第89話 一つの幕切れと残る謎 その3

――――星明視点


 四人が帰ってから俺達は後片付けを終えるとやっと二人きりになれた。


「やっと落ち着いたね綺姫」


「うん……腕、もう大丈夫?」


 そう言って綺姫は包帯をした右腕を優しく撫でた。痛みは無くなったし明後日の診察に行けばもう大丈夫だろう……たぶん。


「無理しなければ大丈夫」


「そっ、そっか……じゃ、じゃあ今日はアタシが動けばオッケーだね!!」


 そう言って綺姫がやる気満々で抱き着いた時だった。ピコンとスマホの通知音がした。何だろうとテーブルを見るとスマホに通知が有ったようだ。


「俺のじゃないな……」


「アタシのだ、ごめん星明すこ~し待っててね」


 そしてスマホを見た綺姫が固まった。顔色がサーっと変わって須佐井と対峙した時とは違う意味で顔が強張って俺は焦った。


「綺姫?」


「たっ、大変だよ星明!!」


「どうしたの?」


「明日、明日……静葉さんがここに来るって!?」


 俺も固まった。今の一言に情報量が多過ぎたのだ。綺姫のスマホになぜ静葉さんから連絡が来たのか? なぜ俺の方じゃないのか? 次に何で連絡先を知っているのか最後に静葉さんが何の用なのか?


「綺姫どういうことか説明してくれる?」


「ううっ、そ、それは……そのぉ……」


 綺姫が目をそらしたから俺は逃げられないように綺姫を抱きしめると無理やり顔をこちらに向かせキスをする。


「ふぅ、綺姫は俺に隠し事してたんだ? じゃあオシオキが必要だね」


「えっ……何か星明が久しぶりに夜モードになってる!?」


「最近はリードされっぱなしだったし、俺も色々と溜まってるんだ。だから今夜はタップリ可愛がってあげるよ綺姫」


 今日は金曜日つまり明日は土曜だ。授業は有るけど午前中だけで何より今の時間はまだ20時を少し回っただけ……夜はまだこれからだ。


「星明……なんか、そのぉ……す、素敵?」


「ありがとう……寝不足になると思うから先に謝っておくよ」


 その晩は日付けが変わるまで綺姫を徹底的に愛した。そして綺姫から聞き出した話は予想外というより俺が気付くべき話だった。




「冷静に考えれば須佐井の件で実家に連絡が行ってるか……」


「ううん、アタシが先に静葉さんに連絡を……あっ!?」


「それも聞いてないね綺姫?」


 今は事後で先ほど聞き出したことをベッドの中で確認中だ。いつもは利き腕に頭を乗せている綺姫は今日は左腕に乗せて少し震えている。


「そのぉ……星明がチェス勝負してる時に連絡先をコッソリ……」


「なるほど、あの人らしいな」


 俺は溜息を付きつつ綺姫の頭を撫でるとビクンと震えて可愛い。だからついつい意地悪をしてしまう。


「その、今夜は激し過ぎて、まだ触られると少し……んっ」


「ごめんね、綺姫があんまりにも可愛くて……ついね」


 その質問にコクリと頷いて布団に顔を隠している綺姫は顔が真っ赤だ。明日も有るから意地悪のし過ぎは、ほどほどにしておこう。


「久しぶりに星明がすっごく激しくするからだよ……もうっ、バカ」


「悪かったよ、意地悪し過ぎたね」


「いいよ、今日はオシオキだったし……あふぅ、ご、ごめん、もう眠い」


「うん……おやすみ綺姫」


 実際、綺姫は須佐井の一件から今日まで三日間で気の休まる暇も無かったはずだ。そして俺も綺姫の寝顔を確認すると同時に意識を手放した。俺も激しくやり過ぎたようでもう限界だ。




「よ~し準備万端!!」


「いや、そこまで掃除も徹底しなくて大丈夫だと思うんだけど……」


「ダメです!! 今日はお義母様かあさまが来るんだから!!」


 綺姫は昨晩の疲れを感じさせず朝から絶好調だった。学校でも妙にハイテンションで海上たちの誘いを断って家に急いで戻ると夕食の仕込みを終え今度は家の大掃除を開始したのだ。


「綺姫が来てから部屋はきれいだし、ゴミ袋も溜まってないけど」


「そんなことあるの!! ホコリは有ったし昨日まで皆がいたからゴミも溜まってるから!! ほら星明そこ掃除機かけるから動いて!!」


 初めて俺の部屋に来た時以上に綺姫は掃除の鬼となっていた。向こうの指定して来た時間は15時、まだ時間は有るのだが万全の状態でおもてなしすると帰って来てからずっとこんな感じだ。


「俺も何か手伝おっ……いや、何でもない」


 綺姫の目は燃えていた。だから俺はノートPC一台を持って寝室に避難する。日曜のお父さんはこんな気分なのだろうか? いずれ俺も……なんて思っていたら部屋の隅に俺と綺姫の旅行鞄を見つけた。


「これは……夏のバイトの、忘れてた」


 なら片付けようと俺は自分のバッグの中身を整理し始めた。隣のは綺姫のだから後で知らせれば良いと思っていたら当の綺姫が部屋に入って来る。


「あっ、星明もうお掃除終わったから……あっ!?」


「夏休みの残ってたから片付けようと思って」


「そうだった、アタシも片付けなきゃ……あっ」


 そう言って綺姫がカバンの中から取り出したのは最近は髪が短くなって付けなくなっていたトレードマークの赤いカチューシャだった。最後に見たのは髪を切った日の夜だったと記憶している。


「それも最近は見なかったね」


「う、うん……そだね」


 綺姫の顔が先ほどまでのやる気に溢れた表情から打って変わり複雑なものに変わっていた。

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