第9話 始まったウソと契約 その3
◆
――――星明視点
俺と天原さんがジローさんや大人たちを騙すために考えた作戦は互いに惹かれ恋に落ちたという一目惚れ作戦だった。
「いや天原さん、俺が金を使って無理やり納得させたって話の方が向こうは納得すると思うのだが……」
「いいの!! こういうのは、え~っとビジネスより……恋愛の方が色々と上手く行くと思うから!!」
彼女に根拠を聞くと昔読んだ少女漫画に書いて有ったと答えられ俺は頭を抱えた。無理だと反対したが彼女はなぜか恋人の振りをすることを強く望んだ。ここで強く反対して契約そのものを取り消すと言われても困るから最後は俺が折れた。
「てかさ葦原は私と恋人……の振りするの嫌?」
「いえ、ただ天原さんが俺に気を遣ってるのかと」
「嫌だったら、こんなこと言わないし……」
嫌じゃないなら俺としても賛成だ。なんせ偽物とはいえ生まれて初めての恋人だから嬉しいと伝えたら天原さんは驚いていた。
「ええっ!? カノジョ居たことないの!? あんなにエッチ上手いのに!?」
「こんな病気持ちですからね、だから俺は彼女いない歴イコール年齢です、あと上手いかどうかなんて分かるんですか?」
経験人数だけなら素人童貞の俺は同年代に比べ圧倒的に多いと思う。それこそアダルトな映像作品の男優と同じくらいは有るだろう。
「私は葦原が初めてだったけど……でも聞いてたのより良かったし」
「女性には常に気を遣えと、この街の女性に教えられましたから」
「ふ~ん、そうだよね!! さっきの人みたいな美人と代わるがわるエッチしてたら上手になるよね、そうですねっ!!」
なぜか途中から不機嫌になった天原さんを落ち着かせ最終確認をすると方針は決まった。その後のジローさんとの話し合いは俺の想定していた流れとは違い数分で終わっていた。
「まあ、惚れちまったんなら仕方ねえか……」
「えっ?」
俺の予想ではもっと根掘り葉掘り聞かれると考えていたがジローさんはアッサリ引き下がった。それから説教された後に具体的な取引の話になり俺のネットの口座から送金し部屋に戻ったのが現状だ。
◆
「てか普通にスルーしたけど、葦原ってお金持ちだったんだね」
「現在の資産額にしたのは自力ですよ」
元手は親からの仕送りを貯めた金だった。ちなみに毎月30万ずつ仕送りが今も振り込まれている。家を追い出されマンションで一人暮らしを始めた時から毎月だ。そして俺は早く独立するため株などの投資を始めて資産を増やした。
「アルバイト代そんなに良かったの? その……女の人とエッチするのって」
「あれはジローさんが小遣いくれるだけで、むしろ症状を抑えるのがメインです」
だから本業は株やFXだと言うと彼女は露骨に顔をしかめた。そして、その理由は彼女の次の一言でよく分かった。
「お父さん……普通のリーマンだったけど株で大失敗して、それで元の家から今の家に引っ越して来たんだ」
「株はハイリスクハイリターンな面も有りますから……ただ、しっかりとした情報と理論があれば違うんですよ」
「うちは違ったみたい……それからは、ずっ~と貧乏で……そういえば去年、まとまったお金が出来たから最後の勝負だ~とか言ってた」
その時に八岐金融に借金をしたのだろう。そして逃げ出した中年夫婦を探し出す手間より若い娘を風呂に沈めた方が稼げると考えたに違いない。あの八岐金融のブレインなら考えそうな手だ。
「四門さんらしいな」
「シモンさん? 外国人?」
「違うよ八岐金融の八岐
八岐金融は一族経営の闇金融だ。闇金のくせして堂々とビルを所有していたり警察のガサ入れを何度もかわしてる相当なやり手が現社長で、四門さんはそこの長男で次期社長候補だ。
「あっ、ムツゴローコンビの!!」
「それ本人達の前で言わないで下さいよ、特に六未さんが怒るから」
あれで意外と乙女だからと言っていたら時間は既に日付けが変わる時刻で天原さんは大きなあくびをしていた。色々と大変な一日だったし当然か。
「じゃあ寝よっか、アタシ、ベッドで寝るの久しぶり~」
彼女はそう言うと頭の赤いカチューシャを外してテーブルに置くと大の字になってベッドに横になった。
「ええ、では俺はソファで……」
「ベッド大きいし二人でいいでしょ、もう今さらだしさ、ね?」
確かに彼女とは契約をしたし問題は無いかもしれない。だが仕事とプライベートは分けるべきだと悩んでいると強引にベッドに引っ張られ一緒に寝る事になっていた。
「我慢できるか怪しいので覚悟しといて下さいよ」
「だ、大丈夫!! むしろ任せて!!」
そして俺の予想通り、その夜の激しい雨と雷鳴で目覚めた俺は彼女の世話になってしまった。あくまで体だけの関係なのに彼女から名前で呼んでと言われ俺も思わず名前で呼んで欲しいと答えていた。そのまま気付けば朝まで熟睡した。
◆
「そんで寝坊か、いいご身分だなセイメー、それに嬢ちゃんも」
「「すいません」」
翌朝、雨は小降りになっても降り続いている中でジローさんお手製のベーコンエッグとトーストをご馳走になりながら俺達は説教されていた。
「ったく、まあ昨日あんだけ盛ってりゃ疑ってた俺がバカみたいじゃねえか」
「え? 疑ってたって何をですか?」
あんだけデカイ声なら嫌でも聞こえると言われた。しかも声が大きかったのは俺の方だったらしい。
「俺はセイメーが嬢ちゃんに同情して逃がそうって考えたのかと思ったんだ」
ギクッとした。俺は顔に出て無いかが気が気じゃなかったのに隣の天原さん、いや綺姫は朝から厚切りベーコンなんて贅沢だ~と言って聞いてなかった。
「ま、まさか……俺がジローさんを騙すはず、ないじゃないですか」
「まあな、でも良かったのかもしんね~な、これでよ」
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