第九章「止められない二人のカンケイ」

第81話 夏休みデビュー その3


「なんか勝者・葦原~!! みたいな感じでウケるんだけど」


「うん、葦原くんボクシングの勝者みたいになってる~」


 周りのクラスメイト達の言う通りウィナー星明~とか聞こえそうな勢いで綺姫は俺の腕を上げていた。宣言だから間違ってはいないが色々と変な感じだ。


「綺姫そろそろ……」


「仕方ないな~、でも手は繋いでててね?」


 それに頷くと綺姫は改めてクラスメイト達に新学期の挨拶を始める……ただし俺を連れてだ。



――――綺姫視点


「そうなんだよね~夏休み中ずっと一緒で、ね? 星明?」


「あっ、ああ……」


 星明が逃げようとしてたから手は握ったままだ。昨日、作戦会議したのに直前になって逃げようとするのはダメだから星明。


――――昨日(星明のマンション)


「学校での幾つかの問題点?」


「あるでしょ色々と」


 星明の言葉にタマがツッコミを入れているけど私も気になっていた。そしてサラッと瑞景さんのウニのお寿司を食べていた。


「あっ、俺のウニ……とにかく珠依たまえの言う通り学校に行くのに不安要素は有るだろ星明くん?」


「有るには有ります」(病気のこと、綺姫との関係それと最大の問題が……)


「そうだ葦原、例の音声データだけど……実はミカ兄に聞かせちゃったんだよね、ごめ~ん」


 タマの言葉に星明の顔色が変わった。星明にしては珍しく怒鳴って軽い言い争いになって最後はタマの方が謝っていた。星明が怒ったのに最初は驚いていたけど次の一言で今度は私が怒る番になった。


「悪かった、そうだな綺姫にさえ秘密にしてくれたなら……あっ!?」


「葦原、あんた油断し過ぎ」


 星明はまだ私に秘密が有ったのです。そしてタマとの秘密なんて……これは裏切り、浮気認定も辞さないと思ってジトーっと星明を見て声を出した。


「星明、例の音声ってな~に? アタシ知らないんだけど?」


「いや、それはその……」


 後でベッドの中で仲直りした時に聞いた話では私の声は地の底から聞こえるような恐ろしさだったらしい。


「星明くん、二人で一緒にって俺は言ったよね? 綺姫ちゃんも当事者だから知る権利は有ると思うよ」


「星明ぃ~、アタシそんなにダメ?」


 その言葉に星明は「ごめん」と一言謝って行ってしまった。落ち込んだのかと思えば何かを持って戻って来るとテーブルにそれを置いた。


「なにこれ?」


「ボイスレコーダーだよ綺姫、聞き終わるまで一緒に傍にいるから気を強く持って欲しい、いいね?」


「う、うん……」


 そこで録音されていた内容は最低だった。そして私は震えていた……もちろん怒りでだ。でも星明は私が顔を伏せ震えているのを泣いていると勘違いしたようで抱き締めて頭を撫でてくれた。


「綺姫……だから聞かせたくなかった、君を悲しませたくなかった」


(星明~!! もっとギュッとして~!! 頭撫でて!! 優しい声で囁いて~)


 もう少しこのまま星明には勘違いしてもらいつつ甘やかしてもらいたい。私に黙ってた罰の意味合いも有るから。だけど思い出しても私って星明に甘やかしてもらってばっかな気もする。とか考えていたらタマの声が聞こえた。


「あ~、アヤ甘えるのもほどほどにね、葦原が人殺しそうな目してるから」


「へ?」


「ちょうど学費は浮いたしジローさん経由で何人か雇うか……それとも、ブツブツ」


 星明が何か物騒なことをブツブツ言ってるんですけど……とりあえず私は顔を上げるとムッとした顔をしてみせた。


「綺姫? やはり君を俺は……え?」


「大丈夫だよ星明……アタシすっごい怒ってるだけだから」


 それにしても尊男いや須佐井は本当にクズだったんだと思うと私は心の中がスッキリした。心のどこかであいつにも何か事情が有ったのかもと私は、この夏の経験を通して考えたりもしていたが間違いだったみたい。


「そらキレるでしょ、これで私もあいつ見限ったしね」


「正直な所、同じ男としては最低な部類だ」


 瑞景さんのお墨付きも出たけど私は同時に星明の優しさを再認識した。星明は私がこれを聞いたら傷付くから聞かせなかったんだと確信する。


「でも相談して欲しかったな~」


「ごめん、綺姫もう隠してることは無いから」


「ほんとぉ~? じゃあ明日お願い聞いてもらおうかな?」


「いいよ、綺姫のお願いなら……何でもね」


 その後も私達は四人で対応策を話し合った。その中の一つが星明のクラスでの立場を明確にすることで、これはタマ発案で恋人関係を前面に押し出す作戦になった。


「当日は俺は居られないけど何か有ったら連絡してくれ、健闘を祈る」


「じゃあ葦原ウチらはそろそろ帰るから!!」


 その日は二人を見送ると私達は翌日に備えてすぐに寝る……なんてことはせずに私に黙っていた件の仲直りの儀をベッドの中でしました。凄く気持ち良かったです。



――――星明視点


「ふぅ、綺姫……なんか疲れた」


「今日が星明の本当の学校デビューだもんね」


 あれから綺姫に連れられ話した事のないクラスメイト達に次々と顔見せ&話をさせられていた。これも作戦だから仕方ないと思っていたら嫌な声が聞こえた。


「なんか盛り上がってんじゃん!! 俺がトイレ行ってる間に何かあったのか?」


「俺たちも混ぜろって、何だよ、ん?」


 いよいよ大本命のクズと腰ぎんちゃく共がやって来た。綺姫の手に自然と力が入りギュッと握られてると俺も強く握り返す。そして声の方に振り返った。

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