第十章「謎が深まる二人のカンケイ」

第91話 突然の接触と出会い その1


 サラッと凄い事を何でもない風に言う竹之内先生に驚かされたが俺達への聞き取りは、それからも続き気付けば陽は傾いていた。


「ふぅ、さすがに疲れたわね今日はこれくらいかしら?」


「そうですね……根を詰め過ぎるのも効率は良くないですし星明くんは腕に怪我をされていますよね? 診断書も回収したいので後日病院の方にも連絡を……」


 その言葉で今日の打ち合わせとレクチャーは何とか終わった。俺もかなり疲れたが綺姫は頭から煙が出そうなくらいグッタリしている。


「綺姫、大丈夫?」


「星明がキスしてくれたら頑張れる~」


「じゃあ、こっち向いて……」


 いつものように俺は綺姫を抱き寄せキスをする。最近の俺のカノジョはやたらキスをせがんで来る甘えん坊だ。契約が無くなり歯止めが効かなくなったみたいだ。


「んんっ……ふぅ、元気充填!! あっ……」


「あら~、本当にアツアツ、そう思わない霧華ちゃん?」


「はぁ……まあ、許容範囲内です」


 気付いた時には遅かった静葉さんに見られるのも初なのに完全に他人の竹之内先生にまで見られてしまった。だが俺の予想とは裏腹に彼女は澄ました顔でコーヒーを飲んでいた。これが大人の余裕か……。




「やっぱりハーフだから慣れっ子?」


「まあ半分正解です、小さい頃から父と母もこんな感じで……」


 今さらながらどう見ても外国人にしか見えない竹之内先生はアメリカ人と日本人のハーフらしく髪と瞳の色はお父さんからの遺伝だそうだ。


「すご~い、やっぱりアメリカって行ってらっしゃいのチューするんですか!?」


「ええ、まあ私の父と母は最近は落ち着いたのですが……」


 綺姫はウッキウキで質問している。初対面は絶望的だったのにも関わらず人と打ち解けるのが早いのはいつも通りで安心した。


「ああ、あの二人のこと?」


「ええ、不肖の姉と義兄がそりゃもう毎日で……子供三人も作っておきながら今なお新婚状態で慣れましたよ……」


 なぜかゲッソリした顔で言う竹之内先生は俺と綺姫を見て姉夫婦にそっくりだと言われた。そんな話をしながら夕食時だからと綺姫は用意していたビーフシチューを竹之内先生にも振る舞った。


「あと急で悪いんだけど明日、二人とも家に来て欲しいのよ」


 そんな夕食中に静葉さんが唐突に言ったのは実家への招待だった。


「えっ……その、父は?」


「残念だけど明日は急な集まりで出てるから夕方までは居ないわ」


 それを聞いてホッとした。静葉さんは残念だと言うが父の根底は変わってなかったし会う価値は無いと思っている。だがそれより気になったのは綺姫の方で本人も疑問を口にしていた。


「私も……ですか?」


「ええ、お願い出来るかしら悪いようにはしないから、ね?」


 そう言われれば断る理由も無いし綺姫の行きたそうな顔を見て俺は実家へ戻ることを決意した。ちなみに竹之内先生とは明後日に再度ここで打ち合わせが決定している。それから静葉さん達を見送ると部屋に戻った。


「な、なんか凄い一日だったね……」


「ああ、弁護士連れ来るとは思わなかった」


「でも最初は驚いたけど竹之内先生っていい人だったね~」


 確かに味方でいる内は良い人そうだが考え方はシビアでドライだし何より弁護士という人種は遵法じゅんぽう精神が強いと思っていたが、あの人は俺の思い描いていた弁護士とだいぶ違ったように思えた。




「星明のご実家、ついにご挨拶だよ!!」


「そんな大仰な……明日は静葉さんと義弟おとうと香紀よしきしか居ないから」


 だけど前回も騙されたから父がいると考えて警戒する必要も有るかもしれない。俺自身の認識が甘かったのは先ほどの竹之内先生の指摘で良く分かった。いずれにせよ何が有っても綺姫と一緒にいられるように動くべきだ。


「でも弟さんとは初対面だし、お土産とかどうする?」


「あいつの好きな物か……知らないな」


「じゃあ八岐金融の人たちに持ってったケーキとかは?」


 それは良いアイディアだと明日の朝一で買いに行くことに決めた。明日は早起きだから今夜は控えようと言ったら珍しく綺姫も頷く。その拍子に浮かない表情をしてチラリと部屋の隅に視線をやったのを俺は見逃さなかった。


「綺姫もしかして調子悪い?」


「ううん……そうじゃなくて、これ……なんだけどさ」


「それは、さっきの旅行鞄?」


 二人が来たから中途半端になっていたが旅行鞄の整理をしていて、それで……そうだ綺姫が夏休みの最初まで付けていたカチューシャの話になって中断してたのを忘れていた。


「うん、それでこれ……なんだけどさ」


「ああ、綺姫がいつもしてたのだよね、最近はしてなかったみたいだけど」


 やはり髪が短いと必要無いのだろうかと思ったら綺姫の口から予想外の言葉が出て来た。


「これさ、昔、須佐井にもらったプレゼントなんだ……」


「そ、そう……なんだ」


 綺姫と須佐井の関係は何十年も続いてるんだからプレゼントの一つも貰っているのは当然だろうと俺は冷静になるとするが嫉妬心が込み上げて来るのが分かった。


「うん、だから付けないでいたの!! だってアタシあの時から星明のこと好きだったから他の男からの物なんて付けないって……捨てようって……」


「そっか……」


「うん、そうなんだ」


「じゃあさ綺姫……何で泣きそうなんだい?」

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