第112話 後始末と準備 その1

――――瑞景視点


「――――以上が須佐井尊男の処分内容になります」


「そう、ですか……ふぅ」


 目の前の男、須佐井尊男の父、須佐井 凪尊なぎたか氏を見て僕の心中は何とも言えない気持ちになる。


「心中お察しします」


「ああ、その……これで我が社も」


「ええ、千堂グループの一員です、葦原家への根回しも行いますので須佐井社長は、ご心配なさらず……」


 しかし目の前の男の顔は晴れない。そんな彼を気遣うように隣の少し華奢な背広姿の人物が声をかけていた。


「父さん、もう大丈夫、僕が戻ったんだから」


「そう、だな詩月しづき……これで社員の生活も、会社も守れる……」


 自分に言い聞かせるように言う須佐井社長には同情するが、あのバカ息子をここまで増長させた責任も有るから仕方ないだろう。


「すいませんが、父の体調も優れませんので本日は」


「はい、具体的な内容は書類を見て頂いて……後日に」


 そう言うと二人は帰って行った。僕はその背を見送りながら書類の内容を思い出していた。中身は須佐井尊男の海外留学に関する偽装書類一式だ。彼は不幸にも留学先で行方不明になる事が決まっている。


「生きて会う事は二度と無いだろうな、さようなら須佐井くん」


 僕は書類のコピーをライターで燃やすと今回の仕事を終えた。今日はこれで完了だと思ってスマホを見ると珠依から通知があって一気に日常に戻れる感覚を得ていた。



――――綺姫視点


「じゃあ、来月の文化祭に向けて皆で頑張ろう!! 最後に、星明……じゃなくて実行委員長お願いします!!」


「あっ、ああ……今、綺姫、いや天原さんからあったように皆で頑張ろう、俺はこういう経験も無く未熟だが……その、助けて……欲しい」


 少し自信無さ気だけど頑張った偉いよ星明と思わず手を握る。その瞬間、拍手がパチパチと起こった。うちのクラスの実行委員になったタマが拍手してくれて釣られて他の委員も拍手をしている。


「じゃあ今日は解散、各クラスの出し物については来週までが期限で~す!!」


 私が最後に言うと解散になった。横を見ると星明が溜息を付いて椅子に座り込んでいて凄く緊張したみたい。


「お疲れ様、星明!!」


「うん、綺姫がいてくれて助かったよ」


「最初から何でも上手く行かないよ、アタシも助けるからさ、こういうのってアレでしょ、内緒でGOって言うんだよね!?」


 うちの両親も夫婦は支え合うのが大事って言ってたし恋人同士でも同じはず……あんな親だけど大事なことを少しは教えてくれてたんだと思う。


「それは内助の功だね綺姫、帰ったら少し勉強しようか?」


「やっぱり教えてくれて無かったよ~!! 星明~!!」


 大恥かいた恥ずかし過ぎる。やっぱりダメ親だと思いながら座ったままの星明に抱き着いて膝の上に乗っていた。


「あんたら家じゃないんだから、ほどほどにね」


「そうだな海上の言う通りだ、綺姫」


 二人に言われて周囲を見るとスマホで撮られてた。いけない今の私達は校内の有名人なんだ。模範的な生徒なんだから頑張れって校長とかにも言われてた。


「う、うん……学校で甘えるのは少し抑える!!」


「よし、じゃあウチらも帰ろ」


 星明もタマの言葉に頷いて三人で教室に戻ると背広姿の人がいた。スラっとした人だと思っていたら星明とタマが警戒して一歩前に出た。


「どちら様ですか?」


「部外者の方……ですよね?」


 教室に部外者がいるのは変だと気付いた私も星明の腕に抱き着いて警戒する。すると背広の人が振り返って私達は驚いた。尊男に顔が似ていたからだ。違うのはロン毛で目が少し切れ長なくらいだ。


「やあ、葦原星明くん、それに天原さん……君は、知らないな……初めまして、僕は須佐井 詩月……あのバカの身内さ」


「えっ!?」


 その言葉で星明の表情が一気に険しくなる。微かに症状も出始めているのは相手が、あの須佐井の関係者だからかもしれない。


「ああ、警戒しないで、あいつの荷物を取りに来ただけさ」


 そう言ってロッカーを指差すと確かに物が無くなっていて、たぶん後ろのダンボールに入れてるんだと思う。


「須佐井のお兄さんですか?」


「ふふっ、まあね……実は両親は心労で倒れて今すぐに動けるのが僕くらいなんだ、学校に許可は取っているから安心してくれ」


 そう言って星明に手を出して来た。その手を臆せず取った星明だけどビクンと反応している。やっぱり検査通りかもと思っていたら次は私にも握手を求めてきたから応じると少し冷たい手だと感じた。じゃあ心は温かい的な感じかな?


「そうなん……へぇ、タカより趣味のいい香水使ってますね?」


「ありがとう……ああ、思い出したよ。君が海上、タマちゃん?」


「それ言われるの嫌なんで止めてくれません?」


 そう、タマは昔とある川に出没したアザラシと同じ呼び方を極端に嫌う。私達が生まれる前の話だけどタマの両親が話してて嫌になったらしい。


「それは失礼、では僕は退散するよ……最後に二人には、いや学校の皆さんにも弟が大変迷惑をかけたね……本当に申し訳無かった」


 最後に深々と礼をすると教室を出て行った。でも私は内心で凄い驚いていた。だって私の幼馴染は一人っ子だって小さい頃に話してたから……尊男が嘘ついていたのか私の記憶違いか、それとも……。

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