第129話 上書きされる思い出 その1

――――綺姫視点


「アヤお姉さん、これ食べないの?」


「う~ん、アタシお腹いっぱいかも」


 海咲ちゃん達が屋台でりんご飴を買って見せて来るけど満腹だ。実はもう色々と食べたからお腹は休憩中。ちなみにチョコバナナを食べた時は星明が焦って周囲から見えないようにしてたのは謎だった。


「ふっ、星明くんも苦労するな」


「いえ、俺が過剰だという自覚は有るので……」


「確かに過保護ね……だけど、あれは男の目には毒よ……昔やってた仕事柄わかるんだけど綺姫さんは無自覚の魔性系ね」


 星明は梨香さんたち夫婦と何か話してるけど聞こえなかった。でもそれを見て安心した。星明は梨香さんと普通に話せてる私と手を繋いでない今でもだ。本当に症状が緩和されてて良かった。


「大人のジジョーって、やつ?」


「うん、パパとママが良く言ってますから」


 そんな事を考えながら私の両手を塞いでる海咲ちゃんと梨奈ちゃんの話に頷いた。私は一応は大人サイドらしいけど気持ちはまだ子供だ。それに子供っぽく甘えてる方が星明も大切にしてくれるし特典も有る。

 ご飯の時もお願いしたら洗い物とか手伝ってくれるし、普段から優しくエスコートして守ってくれて、家で甘えた時は好きなチョコを「あ~ん」してくれる。


(ほんと今までの生活とは大違い……)


 須佐井とは真逆で星明は私をお姫様のように大事にしてくれる。あいつが変わる前と星明が入れ替わっていたと言われても違和感が無い。むしろ今ではアイツが偽物だった気すらしていた。


「失礼ですが梨香さんの昔のお仕事って何を?」


「ええ、昔っていうか今もバイトみたいな感じでアドバイザーをやってるの」


「アドバイザーですか? でも……」


 星明が不思議そうな顔をしているけど私には何の違和感も無い。だって梨香さんって奥さんとしても彰人さんを上手く支えてるし、梨奈ちゃんも修斗くんも躾がキチンとされてると思う……私と違って。


「普段は『しゃいにんぐ』でバイトだけど、アドバイザーは先方が忙しい時だけよ」


「そういうことですか」


 そういえば星明が梨香さんと初めて会ったのはバーが食堂のお昼の時だと聞いた。バイトを二つもしてるのは家計が苦しいからとは思えないし謎だ。そんな事を考えながらも九人でゾロゾロ歩いていると珍しい夜店を見つけた。


「この音は……風鈴ね」


「あっ、CMとかで見たこと有る」


「私も~」


 梨香さんの言葉に子供たちが反応して綺麗な音色に耳を澄ませる。先ほどの大通りを一つ曲がった所で、ここには定番の民芸品やオモチャの他にシルバーアクセとかの夜店が集まっていた。




「ママ~、一つ欲しい」


「どうするあなた? 大輝くんと海咲ちゃんも欲しいなら買うわよ?」


 そんな梨奈ちゃんと梨香さんの話を聞きながら皆を見ていると個性が出ていた。海咲ちゃんは風鈴よりも食べ物とかの方が良いらしくノータッチ。反対に男子はシルバーアクセの店に注目していた。


「こっ、これは!?」


「ドラゴンソードだ……よし君!!」


 あれは私も見たことが有る。男子がランドセルとかに付けてる例のアレだ。ファミレスのお土産コーナーでも見た事の有るドラゴンが巻き付いた剣のキーホルダーだ。


「かっけぇ……」


 大輝くんと修斗くんも三人揃って目をキラキラさせているのは子供っぽいと思ったけど星明も私と同じ感想だったみたい。


「香紀……これは、その……小学生までだろ」


「兄さん、これの良さが分からないのかよ!!」


「そうだよ、えっと……星明兄ちゃん」


 目をキラキラさせて言う香紀くんと修斗くんにカッコいいを連呼され星明は圧倒されていた。さらに夜店の店員さんもニッコニコで星明はタジタジだ。


「そうかな修斗くん大輝くんも? ははは……困ったな」


 何気に苦労してそうで星明の視線が私に助けて欲しそうに見てる。でも少しはお兄ちゃんしなきゃダメかなと思って私は一人で隣の店に移動した。


「綺麗……」


「おや、お嬢さん……お目が高いね」


 そこに並んでいたのは色とりどりのかんざしだった。成人式とかで女の人が髪に付けてるあれだ。色んなのが並んでいて目移りしそう。


「これ、綺麗ですね」


 紅い珠が付いていて夜店のお婆さんの話では珠簪しゅしんと呼ばれる物だそうだ。珠は紅いガラス状で先には短い金のチェーンと小さい水色のハートのクリスタルも付いてる。


「普段はこの商店街で着物の商売させてもらってるのだけど、お祭の時は小物だけ売ってるのよ」


「へ~、そうなんですね……」


「お嬢さん……来年のポスターのモデルさんお願いしたいくらい綺麗よ」


「そっ、そんなぁ~」


 でも頭にかんざしくしも付けて無いのは少し寂しいと言われて私は思い出す。髪を切ってから私は過去を忘れるように何も付けないでいた。髪を切ってからの私は、より身も心も星明の物だと自分に言い聞かせるように必死だった。


「そうねぇ、贈ってくれるいい人とか居ないの?」


「いやぁ、それは……」


「ここにいる……そうだよね綺姫?」


 星明タイミング良すぎるよ……やっぱり私の王子様だし、こんなのまた好きになっちゃうよ。

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