第156話 文化祭狂騒曲の表と裏 その3
◆
――――咲夜視点
先ほどまでの私の気分は最高だった。近所の年上の兄のように大事な幼馴染と念願の恋人同士になって文化祭デートで案内するなんて最高のシュチュエーションだ。
「なのに……なんでぇ」
「悪いな聡思、それにカノジョさんもよ」
「いや~、文化祭なんて初めてだから助かったわ」
なんと文化祭で私のカレシの聡思兄ぃの知り合いに遭遇し私が案内する流れになってしまった。何でも通っていた道場の人達で夫婦だと紹介された。
「大丈夫っす勇輝さん、それに師範も……そういえば今日はお子さんらは?」
その二人だが男の方は身長が180センチを優に超える大男で聡思兄ぃや瑞景さんより大きい。そういえば、いつぞやのメイド女の旦那と同じ位は有るかも。
「あの子らは留守番、今回は知り合いに任せて来た」
「なるほど、なら安心ですね」
安心しないで少しは私を気にして、私たち今日はデートなんだから少しは自覚を持ってお願いだから。
「ごめんね、咲夜ちゃんだっけ? 少し楽しんだら目的地に行くからさ」
「はぁ、それで目的地ってどこです?」
そして奥さんの秋津愛莉さん、茶髪で存在感が凄い元ヤンみたいな女の人だ。道場の師範らしいけど私のイメージでは白髪のお爺さんとかじゃないのと思ってしまう。こんな美人がいるとこに通ってたなんて……。
「えっと、どこだっけユーキ?」
「ああ、お嬢の指示では……三年一組の、何だこりゃ? 屋台屋だぁ?」
目的地はうちのクラスで私は当分の間この二人と一緒の行動が確定してしまった。午後からはタマと二人でウェイトレスだし私が連れて行くのが確定だろうと今日は諦めた。
(まだ明日よ、明日があるから!!)
なお私の願いは叶わなかったと先に白状しておく。
◆
――――星明視点
「じゃあ君の質問に答えると僕の現在所属している秋山コンサルタントは秋山総合商事という会社の子会社みたいな提携企業、有り体に言えばグループ傘下だ」
なるほど、なら俺のもう一つの疑問も解消されたに等しい。ここ最近ずっと頭の隅で引っかかっていた秋山という単語の正体が見えた。
「では、もう一つ……警備会社とかも……やってるんすか?」
この質問が本命だ。創業者が恐らく秋山さんという人間なのは想像に難くないが俺には別な意味が有る。この苗字は瑞景さんのバイト先と同じ企業名だったという点で気になっていた。
「詳しいね……その通り秋山総合警備保障、そこも関連企業の一つさ」
「あれ? それって瑞景さんの?」
綺姫が言うと俺も頷く。俺だけが質問するより二人で聞いた方が良さそうだ。綺姫がさり気無く俺の隣に座ると夫婦と対面する形になった。
「ああ、そうだ綺姫、でも偶然……にしては出来過ぎですよね?」
「いや偶然じゃないよ、君は、いや君達は狙われているからね」
その言葉に俺は驚いた。何らかの意図を持って接触をして来た可能性が高いと思っていたが初手から何も隠さずにネタバラシとは思わなかったからだ。
「ふぇ?」
綺姫の呆けた声だけが教室に響いたが周りは特に気にした様子が無い。いつもの俺達だと思われているのだろう。
「あれ、信矢もう言うの?」
「彼は賢い。下手に隠すより話した方が理解は得られるよ狭霧」
紙コップの緑茶を飲んでニコリと笑う春日井さんの大人のプレッシャーで気圧されそうになる。ジローさんとも四門さんとも違う。むしろ千堂会長に近い。あの女傑よりも圧は弱めだが笑顔の裏に何かを隠している。
「それもそっかモニカちゃん気にしてたし、警戒させるのも良くないね」
「その言葉で逆に警戒しますが?」
奥さんの狭霧さんの言葉は明らかに軽い調子だが計算かも知れない。旦那さんほどでは無いにしても夫婦そろって厄介だ。
「え? 何かマズった?」
「星明、なんでも疑うのは……自己防衛?」
「そうだよ綺姫、それに俺達は絶対に間違う訳には行かないんだ」
いい加減、蚊帳の外で監視されるのも限界だ。俺達の将来のためにも全ての問題を解決する必要が有る。だから目の前の大人を黙らせてやる。
「それは正解。でも時には誰かに頼るのも大事だと思うけど?」
「今まで頼れる大人がいなかったので、警戒心は強いんです」
「そうか……僕にも覚えが有る、大事な人を守るために周りが見えなくなるか、葦原くん、やはり今の君は焦り過ぎてるね」
確かに焦ってるかもしれない。だけどそれだけじゃない。目の前の人間は全てを見通してる物語の黒幕みたいで好きになれない。そういう余裕が有って何でも自分の思い通りに出来ると思っている大人は嫌いだ。
「そういう何もかも分かってますって感じ、全て計画通りで完璧主義者みたいなの俺は好きじゃ有りません……春日井さん」
「完璧主義者か……もがいて焦がれ才も無い器用貧乏の僕には過大評価だ」
「自分で器用貧乏なんて謙遜でも普通は言いませんが?」
もはや自分でも何を言ってるのか分からない状況下で俺は目の前の男と意地の張り合いをしていた。温和そうな人だがどこかで父の影を感じてるから俺は苦手なのかもしれない。
「ちょっと、これどういう状況よ、アヤ?」
「あっ、タマおかえり~!! 実はさ……」
戻って来た海上に綺姫が事情を説明しようとするが隣にいた人物の言葉で完全に空気が凍ってしまった。
「なっ!? バランサーの春日井信矢!? 王国支社のトップが何でこんな所に!?」
「ミカ兄?」
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