第59話 災難は続くもの その2


「分かった、てかウチらじゃ相手は無理だし頼んだ」


 海上の言葉に頷きながら抱き締めていた綺姫が顔を真っ赤にしてボーっとなっている。少し休んでから戻って来て欲しいとだけ言うと、この場を浅間に任せ俺は海上と一緒にバックルームを出た。


「まあ、海上の言う通り悪人だしヤクザだが彼らなりのルールは有る。対応を間違えなければ普通に問題無いさ」


「そういうのは普通の人は知らないし言わないからね葦原。でも、さっきのはポイント高かったよ、綺姫も落ちる寸前ね」(いや落ちてんだけどね実はもう)


 廊下を歩きながらこのバイト始まって以来の絶賛に驚くが俺には自覚も自信も無かった。そもそも先ほどの行動が正解だと思っていない。ただ俺は自分が恋人だったら必ずやる事を実践したに過ぎないからだ。


「思わず出た行動で綺姫は嫌な思いをしてないだろうか……我ながら抑えが効かなくて、そこが不安だ」


「あの顔見てそれ言えるのは鈍感通り越して呆れるわホント」

(もう言ってもいいよね? てかウチ頑張ったよね?)


 今の言い方ではまるで綺姫が俺に夢中みたいじゃないかと言うと溜め息を返され、やっぱり減点だと言われた。意味が分からない……いや、まさかな。



――――綺姫視点


「ね、ねえ咲夜……」


「ど~したのよ?」


 星明たちが出て行ったのを見計らって私は動悸の収まらない胸を押えて親友を見た。自分でも分かるくらい顔がニヤニヤしているのが分かるし星明には見せられない顔だと思う。


「カノジョになれたら毎日こんな感じになるのかなぁ?」


「いや、葦原ってあんたに毎回あんな感じでしょ?」


 それは違うのだよ咲夜くん。今回はいつもの遠慮した感じが無くて言わば珍しい星明の素がさっきの状態。私には分かるのですカノジョのフリしてるから!!


「と、いうわけで違うんだよ」


「いやいや毎回あんなんでしょ?」


「ううん違うよ、だってエッチの時より優しい目してたから」


 星明の夜が凄いのは毎回なんだけど何度か怖い時が有った。たぶん病気のせいだと思うし次の日には元に戻ってたから私は気にしていなかったけど星明は割と気にしてたんだと思う。


「ちょっ!? あんた何言ってんのよ!! そう言うのは……その」


「あっ……そっかぁ、咲夜って~、まだ処女だもんね~♪」


「くっ、あんた前に言ったこと、まだ根に持ってんの?」


「べっつに~」


 根に持ってるって言うより休み時間とか毎回マウント取られてたのを逆に取り返してるだけだから違いま~す。


「悪かったわね……聡思兄ぃがさ、急に変わっちゃってイライラしてて引っ込みつかなくて……話盛ってた」


「そういえば社会人とか具体的な話を出して来たの最近だもんね」


 去年まで咲夜は彼氏はいると言うだけで具体的な話は出さずに、ただ明るくて年上の人ってだけで今思えば情報が曖昧で小出しだった気がする。


「だって予定では去年の内に告って付き合ってるはずだったから……それなのに急に陰キャになって、事情話してって聞いても何も……」


「ふ~ん……てか付き合うはずって、約束とか脈アリだったの?」


「まあね、だって聡思兄ぃは私が部屋に行く度に毎回可愛いって褒めてくれたし、天井裏のエロ本は全部ギャル系だったし!! 周りも私以外は女っ気無いし!!」


 咲夜の情報源はメインがそれだったらしい。ギャルとの付き合い方やギャルの本音などの情報誌が多く有って咲夜はそれを元に私にアドバイスしていたそうだ。でも自信に対して根拠が弱いと思うのは私の気のせいかな?


「そ、そっか咲夜も大変だったね……じゃあ片思い同士がんばろっ!!」


「いや、あんたはもう大丈夫でしょ……」


 皆そう言うけど私と星明の関係は契約のみで私は星明の物だと主張し続けているから傍に居られるし、あとは星明のお情け込みだ。この建前が無ければすぐにでも離れなければならないと私は思ってる。


「そうかな、でもアタシも事情分かったし星明もサポートしてくれると思うから皆で頑張ろうよ!!」


「ふぅ……ほんとアヤは良い子だね。友達で良かった」


「ノンノン違うし、咲夜とアタシとタマも親友でしょ?」


「アヤ、あんた葦原のこと優しいって言ってるけど、たぶん似た者同士よあんた達」


 それだけ言うと咲夜はギュッと私を抱きしめた。星明に抱きしめられた時と違ってドキドキはしないけど咲夜と本当の意味で親友になれた気がした。


「じゃあ行こっか、そろそろ表も気になるし~」


 そしてバックルームから戻った私たち二人が見た光景はこの世の終わりだった。星明が七瀬さんと呼んでた女の人と黒髪の大人しそうなセミロングの女に抱き着かれ両側からキスされていたからだ。


「あっ……ああっ!?」


「さ、聡思兄ぃ……聡思兄ぃが……寝取られたああああああああああああ!!!」


 そして横の咲夜は今叫んだ通りで警戒していた茶髪の女にヒールで踏みつけられ変な顔してる八上さんを見て絶叫していた。どうしてこんな事に……。




「ちっ、違うんだ綺姫、こっ、これには事情が!?」


「あ~、これは割と葦原が可哀想な展開ね……同情するわ」


 普段より焦ってる星明とニヤニヤしているタマを見て訳が分からなかった。私たちって親友だよね、そうだよねタマ……裏切りは許さないよ!!


「星明、どういうことか、説明して……欲しいかな~?」

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