だった。運良く買い出しの四人が戻って来た。俺は胸を撫で下ろすと近い内にまたと言って話を切り上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る