第139話 意外な接点 その1


 俺達は時間も無いからと明くる日の放課後から動く事にした。今回は俺と綺姫だけで四門さんに会いに行く予定だったが自分の事だから付いて行くと聡思さんも同行することが決まった。


「聡思さん一応は気を付けて下さい。本物の金貸し屋で真っ黒ですから」


「お、おう、分かってるよ……」


 場所は向こうが指定して来た例の本社ビルだ。綺姫は前と同じようにお土産を用意している。しかも金貸し屋に行く格好とは思えない上品な白のワンピース姿だった。気のせいでは無く明らかに道行く人間が振り返っている。


「どうしたの星明?」


 綺姫の疑問に笑顔で何でも無いと言いながら、さり気無く周囲の男からの視線を遮る位置に常に移動する。俺の動きに聡思さんは苦笑していた。


「いや、浅間や海上は上手く動いてるかなって……」


「大丈夫だよ、タマもだけど咲夜も仕切るの意外と上手いんだよ~」


 姫星祭の準備を二人に任せて今日は来ている訳だが、実行委員長も副も居ないのはまずい気がすると咄嗟に言い訳していた。


「そうか、あの泣き虫が……」


 聡思さんは前に話してくれた浅間の幼少期の話をして二人で聞いている内に目的の八岐金融の本社ビルに到着した。今日も陰鬱なモスグリーン色のビルを見上げた後に俺たちはオフィスまでエレベーターで直行した。


「ようこそ、そっちは新顔か?」


「はい、四門さん。お久しぶり……で良いですか?」


「ああ、お前の実家で会って以来だ、今日はどうした? 後ろの兄ちゃんの借金の相談って訳じゃねえんだろ?」


 四門さんとは綺姫の両親と遭遇した時以来で、前に会った時も情報を集めるとか言っていた。だから俺達は情報を求めてやって来た。話している途中に当たり前のようにムツゴローコンビも入室した。


「今日は情報が欲しくて来ました」


「情報? 嬢ちゃんの件はケリが付いたろ? それとも親の方か?」


「いえ、今日は別件で聞きたい話が……」


 そこで聡思さんを四門さんに紹介し事情を説明すると本題に入った。


「つまり俺はガキの復讐ごっこのために情報を出せと?」


「いや、四門さん言い方が……」


「良いんだ星明……その通りっす」


 身も蓋も無い言い方だが実際その通りだ。俺みたいに個人的な繋がりも無ければ綺姫のような因縁も無い完全に表の人間なのが聡思さんで本来、関わり合いになるべきじゃない者同士だ。




「まあセイメーには妹が……ナナが迷惑かけたってジローからも聞いてる。だから特別に受けてやる、サインしな」


「はい、ありがとうございます!!」


 四門さんはジローさんよりルールや仁義にうるさい方だと思う。でも同時にビジネスライクでも有るから金さえ出せば仕事はやってくれる。そして最後に聡思さんが署名していた時だった。


「待ちな、お前、八上聡思っていうのか?」


「え? は、はい……」


 突然、今まで置物だったゴローさんが呟いた。さらに反応したのは隣にいた六未さんもだった。この二人が仕事以外で喋るのは珍しいと思っていたらゴローさんが更に聡思さんに近寄って顔を確かめるように見た。


「もしかして……お前も門下か?」


「は? 門下って、まさか覇仁館の?」


「やっぱり同門か、お前」


 門下や同門? どういう意味だろうか思わず隣の綺姫と顔を見合わせるが四門さんも不思議そうな顔をしていて蚊帳の外の雰囲気だ。


「おい説明しろ」


「ああ、兄貴、コイツ俺らが世話になってる道場の弟弟子だ、道場で名札を見てな若いのに俺らと同格だった時期が有って覚えてたんだ」


 そういえば六未さんも空手やってたしゴローさんも普通に強い、そして聡思さんも高校までは部活で空手だった。三人は空手繋がりなのかと納得した。だが少し答えは違った。


「護身術の道場だ、気信覇仁館って言ってな隣の空見澤市にある道場だ」


「あの街かよ……」


 四門さんが言うと俺も綺姫も苦笑する。だいたい一週間前に俺たちも祭に参加して来たばかりだったから記憶に新しい。


「ね、星明そういえば愛莉さんも師範代とか言ってなかった?」


「そういえば香紀の道場……って、どうしたんですか?」


 今度は俺と綺姫の話にムツゴローコンビと聡思さんが固まっていた。


「秋津師範を知ってたのか」


「愛莉姐さん知ってんのかよセイメー!?」


 どうやら弟の通っている道場と三人の通っている道場は同じだったらしい。言われてみれば俺は香紀の通っている道場の名前を知らなかった。しかも話によると例の弁護士の竹之内先生も門下らしい。


「竹之内妹とも知り合いとは……」


「竹之内霧華って、あの女弁護士か……」


「あれ? 四門さん知り合いなんですか?」


 ゴローさんや六未さんは同門ということも有って急に聡思さんに気安くなっていたが逆に四門さんの顔が渋かった。竹之内先生の話が出た瞬間に露骨に顔色が悪くなっている。何か有ったと見るべきだろう。


「ま、まあな……」

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