第5話 出会った二人 その2


「何だ、おまえらさ?」


 最初に気付いたのは尊男で明らかに危なそうな連中なのに無鉄砲に近付いて突っかかった。


「あぁん? おっと失礼した君に用は無い、そちらの女性、天原夫妻の娘の綺姫あやひめさんですか?」


「えっと、綺姫あやきです……私に用ですか」


 そして私が尋ねて来た男性の方に答えると男の人が失礼と言った後に再度「本当にご本人?」と言ったから私は頷いた。


「オイオイあんたら誰だか知んねーけど俺を無視すんっ――――ぐぇっ!?」


「尊男っ!?」


 一緒にいた女性の方の肩を掴もうとした尊男はアッサリ投げられると尻もちを付いていた。柔道の段持ちだと自慢していたのに簡単に倒されて私は焦った。


「おい六未、ガキ相手にやめろ」


「うっさい兄貴、こいつ今アタイに触ろうとしたんだ」


「ガキのしたことだろうが、それより天原さん、ご両親の事でお話が有りますので一緒に来て頂けますか?」


「え? えっ、今日は親は家に――――「居ないから、あなたを待っていました確認しますか?」


 そして私は連行されるように自分の家に入った。尊男は未だに座り込んだまま固まっていて頼りにならなかった。そして何か有ったら開けるようにと言われていた戸棚を開けると手紙が二通入っていた。


『すまない綺姫、借金が1000万越えちゃったから後は頑張れ――――父より』


「えっ!?」


 そしてもう一通は八岐金融宛になっていて問答無用で男の方が手紙を奪い取って中身を確認すると頷いて私の腕を掴むと女の方に逃がすなと言って拘束させた。


「キャッ、痛い、離してよ痛い!!」


「うるさいね黙ってな!!」


 私はこの時、生まれて初めてビンタされた。どこかで親にもぶたれたこと無いのにとか聞いたことが有ったけど私も今まで暴力とは無縁だったからビックリして固まっていた。


「い、痛い、やめてっ……よっ……」


「おい六未止めろ、そいつはジロー兄さんの物だ傷つけんなバカ野郎が!!」


 何の話をしてるんだろうと私は自分の嫌な考えを否定していた。自分の話な筈が無いと現実逃避していた。


「ああ、じゃあ沈めるんだ、かわいそ~」


「え? え?」


 私をビンタした女が軽いトーンで言ったという言葉の意味は、さっき葦原が教えてくれたけど、この時の私は意味が分からなかった。


「詳しい話は車内でしますが先ほどの封筒の中には、ご両親からこちらの借用証書が入っており正式に頂きました」


 そこで見せられたのは額が1216万円也と書いてある紙切れで意味が分からなかった。そのまま私は女の人、八岐六未に拘束されて玄関から追い出された。


「いやっ!! いや、離して!!」


「はあ、うっざい黙ってな!!」


 ビンタを今度は反対の頬にされ泣き声すら上げられなくなった。涙目で外に出ると尊男は立ち尽くしていた。


「た、尊男!! た、助けて……私このままじゃ!!」


「ま、任せとけよ、この俺が!!」


「おいガキ……」


 ここまで冷静に対応していた男の方が急に低い声を出して尊男を一睨みする。今までの温厚な雰囲気と百八十度違っていて私も尊男も固まった。


「ひっ!? な、なんだよぉ……」


「余計なことチクったら家まで行くぞ、だが今回お前は無関係だ……どうする?」


 そう言うと私の家のドアを殴ってへこませた男、八岐吾郎は玄関の郵便受けと表札も殴って壊すと尊男を睨みつけた。


「ま、マジかよ……本当だったなんてぇ……」


「えっ!? た、尊男、た、助けて!!」


「やるか?」


「と、とんでもありません!! お、俺は何も関係ねえし知らねえ!! じゃ、じゃあ、さようならああああああああ」


 しかし私の願いも虚しく尊男は脱兎の如く逃げ出した。私の方なんて振り返らずに一目散に逃げ出し私はその後ろ姿をただ茫然と見るしかなかった。


「だっさ、テメーの女置いて逃げるか普通?」


「そ、そんな……」


 その後は車に押し込まれるまで抵抗したけど最後は鳩尾を殴られ気絶させられ次に目を覚ますと夜の街ここに居た。起きたら目の前に居たのが借金取りの二人で私は怖くなって泣いた。



――――星明視点


 話を聞くとその後はレナさんが来るまで泣き腫らし二回も逃げようとしたから六未さんに叩かれて顔が真っ赤になっていたらしい。


「てか八岐金融から逃げるなんて無理なのに」


「今日、一生分殴られたかも、痛い……」


 たぶん六未さんの感覚では撫でた程度だろう。あの人は確か極真空手の有段者で三段とか言ってた気がする。


「だ、だから私、酷い目に遭ったから、ねえ助けて!!」


「じゃあ金出せ」


「え?」


「金を出せば解決、最悪でも返済能力有りと判断されれば沈められる事は無い、今いくら持ってるんですか?」


「え、えっと……」


 彼女は制服のポケットから赤いがま口財布を取り出し中身をテーブルに出すと中から百円玉が三枚と十円玉が二枚それと一円玉が五枚落ちて合計325円。


「大人しく働こうか天原さん」


「いや!! 絶対に嫌ぁ~!! てかさ、これって違法じゃない? ほら弁護士とか呼べば何とかなる系のやつじゃないの!?」


「なるかもね……」


 善良な弁護士が動けば未成年に体を売らせるなんて行為は止める事は出来るだろうし間違いなく天原さんは被害者として救済される可能性は高い。


「じゃ、じゃあ電話だけ貸して葦原、後は自分で――――「弁護士費用は?」


「え?」


「その前に弁護士に知り合いは? 仮に解決した後に借金を返す当ては?」


 よく勘違いしているのが天原さんのような自分の都合のいいように考えるタイプだ。今時は正義の味方も金次第。地獄だけでは無く、この世の沙汰も金次第だ。


「そ、それはバイトをいっぱい頑張って……」


「バイトの時給は?」


「高校生だから880円……で、でもバイト週二から週四に増やすよ!!」


 話にならない。現実を知らなすぎて舐めてんのかと言いたくなるのを抑えて俺は冷静に言葉を吐き出した。


「仮に週四だとして君は未成年だから放課後に働いた額を概算すると一ヶ月で10万に満たないが、ここなら新人でも頑張れば一晩で10万も夢じゃない」


「えっ!? そ、そうなの!?」


 という部分が重要なのだが分かってなさそうだ。株を始めたばかりの頃の俺を見てるようで嫌になる。


「マージン取られても朝から晩まで仕事して、チップを弾んでくれる太客でも居れば10万越えは余裕かな、とにかく普通に働くより稼ぐ事はできますよ?」


 悪く無いだろうと俺が言うと天原さんは一瞬いいかもと考えた後に首をブンブンと振っていた。思ったより彼女は強情だった。

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