第87話 一つの幕切れと残る謎 その1


「ああっ、俺が……なんで陰キャに、負け組なんて……いやだぁ~」


「陰キャとか負け組とか……そんな考え方もう止めな……元幼馴染から最後の忠告」


 綺姫は複雑そうに須佐井を見て言った。すぐにでも見捨てれば良いのにと思うが、やはり幼馴染は特別なのかと嫉妬心が湧くが堪えなくてはいけない。これを認めないのは綺姫の今までの人生も否定する事になる。


「うるざああああい!! 俺は……俺がぁ~!!」


「てか須佐井いい加減さ、静かにすれば?」


 落ち着いたのを見計らった浅間が俺達の方に近付きながら何気無く須佐井に放った言葉に反応したのは意外にも聡思さんだった。


「なっ!? 咲夜、今お前……なっ、なんて言った!?」


「え? 聡思兄ぃ? いや別に静かにすればって……」


 その聡思さんの注意がそれた一瞬だった。須佐井が拘束を解いて叫び声を上げながら俺と綺姫に襲い掛かって来たのだ。


「何が元幼馴染の最後の忠告だっ!! ふざっけるなあああ!!」


「しまった!?」


 聡思さんが突き飛ばされ須佐井が最後の抵抗を見せ狙いを俺じゃなくて綺姫に絞ったのを見て守るために間に入った。


「綺姫に手は出させない!!」


「かかったな陰キャ野郎が!!」


 何も出来ないと思ったが一つだけ出来そうなことが有った。だから俺は須佐井の拳より早く奴の顔面に頭突きを入れる。その衝撃のせいか意識が一瞬飛んで不思議なことに幼少期の記憶のようなものが垣間見えた。


「星明っ!?」


「うっ……ぐぅ」


 それは不思議な記憶だった。なぜか? だって俺に覚えの無い過去の記憶だったからだ。その記憶の中で俺は女の子に何かを渡していた。赤い何か……だがそれを確認する前に俺の意識は須佐井の声で現実に戻される。


「ぐあっ!? ううっ……何が幼馴染だ、お前が俺をっ!! そうだ、だから俺はそれをりよっ――――ぐぇ!?」


「もう寝ていろっ!! いい加減しつこいっ!! もう一発!!」


 いつの間にか瑞景さんが須佐井を俺達から引き離し鳩尾に拳を叩き込んでいた。しかし一発で決まらなかったのか二発目を入れ今度こそ須佐井は気絶した。


「終わった……か」


「星明っ!?」


 だけど俺も限界でフラフラだ。気絶しそうなくらい疲弊して座り込んでしまった。それから数分後やっと教師たちが来ると今回の一連の騒動は終結した。



――――綺姫視点


「はい、あ~ん」


「綺姫、学校でこういうのは――――「良いから、あ~んしてね星明?」


 あれから三日が経ちました。まず私たち四人は星明も含め全員が口頭注意と反省文という処分が決定しています。星明が言うには大騒動を学校で起こしたのに寛大な処分だそうです。


「綺姫……スマホで撮られてるけど」


「健全アピのためにも記念撮影に応じるんだよ……です!!」


 今はお昼休み中で星明は利き腕にヒビが入っているから私がお昼を食べさせてあげています。自分で出来るとか言ったので私は絶対安静を合言葉に星明に「あ~ん」を断行しているのです。


「そら撮るでしょ、今が旬のネタだしね」


「私も聡思兄ぃに後で見せるんだ~」


 話題に出た八上さん、そして瑞景さんは不法侵入者として突き出されたのにアッサリ解放されました。いつぞやの工藤警視が学校側を説得すると二人はすぐに自由の身となったのです。


「なるほど、大体分かりました。取材へのご協力感謝です天原さん!!」


「いいのです小野っち!! 取材とか初めてだし芸能人みたいな感じだったから問題は有りません!!」


 実は今お昼を食べながら小野さん改め小野っちの伝手つてで放送委員と第二マスゴミ同好会へのインタビュー中だったのです。


「あはは、校内新聞でわざわざ、ですます調で喋らなくても……」


「そ、そうなの?」


「綺姫は何でも一生懸命だからね」


 最後に肝心の須佐井は無期限の停学処分中で今は協議中らしく私達に情報を流してくれた副担任の話では退学処分か自主退学かで揉めているみたい。


「でも須佐井あんだけ暴れて首の皮一枚とはね……どうなってんのよ」


「ほんとサイアク……柔道部の顧問とかが粘ってるってさ」


 タマと咲夜が言うように須佐井の処分が協議中なのは一部教師と二年の柔道部の男子たちの動きが有ったからで処分を撤回しろと異議申し立てまでしているらしい。


「須佐井は三年間この学校では中心的な人間だった。それに柔道部の後輩にも慕われていて昨日今日のぽっと出の俺が言っても……やっぱり」


「葦原それは違う、悪いものは悪い……これは事実」


 タマの言う通りなのに星明はまた色々と考えてるみたいで自信を無くしてる。だから私は星明に唐揚げを「あ~ん」した。



――――星明視点


 家に帰っても俺の気分は晴れなかった。今回の作戦は飽くまで須佐井の学校内での権力を押さえ込むのが目的で、ここまで大事にする気は無かった。


「だから学校全体の動きを計算に入れてなかった。俺が調子に乗って計画に無い分断工作をしたから……奴を追い込み過ぎて事態を大きくした」


「だけど星明の作戦のお陰で矢野とか榊は教室の隅っこでビクビクしてるし女子は皆で一致団結してるから……」


 でもそれは綺姫の力が有ってこそで俺の力じゃない。俺は自分の力で好きな女の子一人守れやしない情けない男なんだ。

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