第十九章「決戦前と二人の関係」

第181話 絡み合う陰謀 その1

――――星明視点


 どうすべきか俺は選択を迫られていた。非常に厄介な選択で一歩間違えば大変な事態を招くと思われる選択だ。


「どうするの星明?」


 真剣な目で見つめるのは最愛の恋人で幼馴染と判明した綺姫。この選択次第で俺たちの運命も決まってしまう。そんな緊張感の中で俺はゆっくり息を吐き宣言した。


「こっちだ……」


「はい、ウチの上がり、いや~運が無かったね葦原?」


 俺が海上から引いたトランプがジョーカーなのを確認し絶望した。そして横に立っていた浅間の無情な宣告が教室に響いた。


「はい、じゃあクリスマス会の実行委員は葦原で決定!!」


「ま、待ってくれ、!! 今年は綺姫と初めてのクリスマスを!?」


「負け犬に言論の自由は無い!!」


 海上が言うとクラスは賛成の声で溢れた。悔しいが最後までババ抜きで残り最後は敗北しクラス最弱になった俺には何も言えなかった。弱者にも言論の自由を!!


「くっ……すまない綺姫、俺は敗北してしまった」


「しょうがないよ、それにイブだけだし本番は一緒に過ごそ?」


 ちなみに俺が委員に確定してすぐに女子の委員には綺姫が志願していた。そもそもクリスマス会とは何かというと発端は俺と綺姫だったりする。


「今年は無駄に学園祭が盛り上がったのと併せて、校内での悪い噂の火消しに必死だから追加された謎の新行事!! ですが私には陰謀の匂いがします、事件です!!」


 そして小野は絶好調だった。相変わらず引退した部活にOGとして無理やり復帰し後輩たちと楽しく陰謀論をバラ撒いているらしい。


「じゃあ今日は解散、ウチら用事有るから先生んとこには二人でお願い」


「二人とも頑張って、私も今日はデートだから!!」


 海上の号令と浅間のデート報告で解散となり俺達は職員室まで行く事になった。


「失礼します……工藤先生」


「委員は君達に決まったようだな」


 椅子をクルっと回転させ振り返ったのは先月から世話になっている工藤彰人先生。俺と綺姫は彼の監視下にあった。そしてクリスマス会だが本当に陰謀は有って千堂グループ出資によって発生した行事だった。


「これが望みでしょう?」


「そう言うな……会長も直接会って話したいそうだ」


 実はクリスマス会で俺と綺姫は千堂グループ総裁で千堂本社の会長の千堂七海との会談が要求されていた。もちろん拒めないが代わりに向こうも強硬手段は取れないという取引になっていて応じるしか無かった。




「でも星明、七海さん入院してから何も言って来ないし、普通に大丈夫じゃない?」


「そうだといいけど……」


 もう11月も終わりで明日から12月だ。ここ最近、俺達は穏やかな日々を送っていた。監視と言っても工藤先生は風紀に口うるさいだけで極力介入せず本当の教師のように対応しているだけだ。


「信矢たちも何も言って無いだろ?」


「ええ、まあ」


 そして下の階で俺と綺姫を監視している春日井一家も基本的には週に一度くらい一緒に会食をするくらいで綺姫は子供たちや狭霧さんと会うのを楽しみにしているくらいだ。でも信矢さん達は目の前の工藤先生とは違い定期的に言っている事が有る。


『七海先輩は最後の最後で予想外の動きするから基本は信用しないように』


 信矢さんが言うと狭霧さんも『アレさえ無ければね……』と苦笑していた。そもそも今回の騒動も七割はそれが原因らしいが詳細は教えてくれない。二人の話では案外しょ~もない話らしいがトップシークレットだそうだ。


「とにかく会って欲しい、あれで意外と繊細な所も有るんだよ彼女は」


「そうなんですか……」


 過去に一度あの女傑とは対峙したがプレッシャーが凄まじかったし父への対応や今までの行動から、そういう風に見えなかった。自信の塊が服着て歩いてるというのが俺の印象だ。


「じゃあ先生、アタシ達は帰ります!! 」


「ああ帰り道には気を付けて、寄り道もほどほどにな?」


 職員室を出ると俺達は溜息を付いた。こんな感じで若干の窮屈さを感じながらも今の日常に慣れ始めていた。だが俺たちの束の間の平穏は少しずつ崩れ始めていた。


「今日は買い物どうする?」


「大丈夫だよ、明日はお醤油と卵が安いからよろしく~!!」


 そんな話をしながら歩いているとマンションは目の前だ。しかし俺たちの足は自然と止まった。原因はマンション前にいる怪しい二人組だった。


(綺姫、気を付けて……)


 俺が小声で言うと綺姫は無言で頷いた。警戒するのは当前で二人組は茶色いローブを頭からスッポリ被って直立不動だったからだ。どことなく外国の民族衣装に見えなくも無いが違和感バリバリで不気味だった。


「っ!?」


「おおっ……」


 しかも目が合うと二人組は俺を見て明らかに反応していた。そして感嘆したような変な声を上げて去って行った。もう怪しさ満点だ。


「何なの……今の人たち?」


「分からないけど信矢さん達に言うべきだ」


 綺姫が頷いてマンションに入ろうと話していたタイミングで不意に後ろから声がかけられた。


「それには及ばないよ見ていたからね」

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