第80話 夏休みデビュー その2
「どういう意味だ海上?」
「いやさ、先延ばしって割と危険って聞いたことあんだよね~」
「そうなの星明?」
そこで俺に聞かれても困る。なんせ
「そう、タマの言う通り……私が読んでる雑誌にもそう書いてあった……だから三人に頼みが有るんだけど放課後、時間いい?」
「それは……俺は大丈夫だが綺姫?」
「お買い物は後でも大丈夫、それより親友の力になりたいよ!!」
綺姫は前も二人の関係を気にしていたから結果は分かり切っていたのだが、やはり愚門だったようだ。
「ウチもやっぱりダメでした~じゃ気分悪いし手伝うよ」
「ありがと、じゃあ放課後ファミレスでお願いね」
そこで話を切り上げると俺達は校門前に到着していた。同時に朝から感じていた違和感は確信に変わる。見られていると……だけど今は綺姫と頼れる仲間がいるから大丈夫だ。
◆
――――綺姫視点
「星明、何だかんだで私も恐いんだよ一学期の最後の方いなかったし」
「そうか……じゃあ二人で乗り越えよう綺姫」
意外かもしれないけど私は私で皆に忘れられてないか怖かった。でも星明の力強い言葉で勇気が出てきた。
「普通に行こ二人とも」
「うん、ありがと……咲夜」
タマが「じゃあ開けるから」と言って先に教室に入って行くと次に咲夜そして私と星明が続いた。
「おはよ~、久しぶり~」
タマがクラスメイトの黒井ちゃんと羽根井さんことハネちゃんに声をかけていた。懐かしい雰囲気だ……私ちゃんと戻って来れたんだ学校に、この教室に戻れたんだと感動していた。
「あっ、タマさん!!」
「タマちゃんおひさ~、さくっちも……え?」
咲夜も声をかけていると二人の視線が私に向いた。そして私が口を開く前に衝撃的な言葉が私を襲った。
「え? だれ?」
「えっと、そのぉ……」
黒井ちゃんもハネちゃんも表情が「あんた誰?」状態だ。酷い……やっぱり皆、私のことなんて忘れてるんだと私は後ろの星明に泣き付いていた。
「ほ、星明ぃ~!!」
「綺姫、落ち着いて大丈夫だから……ね?」
頭をポンと撫でられると心が落ち着く。もう私には星明しかいないんだと泣きそうになる。だけど再び後ろから予想外な声が聞こえてくる。
「え? 綺姫って……アヤちゃん?」
「ええっ!? 天原ちゃん? てか後ろの男は誰よ!!」
星明に抱き着いたら二人が私を思い出した? でも何でだろ? 恐る恐る私が二人を見ると騒ぎに気付いた他の女子や一部男子も集まって来る。
「え? 黒井ちゃん……ハネちゃん? 思い出したの?」
「ごめ~ん、だってアヤちゃん髪とか、すっごく短いし声聞くまで分からなかった」
「そうそう、声聞いた後に顔見てやっと分かった、ごめん」
そうだった……私、髪の毛バッサリ切ってたんだ。そりゃ分からないよね夏休み前も一週間近く休んでたし……当然かと納得した。
「あと後ろの男子って誰? アヤちゃんの仲良い男子なんて須佐井くんくらいだし」
「う、うん……だ、だよね~」
そう言って二人や集まった他のクラスメイト達が困惑している。だから私は星明の方を見て頷くと昨日タマ達と相談した通りに動くことにした。
「アタシのカレシの葦原 星明くん……で~す!!」
「「ええっ!? カレシ~!?」」
一瞬の静寂の後に二人の叫び声が教室中に響き渡り一気に大騒ぎなった。
◆
――――星明視点
綺姫の宣言は予想以上の効果だった。蜂の巣をつついたようとは正に今の状況で教室は大混乱だ。そして俺の正体に気付いた人間も出始める。
「なあ、おい……葦原って、あの葦原か?」
「たしかアッシーだっけ? 須佐井くんにイジられてた陰キャ……」
その言葉が出た瞬間、綺姫の目の色が変わった。まずい……それは俺以上に綺姫が反応する危険なワードだぞ名前すら知らない男子生徒A&Bよ。
「あのっさぁ……そういうのアタシ嫌いなんだよね、斎藤くんと吉川くん」
「あ~あ、アヤの地雷踏んじゃったねぇ、二人とも」
海上の声がイタズラっぽく弾んでいるが男子二人の顔色は真っ青だ。だが、あれだけ可愛く女神のような綺姫が怒った所で特に問題は無い。むしろ可愛いんだが?
「そう思うのはアンタがカレシだからよ……葦原」
「浅間、どういう意味だ? あと心を勝手に読むのは止めてくれ」
「フツーに顔に出てんのよ、ど~せ『俺の綺姫は可愛いからビビんなくて良いのに』とか思ったんでしょ? それにアヤって意外と影響力有るし怒らせたら恐いのよ」
その答えにぐうの音も出ないから「その通りだ」と答えると特にクラスの女子がザワザワしている……なぜだ?
「あんたが普通に話してるから驚いたのよ。しかもアヤと同じで髪型も変わって完全に夏休みデビューしたからね葦原も」
「夏休みデビュー?」
海上の話によると夏休みが明け容姿、特に髪型や髪の色などを変え雰囲気までも変わって来る人間のことを言うらしい。確かに俺達に当てはまるな。
「あんたも髪切って見た目が変わったしね」
「ああ、本当に海上と瑞景さんには足を向けて寝れないな」
「分かってんじゃん、昨日の寿司も良かったけど今度また何か奢ってね」
そう言って肩をポンポンと叩かれた。その動きで周囲は一気にひそひそ話から悲鳴まで聞こえて来た。今度は海上と親しく話していたからだろう。だがここで問題が一つ起った。
「だから今後は……って星明!? 何でタマとか咲夜とか女子に囲まれてるの!?」
先ほどの男子二人に俺のことを注意していた綺姫が俺たちに気付いたが向こうから見たら俺は女子に囲まれて見えたらしい。
「いや、二人以外は遠巻きに見られているだけだよ」
「どんな理由でもダメ!! 星明はアタシの、アタシのカレシなんだから!!」
そういうと綺姫は再び俺の横に立つと腕に抱き着いた後に手を繋いで来た。いつものではなく俗に言う恋人繋ぎというガッチリ握るアレだ。
「あ、綺姫?」
「これが!! ラブラブな証拠で~す!!」
そして教室中に見えるように手を掲げ再度この場の全員に宣言していた。
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