第8話 始まったウソと契約 その2


「じゃあ確かに前金で1000万、残りは明日までだ」


「はい、ありがとうございますジローさん」

「あ、ありがとうございましたぁ~」


 俺と天原さんは二人で土下座していた。そして目の前にはジローさんのPC画面に送金の完了を示す画面が出ている。


「まだ礼を言うには早い、いいかセイメーそれに天原の嬢ちゃん、こんな取引は普通じゃ絶対に通らねえ、それは分かってんな!!」


「はいっ!!」

「はいぃ~」


 俺が返事をした後に天原さんも返事をするが声が上ずっていた。これは仕方ないだろう。だが俺達は土下座したまま下で顔を見合わせると作戦の成功を確信した。


「分かってると思うが残り二百万、キッチリ俺に渡して始めて天原の嬢ちゃんは自由の身だ、分かったんなら今日は二人とも泊ってけ雨凄いからな外」


 それだけ言うとジローさんはシッシッと手を振るから俺と天原さんはジローさんの部屋を出て先ほどの部屋に戻った。


「う、上手くいったね葦原!!」


「ええ、何とか及第点……あの人が善良なヤクザで良かった」


 俺が紙コップに水を入れて渡すと二人でそれを飲んで人心地が付いた。そして互いに目が合うと笑っていた。


「その言葉も何か変な感じだけど、ね?」


 そう言って天原さんは俺の腕に抱き着くと学校よりも近い場所で、しかも普段の笑顔よりも何割り増しか可愛らしく見えて俺は困惑する。


「天原さん演技はもうしなくても」


「えっ? で、でもさ、これから協力していくんだし、これくらいは」


「先ほど話しましたよね……俺の病気のこと」


「あっ、ごめん……そうだった」


 そこで俺は先ほど、この部屋でした話を天原さんともう一度ちゃんと確認することにした。二人で交わした契約の話だ。



――――綺姫視点


 私は舞い上がっていた自分を落ち着かせると先ほどの話を思い出す。彼にキチンと答えて欲しいと言われドキドキした。エッチの時も優しかったし何より彼の真剣な眼を見ると不思議と信じられる気がしたから。


「う、うん……そりゃ知らない人よりは葦原の方がいいけど」


「実は俺にも事情が有ります。そのために夜ここでバイトしてますが……でも出来れば来たくないのが本音です」


 その言葉は少し意外だった。尊男や仲の良い男子はエッチな事に興味津々で私の胸とかパンツとか見ているのはバレバレだ。だから、こういう系のバイトなら喜んでるとばかり思っていた。


「そうなの?」


「俺だって本当は裏社会となんて関わり合いになりたくないし、それに殴られたくも有りませんよ」


 言われてみれば確かにそうだ。借金取りの二人も恐かったしジローさんも、そしてレナさんって女の人だって私は普通に怖かった。


「だから天原さん……俺が君を買う、それで俺専属になってくれませんか?」


「えっと、うん……えっ!?」


 勢いで返事をした後に私は詳しく話をして欲しいとお願いした。彼は、葦原は困ったような顔をして私に話をしてくれた。


「つまり君の借金を俺が全額返す。その代わり君には俺の専属で、さっきのような行為をして欲しいって意味です」


「えっ、そ、それって……私の事が好きってことっ!?」


 親や幼馴染に見捨てられたけど気になってた男の子が助けてくれるとか少女漫画の見過ぎじゃないだろうか、私は基本立ち読みしかしてないけど。なんて浮かれていたら彼の次の発言は予想以上に最低だった。


「どちらかというと君の体が欲しい」


「さいって~!! エッチ目的とか最低だよ葦原!! そういうの純愛じゃない!!」


 やっぱりケダモノだった。初めてだった私を優しくリードしてくれて嬉しかったけど……でも最低だ!!


「まあ、そうなりますね……まず俺の病気の話を聞いてくれますか?」


「病気って……まさかエッチしなきゃ治らない病気とか……え? ま、マジ?」


 私が冗談半分で言った言葉で葦原の顔色が変わったのが分かった。いつもの学校での苦しそうな眼になっていて私は今更ながら彼の地雷を踏んだのを理解した。


「性依存症って知ってますか?」


 少しの逡巡の後に彼が言った言葉に素直に知らないと答えた。だろうねと葦原は言うと唐突に私でも知っている有名なスポーツ選手の名前を口にした。


「私も知ってる、交通事故起こした人だよね」


「ええ、それも酒を飲んでね……だけど本当の原因は性依存症だったらしんです、セックス依存症というのが俗称です」


「じゃあ、まさか葦原も?」


 私の問いかけに葦原は性依存症、セックス依存症について説明をしてくれた。簡単に要約するとセックス、性行為の事が気になり過ぎて日常生活に支障をきたすレベルで影響が出るらしく私が思っていたより深刻だった。


「小学生の頃には発症してたようで、気付けば女なら誰彼構わず興奮するような変態の出来上がりさ……」


「そうだったんだ……ごめん、アタシ知らなくて」


「もう慣れた……それで、この症状ですが最近は不眠症も有ってね」


 そうなんだと流しそうになったけど不眠症の割には、さっきまで私の横でぐっすり寝ていたから疑問で聞いてみたら葦原もその話がしたかったらしい。


「え? アタシとエッチした後だけ眠れた?」


「ああ、理由は不明ですが……それに俺が夜の街でこういうバイトとか女性を買っているのも症状を一時的に緩和するためなんです」


 色々な治療法を試したけど葦原には効果が出なかったらしく医者の話では厳密には性依存症に似た別の病気で根本的な治療法は模索中だそうだ。そこで独自に色々と試した結果、症状の緩和には性行為が一番効いたらしい。


「でも、それって……解決には」


「ええ、一時凌ぎな上に悪化する可能性も高い……実際、俺は不眠症になった」


 それを聞いて私は頭の中で今の話を整理する。難しい話は分からないけど一つだけ分かったことが有った。


「つまり……葦原とエッチをして助ければいいの?」


「助けるって……まあ俺は治療だと思ってるけど、その通りかと」


 それだけ言うと葦原はやはり困ったような顔をしていた。だから私は少し考えた後に答えを出した。


「うん……分かった、じゃあ葦原、私を買って!!」

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