第90話 新たなる始まりの予兆
◆
――――綺姫視点
「綺姫どうしたの?」
「あっ、う、うん……これは……」
髪を切ってからは不要になった私の宝物だったカチューシャ。毎日付けているくらい大事だったのに髪を切ってからはカバンの底に隠すように入れていた。
「これは?」
でも間が悪くインターホンのチャイムがピンポンと鳴る。私達がハッとして時計を見ると時間は既に15時、すぐに確認するとエントランスには静葉お義母さまが到着していた。
「星明!!」
「ああ、行こう」
ビーフシチューもじっくり煮込んでるし掃除も完璧。今はお義母様を完璧にお迎えするのに集中しないといけない。星明には後でキチンと話そうとを考えながら私は玄関に向かった。
◆
「あの……静葉さん」
「何かしら星明くん」
部屋に静葉さん達をお迎えして五分、私達は混乱していた。到着した厳めしい表情の静葉さんは一人じゃなかったのだ。隣に金髪美女を伴って我が家にやって来ていた。
「そちらの方のご紹介を……」
私もコクコクと首を縦に振ると静葉さんは「そうね」と言うと、その人に振り向いて私達に言った。
「こちらは竹之内霧華さん……星明くんのフィアンセよ」
「「え? えええええええええええええええ!?」」
いきなりの爆弾発言に俺達は悲鳴を上げていた。いきなり何を言ってるんだろうか静葉さん。昨日まで「二人の愛の巣に行くのが楽しみよ~」なんて言ってたのに……騙されたの私!?
「はぁ、静葉さん……いい加減にして下さい。聞いて無いんですけど?」
困り顔になった金髪美女が何か言ってるけど私の頭の中はそれ所じゃなかった。目の前の圧倒的な美女のオーラに完全敗北していた。
「フィアンセ? 俺に?」
「こんな美人に勝てないよぉ……」
再度見るとやはり超絶美人だ。金髪碧眼、アッシュブロンドに瞳はヘーゼルグリーンの完璧なお姫様だ。服装はグレーのスーツ姿だけどクールな感じも出てて非の打ち所がない。
「もう泣きそうじゃないですか……ちゃんと本当の紹介して下さい」
「ふふっ、ドッキリ大成功ね~」
そう言ってキリッとした表情を崩すと静葉さんはニヤニヤして私と星明を見て言った。ドッキリとは、あのドッキリですか?
「へ?」
「どういうことですか静葉さん?」
「だって、あなた達、私に黙って勝手に同棲でしょ? これくらいしたいじゃない」
どうやら静葉さんの心臓に悪いドッキリだったようで安心した。さっきのカチューシャの事も有って私はもう心がグチャグチャになりそうだ。
「よっ、良かったぁ~」
「静葉さん……そんなことのために、こちらを?」
「いいえ違うわ。もちろんこちらは星明くんのフィアンセじゃないわ、じゃあ先生、お願いします」
そう言って静葉さん真面目な顔をして金髪美女に向き直って言うと一歩前に出て星明と私に懐から名刺を出し渡した。
「では改めまして、わたくし『バーネット・竹之内合同法律事務所』の竹之内霧華と申します」
渡された名刺には弁護士と書かれていた。このお姉さん弁護士なの!? でも何で弁護士先生を静葉さんが連れて来たの? 疑問だらけで星明の方を見ると私と同じように驚いていた。
◆
――――星明視点
「実は先ほど学校側に来週の火曜、つまり三日後に話し合いの場を持つよう要請し決定させて来たわ」
「話し合い?」
何の話か見えないと俺は静葉さんに聞くしか無かった。学校と何を話し合うと言うのだろうか。
「それはもちろん、今回の暴行傷害事件と星明くんへの度重なる嫌がらせ諸々よ……うちの息子と将来のお嫁さん候補に色々やってくれたみたいだしね」
「俺達……のために?」
「ついに公認!! 一気にゴールインだよ!!」
静葉さんが妙に燃えていた。そして綺姫は後ろで狂喜乱舞しているが、それ所じゃない。家にいた頃は優しい人という印象しか無くて職場では鬼のようだという話を信じて無かったが真実だったのかも知れない。
「ええ、だから腕利きを連れて来たの」
「既に依頼を受け調査は開始しています。昨日から可能なだけ証拠や証言を集めてますので万事お任せ下さい」
静葉さんの話では竹之内先生はお父さんも腕利きの弁護士らしく父娘二代で弁護士をしていて若いが非常に優秀な人らしい。
「星明くん、お膳立てはするわ……罪滅ぼしってわけじゃないけど親らしいことさせて欲しいのよ……お願い」
「静葉さん……分かりました。竹之内先生もよろしくお願いします」
「私もお願いしま~す!!」
こうして突然の義母の来訪は新しい戦い、いや追撃戦の始まりを告げる狼煙となった。そして俺と綺姫は竹之内先生からの聞き取りと簡単な話や今までの事情を話し例の音声データなども提供した。
「なるほど……まず星明くん」
「はい……」
「あなたの今までの行為ですが、法令違反つまり完全にアウトです」
俺がジローさんのとこで世話になった話、綺姫を買って借金を返した話その他の今までの過去はアウト気味のセーフではなく完全にアウトだった。
「いや、そ、そりゃ裏で闇ですから……でも色々と抜け道とか?」
「無いですね。訴えられたら終わりですので隠しましょう、そもそも知られなければ訴えることも罪にも問えないので問題有りません、次に――――」
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