第155話 文化祭狂騒曲の表と裏 その2
「は? 意味が分かりませんが?」
「とぼけるのが上手だね……でも情報が筒抜けだと滑稽以外の何ものでもないよ?」
ブラフかと思うには当たり前のような軽い調子で言う春日井さんに俺は二の句が継げ無かった。まるで全てを見通しているかのような言葉で焦っていた。さっき俺は瑞景さんみたいだと思ったが訂正する。
(レベルが違う……下手すりゃ四門さん並みの大噓付き……でも、どうしてだ? 全部が本当にも聞こえる)
「と、まあ種明かしすると君らを保護しに来た」
「は? いやいや何言ってんすか?」
思わず敬語が抜けるほど焦る。完全に想定外の答えだ。保護って何からだ? それ以前に目的が保護って意味が分からない。
「こっちの都合だからね……とにかく事情を話したいから行こうか?」
「は、はい……」
最後は肩を組まれると連行されてしまった。だけど俺は気付いていなかった。この時点で既に俺は守られていた事を欠片も理解してなかったんだ。
◆
「うん、文化祭の料理にしては悪く無いよ信矢」
「そうだね狭霧……信歩も霧也も食べようか」
そしてリラックスして一家団欒を始めていた。ちなみに背中に背負っていた赤ん坊で次女の沙夜ちゃんは今は奥さんの狭霧さんが抱っこしている。
「紗夜はさっき飲んだから大丈夫よね~?」
起きて泣き出すかと思えば静かで大人しい。それに反比例して上の子二人は我がクラスの模擬店のヤキソバとタコ焼きを食べ品評している。
「パパ!! タコ焼き久しぶり~!! おいひ~」
「ヤキソバは母さんの方が美味しいかな」
二人は凄い正直だった。外国が長いとのことだが今は奥さんの故郷のアメリカに住んでいるのだろうか?
「どんどん食べてね~!! 今日は思いの外お客さん来てないし~」
「そういえば昨日とはえらい違いだ……」
俺達が戻るとタイミングよく客は減っていて二組だけで五人をすぐ案内できた。それは良かったのだが昨日の繁盛を思い出すと少し複雑だ。
「じゃあ葦原くん話をしようか」
「なっ、なんですか?」
すると待ってましたと言わんばかりに膝に娘を乗せて春日井さんが口を開いた。目も口元も笑っているのに俺には不気味だった。
「ダメだよ二人とも驚いてる、昔から信矢は真面目過ぎてダメダメなんだから……ごめんね」
だが春日井夫人いや狭霧さんの言葉で嫌な雰囲気は霧散した。それに、こんな美人に笑顔を向けられているのに俺の体が反応しないのも異常だ。
「い、いえ……俺も少し気になることが有るので答えてくれるのなら」
「何かな?」
だけど俺の体について何か知っているのなら逆に焦らして揺さぶりをかけるのも手だ。それに相手の虚を突くためのピースが一つ有る。
「秋山って……何かのグループ企業ですかね?」
「へえ、気付いたんだ……優秀だね僕の高校生時代とは大違いだ」
俺は見た春日井さんの口角が微かに上がったのをしっかりと見た。ならば攻め時だ。俺だって綺姫を守るために海千山千越えて来たんだ。そう思って反撃に転じようとした時、この祭では別な動きも起きていた。
◆
――――珠依(タマ)視点
「ミカ兄、じゃあ今日は仕事抜きなんだよね?」
「ああ、もちろんさ」
はいダウト。私は心の中で言って目の前の恋人の表情を見た。何が目的か分からないけどアヤと葦原を監視してるのは確実だ。じゃあ私との関係もそのため?
でも流石に違う。だって私との出会いは中学まで遡るから五年前。そもそも五年前じゃ葦原はもちろんアヤとだって知り合って無いから考え過ぎだ。
「ミカ兄、ウチの自由時間って午前中と午後に別れてたのに、何で午前中から来てくれたの? 忙しいんでしょ?」
「ああ、実は今日はオフでね」
(今日の監視は午後だけだから午前中はプライベートなのは本当さ)
ミカ兄の顔は本当っぽい。胡散臭いな……でも疑っても仕方ないし信じるべきか。そもそも私から何度も迫って、やっとカテキョの最終日に告って付き合った。
だから最後の一歩で私は引く時が有る。惚れた弱味っていうやつで葦原のことは笑えなかったりする。
「そうなんだ、じゃあウチの休憩中は教室行かなくて良いよね?」
「それは……そうだね」
(完全に疑われているな、ま、今日は午後から仕事だし問題無いか)
そこからは久々のデートだった。文化祭と舐めていてはいけない。クオリティは決して高く無いが下手な町内会の祭よりはキチンとしているのが我が校の文化祭だ。
「出資者が無駄に文化祭と体育祭には力を入れろって言ってるみたい、副担から聞いた話なんだけどね」
「そうか……どこでもスポンサーはうるさい、か」
(ここも三学院の一つなら出資者はうちのグループなんだろうな……)
最後に二年の演劇を見ると時間だった。少し早いが教室に向かおうと席を立ったタイミングで意外な人物と遭遇した。
「あっ……須佐井 詩月……さん?」
「おや君達は、そういえば会うのは必然か? 久しぶりだね」
目が合ったというより視線が吸い込まれたのは須佐井詩月の顔もだが隣の女性も問題だった。まさに美男美女といった様相で私服なのに目立って……あれ?
「今日は何の……用……え?」
「どうかした?」
「い、いや……詩月さん、な、何でスカートを?」
問題なのは件の須佐井詩月の私服がカッコいい系でまとめられてはいるがスカートを履いてる事だった。確かに美形だけど、これではまるで……。
「詩月あんた、ま~た女だって言わなかったんでしょ?」
「ミサ先輩、私は一度も自分が男だと言ってないのですが?」
その言葉で私は完全に固まった。同時に葦原が反応してたのは目の前の詩月さんが女だったからかと妙に納得してしまった。
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