第79話 夏休みデビュー その1


「来た来た、遅いじゃんバカップル」


「タマ~!!咲夜!! 昨日振り~!!」


「アヤ、おはよ~……それと葦原も」


 綺姫が待ち合わせをしていると言って来たのは駅前だった。この場所で二人に会うのは何か新鮮で、だからだろうか俺の声は緊張して少し上ずっていた。


「ああっ……お、おはよう二人とも」


「な~に緊張してんの? 昨日までウチらバイト仲間だったんだし遠慮すんな」


「てかさ葦原バイトん時も海で遊んだ時も私らと普通に話してたんだし普段通りしてれば?」


 海上はまだしも浅間にまでフォローされるとは思わなかった。だから自然と俺の口は軽くなっていた。学校だろうと二人は仲間だとハッキリと確信できたから。


「ありがとう二人とも……やはり気後れしてたから助かる」


「大丈夫だよ星明、アタシがいるもん!!」


「そうだね、こんなに可愛いカノジョが居てくれるんだから大丈夫だね」


 そんな話をしながら俺達は四人で歩き出した。綺姫が俺の腕に抱き着いて離れないから自然と俺達を二人が囲む形になっている。そんな三人のお陰で俺は自分にちょっとだけ自信が持てたんだ。




「どしたの星明?」


「いや、何か視線を感じるんだ……」


 学校に近付くにつれ徐々に増える視線に俺は気が付いた。病気のことも有って学校では七月まで陰キャ&ボッチで通していたから気配には敏感なのだ。


「そうかな? いつもこんな感じじゃない?」


「ウチもそう思う……気のせいじゃね?」


 綺姫や海上が不思議そうにしているが違うと思う。やはり綺姫や海上それに浅間の三人と一緒にいるからだろうか、三人は一組の三ギャルなんて呼ばれているから自然と注目を集めている可能性は高い。


「いや、それは葦原が正解、私も経験あるから……」


「どういうことだ浅間?」


 浅間の話では聡思さんのために高校でギャルっぽく容姿を変えた時に俺と同じような感覚を味わったらしく今の状況は似ているそうだ。


「あっ、黒髪の可愛かった頃の咲夜でしょ?」


「まるで今は可愛くないみたいじゃんアヤ」


 そんな三人の会話を聞きながら適度に話にも混じっていたが視線がさらに増える気配を感じる。緊張するし病気のことも怖いと思っていると震える手をギュッと強く握り返された。


「大丈夫だよ星明」


「綺姫……うん、頑張るよ」


 だから俺も手を握り返した。両サイドにいる二人も励ましたり、からかったりと俺達を応援してくれているのが分かるから心強い。


「そうだ学校着く前に一つ報告あんだよね……」


「報告なんて改まって、どうしたん咲夜?」


 海上の疑問に答えるように浅間が照れ臭そうにしながら俺たちより一歩前に出て口を開いた。


「実はさ……四人が先に帰った後……私、聡思兄ぃに告ったんだ……」


「「「ええっ!?」」」


「綺姫が頑張ってたから、それに葦原もさ私が陰キャとかイジってストレス解消にしてた奴が真剣に恋してるの見て……私もって思ったんだ」


 朝の通学路に俺たちの声が響き渡るが今はどうでもいい、俺も結果が気になる話だし何より綺姫と海上が続きを促していた。


「それで!!」

「どうなったん咲夜!!」


「その、カノジョになりました……って、ううっ、恥ずいし……」


 だが、その答えに俺たちは疑問符を頭に浮かべる。ただのカノジョや恋人なら分かるが暫定という単語が気がかりだ。何となく嫌な予感がした。


「その……浅間、暫定というのは?」


「葦原、あんたが思ってるようなマイナスな感じと違うからね!!」


 俺の危惧に対して先に浅間が牽制を入れて来る。だが油断してはいけない浅間咲夜こいつは意外と抜けているのを最近知ったので用心すべきだ。


「え? 違うの咲夜?」


「アヤ!! あんたまでそう思ってたの!?」


 綺姫も俺と同じ意見だったようで素直に反応をしていて可愛い。さすが俺の女神だ純真無垢とは綺姫のために有る言葉だと実感する。


「葦原トリップすんな落ち着きな、それで咲夜どういう意味なん?」


「う、うん……最初はフラれたって言うか……妹みたいだから恋人には考えられないって言われてさ」


 だろうなと俺は聡思さんとの話を思い出す。あくまで浅間の事を妹のように大事な相手として見ていたのが聡思さんだったからその答えは当然だと思う。


「え? それじゃあ……」


「ま、まあ聞いてよ、それでさ私もアヤみたいに諦めないで食い下がったんだ。葦原に告った時のアヤの話を思い出してさ」


 つい数日前の話だ。皆には会話の内容だけを話しただけなのだが中身まで詳しいのは綺姫が話したからだろう……たぶん。


「ああ、あの時の綺姫は世界で一番、綺麗だった……」


「ちょっと星明、そ、そんな朝から恥ずかしいよ~、もう学校着くのに、嬉しい」


 そう言ってキスしそうになる俺達の間に入って海上が全力で止めていた。綺姫の魅力は魔法のようで往来にも関わらず抱き締める所だった。


「話が進まないからバカップル黙れ……で?」


「それで私とにかく必死でさ、そしたらクリスマスまでに返事するって、それまでに私をカノジョとして見れるか真剣に考えるからって、だからその間は暫定的にカレカノだって返事くれたんだ~」


 満面の笑みで言う浅間は綺姫の次くらいには輝いて見える。よく恋する乙女は強いと言うけど最近はよく実感させられる。だから俺は自然と口を開いていた。


「応援するよ浅間」


「うんうん頑張って咲夜!!」


 俺に続いて綺姫も親友の応援に全力だ。だが、この場で一人だけ水を差す、いや冷静な判断をしている者がいた。それは海上だった。


「いやさ要は意味合い的にお友達から始めましょうってやつでしょ? でも割とマズくね?」

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