第16話 彼の心の闇
「ここから意外と遠い……って料金も高い……」
俺達が任されたレビュー先は少しリッチな空間と時間の提供を目指しているらしく全体的に高めだった。なるほど、この料金体系なら手が出ない人も多いだろう。
「行きだけなら車出してやろうか?」
「吾郎さん、いいんですか?」
俺と綺姫の二人を下まで送ってくれたのは吾郎さんで今の呟きを聞いていたのか、そんな提案をしてくれた。
「ああ、そもそも元は俺の客の仕事でな一週間前に急に逃げやがった」
「それはまた……でも何で八岐金融がその人の仕事を?」
「そいつを追ってたら逆にホテル側に泣きつかれてな……」
その客というのがレジャー誌のルポライターだったそうで仕事は出来たがギャンブル好きで八岐金融からも多額の借金が有ったらしい。でも毎回ギリギリ借金は返済していたから油断していたとのことだ。
「それでその人は未だに?」
「ああ、四年も金を貸してたからか俺も兄貴も完全に油断してな、いつも通り一ヶ月も野放しにしてたら逃げられて二人して社長にぶん殴られた」
それで気になっていたらしく、その客が最後に目撃されたのが今から行くホテル付近だから調べるついでに俺達も送ってくれるらしい。
「心配……なんですか?」
気になったのか綺姫も思わずといった風に声をかけていた。俺も気になって車に乗り込む後姿を見ると吾郎さんは空を見上げて呟いた。
「かもしれねえなぁ……」
そんな少し気になる話を聞いた俺達は吾郎さんの運転で目的のホテルに着いた。連絡は既に入れているらしく受付に四門さんの名前を出せば案内してくれると言われ吾郎さんとはそこで別れた。
◆
「わぁ~っ!! 凄いベッドもふかふか……でも何か思ったりエロくないね」
「そんな身も蓋も無いことを……」
俺達が案内されたのは一番グレードの高い部屋で感想は綺姫が言った通りシックで大人な感じだが逆に言えばビジネスホテルと大差が無い。派手な内装の個性的なラブホは減ったと前にジローさんに聞いたことが有るがその弊害だろう。
「で、でも初ラブホ記念だし……私も頑張るから!!」
「え?」
記念とは何を言っているんだ。俺達の仕事は部屋の使用した感想、つまりレビューをすることだと説明したのだが綺姫はやる気満々だった。
「え? ここでエッチして感想をネットに書くんでしょ?」
「いや、それは……間違って無いが」
間違ってないけど良いのか? 今回は監視とか居ないし無理に俺とする必要は無い。俺もそこまで症状は出ていないから大丈夫だと彼女に説明した。
「そっか、時間は三時間だって案内の人も言ってたし、早くシよ?」
「え? いや、今の話聞いてた? それに綺姫は良いんですか?」
「うん、それとも星明はアタシとじゃ、いや?」
嫌じゃないと答えると彼女は笑顔でシャワーを浴びて来ると行ってしまった。ここまで真面目に仕事に取り組むなんて俺が思っていた以上に綺姫は真面目な性格なのかもしれない。
「なら彼女が戻って来るまで他の設備を見ておこう……ベッドは平均的、二人で寝て安心なサイズで……なるほど、これは?」
それから彼女と入れ違いでシャワーを浴び終わるとそのままの流れで行為をして俺は彼女の隣でまたしても眠ってしまった。
◆
――――綺姫視点
「寝ちゃった……寝顔かわいいな……」
髪の毛が少し下がって来ているから上げると軽く反応した後に寝息を立て始めた。ちゃんとした事後感は星明の部屋でした時と合わせて二回目だ。
「初めてはドタバタしてる内に寝ちゃってたしね……えいっ」
思わず頬っぺたをツンツンしてしまった。さっきまで思いっきり私を好き放題してくれたからお返しだ。
「時間はあと一時間……利用時間の半分以上エッチしてたんだ……」
今回も基本は彼任せで私はされるがままだった。でも体はもちろん心も満たされて最高に気持ち良かった。そんな事を思いながら星明を少しでも寝かせてあげたいと思って見ていたら不意に彼の口が動いた。
「――――ないで、もう――――嫌だ」
「寝言? って星明? キャッ!?」
気になって近付くと星明は私の胸に縋りつくように抱きつくと、うわ言の様に何かを呟き続けている。
「お父さん、お母さん……待って……」
「えっ?」
うなされていて苦しそうで起こすべきか一瞬考えた。だけど私が迷ってる間にも星明の口は動いて辛そうな呟きは続いている。
「……置いてかない……で、勉強、頑張る……から」
「え……これって……まさか星明も」
星明と話すようになって三日くらいの私は彼の事をほとんど知らない。だから気になっていた。どうして学校では隠れるように過ごしていたのか、何で大金を稼ぐ必要が有ったのか、そして何よりマンションで一人暮らしなのはなぜなのか。
「そういえば、私を助けてくれた夜に……」
星明は言っていた『親なんて平然と子を捨てるし肝心な時に他人は助けてくれない』って言って、その後ジローさんの所に行って殴られたんだ。
「一人は……やだ」
「私がいる!! 大丈夫、私はず~っと傍にいるから!!」
「うっ……ううっ……ぐおっ!?」
思わず何かしてあげたくて抱きしめたら起きていた。なんか寝ていた時よりも苦しんでて顔が真っ赤になってた。
◆
――――星明視点
「どうしたんですか!? いきなり……」
「あっ、ご、ごめ~ん、何か苦しんでるから心配になって起こしちゃった」
苦しんでいた? そういえば起きる直前に嫌な夢を見ていた気がしないでもない。内容までは分からないけど、起こし方が抱き着くのは勘弁して欲しい。
「そ、その……綺姫、また元気になるから抱き着くのは……」
「あっ……じゃあ、もう一回っ――――」
そのタイミングで室内の電話が鳴った。気付けばもう時間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます