第128話 つきまとう過去 その3


 概要は聞いていた祖父が悪いのも……そして葦原家の禁忌だと父と静葉さんにも語られていた。だけど被害者側から事実を突き付けられたのは初めてで困惑と申し訳なさで思わず震えていた。


「星明……話、最後まで聞こ? アタシも一緒にいるから」


「そうだね綺姫、俺には聞く義務が有るんだ」


 綺姫に手を握られて俺は先ほどの誓いを支えに踏ん張る。ここでくじけて少し前の俺に戻る訳には行かない。気合を入れ直して俺は梨香さん達を見た。


「あ、あの二人とも、これは昔の話で、もちろん二人には直接関係が無い訳だし恨んでるとかそういう話じゃないから、ね?」


「「え?」」


「そもそも私と母は当時から工藤本部長に恨まれて日本から追い出されたって側面も有ったから」


 どうやら工藤夫妻の方でも別な問題が有ったらしく当時の県警本部長との仲は良くなかったらしい。そういう意味で夫妻の当時の敵は県警本部長つまり工藤さんの実の父親だったそうだ。


「ま、そこで俺らが当時の悪党どもを全員ボコしたのがS市動乱の中身だ」


 と、ここで話に割り込んで来た勇輝さんが、グラスに入れた水を俺達に渡しながら当時の話をし出した。始まりは事件に巻き込まれた恋人を助けようとした一人の男子高校生の行動からだったらしい。


「そんでアキさんは『待っててくれ梨香!!』って叫びながらヤクザ共を次々ぶん殴って最上階まで突撃、しかも最後は無許可で犯人に発砲で警察クビだしよ~」


「あら、そうだったの? あなた話してくれなかったじゃない」


「ゆ、勇輝くん!! 梨香……そ、それも昔の話だ……ゴホン、とにかく俺達は当時の関係者に思う所は有るが君や君の両親に隔意は無いんだ」


 思った以上に目の前の工藤彰人という人物も凄かったみたいだ。無許可で発砲なんて一発でクビだろ。それでよく教師に戻れたな。


「そうね、それに母を救ってくれたお医者さんの家族を悪くは言えないもの」


「いえ、ですが祖父の犯した罪は……」


 例え命を救ったとしても祖父の罪は消えない。俺が小学生の頃、急に家から消えた祖父の謎の真相を知って俺は納得した。何を言われても仕方ないという静葉さんの覚悟も理解が出来たのだが次の言葉で俺は更に動揺した。




「違うの星明くん、梨香さんのお母様を手術したのは日本から付き添いをした建央さんなの」


「え? 父さんが?」


「当時の建央さんは大学病院内で将来有望って言われててね、期待のエースで将来的に教授の椅子は間違い無しと言われてたの」


 そんな父に実家から打診が有った。内容は海外でのオペの見学や日本からの患者つまり梨香さんの母の執刀などだ。医局を通しての正式な依頼で当時の父は海外でのキャリアを積めると喜んで渡米したそうだ。


「母の手術は大成功で術後の経過も良くてね、途中まで付き添って親身にして頂いた葦原先生には感謝しかなかったわ」


「そ、そう、ですか……」


 父は上昇志向が強く傲慢な性格だが昔は俺のチェスの相手をしてくれるくらいには良い父親だったと思う。ましてや職場では良いドクターだったのだろう。じゃなきゃ俺の実家は潰れていたはずだ。


「その後も順調にキャリアを積んでたのに実家の騒動で全てパーよ」


「そんな話聞いたこと無かった」


 当時の俺は父が休日に家にいる事が増え家族三人でいられる事を純粋に喜んでいた。ただ平和に過ごせたのは僅か数年だった。


「出世コースから一転して親の尻拭いか……俺の弟と同じ境遇だな」


「それって優人さんですか?」


「ああ、動乱後は警部から巡査部長まで落とされたって聞いたよ」


 工藤兄いや彰人さんの話によると工藤警視も苦労してたんだ……って、それで今は警視? いやいや確か警視ってかなり上の立場なんじゃなかったか。


「ま、とにかく私達一家は気にして無い、それに何度も謝ってもらったし静葉さんは気にし過ぎなの」


 そう言ってニコリと笑って言う梨香さんと隣の彰人さんも一緒に気にするなと言った後に再び祭に行くからと俺と綺姫を誘って来た。香紀たちも行きたそうに見ていたから俺たちは再び祭へ繰り出すことになった。



――――静葉視点


 子供たちと工藤夫妻が出て行くのを確認すると残ったのは秋津夫妻と霧華ちゃん、そして私だけになった。急にバーが広くなったように感じる。


「すいません皆さん」


「大丈夫ですって……それにこれから先の話はガキにはキツい話です」


「愛莉さん、それに勇輝さんも……本当にありがとう」


 私より年齢が10以上は下だが修羅場をくぐった数は遥かに多い二人を見て私は息を吐いた。重荷を全て出し切ったと思う反面、厳密な意味で最後の秘密……いや秘密とすら呼べない忌まわしき現実を、あの人が荒れた原因の一つを話せなかった。


「後は二人が結婚した後にでも話せばいいんじゃないですか~?」


「でも霧華ちゃん……」


「急ぎ過ぎても良い事は無いですよ、二人はまだ高校生ですし」


 あの事実はショッキング過ぎて迂闊には話せない。それに人間関係を含めた秘密は本当に全て話した。嘘は付いてないと私は自分に言い聞かせるように内心で言い訳をした。


「アキさん達も謝罪は、もう十分だって言ってたじゃないっすか」


「ええ、でも……勇輝さん、あなた達には香紀のことでも」


「ヨシは、いいえ香紀くんは良い子ですよ、家の娘が惚れるくらいにはね?」


 それも困ったことの一つだ。星明くんが追い出され再び荒れ出した香紀は私の目を盗んで夜の街に出ていた。そんな香紀を目の前の夫妻が拳で止め助けてくれたのだ。でもその後、愛莉さんの道場に通う間に二人も女の子を引っかけていた。


「今のとこ静葉さんの作戦通りですし後一歩じゃないですか?」


「そうは言うけど霧華ちゃん、あの子達すぐ子供がデキそうで怖いのよ~」


 運転が有るから飲酒は出来ないのが恨めしいと思ってコーラを一口飲むと久しぶりに飲んだせいでむせた。三人には、もう大丈夫だと笑われたが我が家は過去からの問題で今も大迷惑している。

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