第92話 突然の接触と出会い その2
俺の指摘に綺姫はハッとした顔で俺を見た後にバツが悪そうにして最後には小さく蚊の鳴くような声で「ごめん」と呟いた。
「星明にはバレちゃってるんだ……ほんと、そういうとこも好き」
「大事にしてたんだね」
綺姫の話では昔、小学校低学年くらいに初めて二人でコッソリ祭に行った時に買ってもらった物らしく大事な思い出だそうだ。聞いてて俺の心中は穏やかでいられないが我慢だ。見苦しい嫉妬だし何より過去は過去だから……。
「うん、でも安心して今日でこれ捨てるから!!」
「綺姫……それは」
そう言ってカチューシャを取った手は震えていた。
「ううん、アタシが決めた……から」
「綺姫、本当に綺姫が良いと思うなら俺は反対しない……だけどね、その思い出が本当に大事なら……捨てないのも選択肢だと思う」
俺は自分で何を言ってるんだと思う一方でなぜか綺姫を止めたくて内から来る何かに突き動かされていた。不思議な感覚の衝動に心が締め付けられる。
「え? で、でも……」
「綺姫、思い出に罪は無い……それに物だけ捨てても綺姫の心の中に有る物は消えないし、悔しいけど綺姫とあいつは幼馴染だから」
変えられない事実というものは存在する。もし変えられるのなら変えたいけど人生は変えられないし何より過去を否定するのは今の綺姫をも否定する行為だ。俺は綺姫が好きなんだから受け入れることも大事だ。
「うん、昔これをくれた時は星明みたいに優しかったのになぁ…………あれ?」
そこまで言った綺姫の言葉が急に止まった……どうしたんだろうか? その顔は先ほどまでの過去の思い出を懐かしむ郷愁に似た顔から変わっていた。疑念に満ちた表情をしていた。
◆
――――綺姫視点
「綺姫?」
星明が私を不安そうに見ている。何か言わなきゃ、それとコレも捨てなきゃと思うけど私の中に一つの疑問が浮かび上がって来た。
(アタシって……引っ越す前に須佐井とどうやって知り合ったの?)
私は引っ越す前から須佐井と幼馴染で引っ越してから性格が変わって驚いたけどなぜか好きに……あれ? でも変だよ引っ越す前から幼馴染なら須佐井の家は何でこっちに有るの? 須佐井も引っ越したってこと? じゃあ何で私はその事を知らないの?
「あれ? どう……して?」
何で気付かなかったんだろう引っ越す前と引っ越した後の須佐井は別人みたいで、カチューシャをプレゼントしてくれた後、あいつのお父さんに見つかって叱られた時も私を庇ってくれて……あれ? 何か全部がおかしい。
「綺姫? どうしたの?」
「あっ、ご、ごめん星明……少し」
「とっ、とにかく綺姫これを捨てるのは簡単だ……でも俺はさ、全っ然!! そういうの気にしてないし捨てるのは少し考えた方がいいと思う」
まだ私と星明は付き合って一週間ちょっとなのに昔から知ってるみたいに今の星明の態度は丸分かりだ。だから無理して私を気遣うその優しさにズルい私は甘えることにする。
「うん、ごめんね……少しだけ時間ほしいかも」
「ああ、もちろんさ!!」
無理させてる……最低だ私、でもこういう優しいとこも昔の須佐井に似てて安心する。比べるのも最低だけど星明に惹かれたのは初恋が原因だと思う。
「本当に……ごめん」
「大丈夫……そ、それに俺も過去は色々有ったしね!! 理由は有るけど色んな女とそういう事したし、それに比べたら綺姫は過去の綺麗な思い出だけだから!!」
その瞬間、私は星明に悪いという気持ちと同じくらい怒りが湧いた。そうだった忘れてたけど星明は病気のためとはいえ色んな女とエッチしまくってるんだった。
「そうだよね……星明、アタシね今すっごくシたい!!」
「へ? でも明日は早いし……」
「いやっ!! 今からエッチしたいっ!!」
最後は強引に抱き着くと色々と有耶無耶になって昨日の夜と同じで、なし崩し的にエッチの流れになっていた。そして翌朝に寝坊して朝から大忙しになった。
◆
「到着よ、ようこそ我が家」
静葉さんに言われ私と星明は車を降りる。何となく大きいと予想してたけど予想通り白くて綺麗なお家だ。何となく見覚えが有る気もしたけどチラシとかで見たのかも知れない。
「変わってないな……」
「三年ちょっとじゃ変わらないわよ、さぁ綺姫ちゃんもどうぞ」
二人に続いて私は大きな洋風の門の隣の通用口を通った。そのまま庭を歩いて行くと途中で一つだけ大きな木に目が吸い寄せられる。
「綺姫? ああ、その木か……俺の部屋より高いんだ後で見る?」
「うん……そ、そうなんだ」
私はその木がなぜか懐かしく感じた。大きいから見たと言われればそれまでだけど気になって仕方なかった。なんか昔お世話になった……そんな気がする。
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