第113話 後始末と準備 その2
◆
――――星明視点
「綺姫? 大丈夫?」
須佐井詩月が去った後の綺姫の様子は変だった。やはり須佐井の関係者というだけで怖かったのかもしれない。それに俺も例の症状が出た。どうやら俺の症状に一部変化が出たという実家での検査結果は正しかったみたいだ。
「う、うん……いきなりでビックリした、それに須佐井にお兄さんがいたなんて」
「アヤでも知らなかったん? 意外だね幼馴染なのに」
その言葉に綺姫が家に上げてもらえなかったからと苦笑いしている。その顔は何かを隠している表情で、だから話題を変えようと咄嗟に口が出た。
「元・幼馴染だ海上、そんな奴はもう永遠に関係無い。じゃあ帰ろうか綺姫」
「う、うん……そだね」
少し強引だが話を切り上げる。先週から色々と有ったから綺姫も疲れているだろうし休ませたいと思っての行動だったが海上はそうは思わなかったらしい。
「独占欲ヤバすぎっしょ葦原、でも須佐井の兄にしては良い趣味、いや変わった趣味してたね」
「どういう意味だ?」
「有名ブランドの19番、あれウチも持ってるから匂い覚えてたんだ。あれ付けてるなんてセンス有ると思うよ」
どうやら香水の話らしく須佐井兄が付けていたようだ。困惑していると今度、瑞景さんにメンズのを教えてもらえと言われてしまった。たしかに綺姫の彼氏として見た目や容姿にも気を遣うべきだろう、釣り合うためにも。
「なるほどな……」
「え? 星明、別にアタシは……」
「でもアヤ、葦原が今より良い男になるんだよ?」
その後は二人で内緒話をしていると綺姫が「それだ!!」とか言っていた。どうやら気は紛れたみたいで安心した。だけど海上に言われるまで考えてなかった課題も出て来たのは収穫だ。
◆
あれから海上を送るため駅前に来て先ほど見送った所だった。海上は電車通学で家は二駅先なのだが一方で浅間は駅の反対側の住宅街で俺達は駅から近いマンション。だから中間地点の駅が集合場所になっていた。
「じゃ、星明アタシらもスーパー行ってお家に帰ろ?」
「でも今日は実行委員会で遅くなったしコンビニか外食の方が」
今は18時過ぎで買い物をして夕飯なら19時は過ぎるだろう。いつもより少し遅めだから楽に済ませた方が良いと思ったが綺姫が断固拒否した。
「だってコンビニ弁当とかじゃ星明が夜も頑張れないし~」
「そ、それは……」
「それに忘れたの星明? アタシが特効薬なのは検査結果で出たじゃん」
実は俺の症状だが実家で検査した結果、症状の一部が変化していた。昔は静葉さんにも欲情する節操の無さだったが今は対象は同年代、特に綺姫に異様に反応したことが判明した。
「確かにそうだけど……」
それ事態は問題は無く、むしろ綺姫は喜んでいたくらいで俺も前ほど綺姫に負担をかけないように抱いているから大丈夫だが変化は他にも有った。
「それに須佐井をボコボコにした時の怒りが出やすくなってるんでしょ?」
そして問題は今まで綺姫の体で解消していた症状が暴力的な衝動へ転化している場面が増えていることだ。今までその衝動を抑えることが出来ていたのは『愛』が原因だと医者には診断された。
「いや、でも精神科医なんて怪しいと思うけど」
「そんなことないよアタシの愛が星明の暴力的な感情をエッチ方面に持ってくから星明は乱暴なのを抑えられる……つまりエッチしてれば星明は安全!!」
医者も色々と言っていたが要約すると綺姫が言ったことが全てだ。須佐井を殴った時は怒りがトリガーになって症状が出た。これは過去に数度あって一番酷かったのはジローさんと七瀬さんと出会った時で当時も似た現象が起きた。
「でも!! 今はアタシとエッチしてる――――「綺姫ここ駅前だから!!」
「本当にそうだよ……二人とも」
そう言って改札から出て来て俺たちに声をかけたのは工藤警視だった。その顔は苦笑しながらも呆れ顔だった。
◆
――――綺姫視点
「すいません……」
「同じく」
「まあ、人は多かったけど……一々、駅前の雑踏で顔まで覚えていないさ」
いま私達は工藤警視の運転する車の中にいた。事件について話したいと言われドライブに付き合っている。星明は断ろうとしたけど私がお願いした。それに工藤警視には個人的に聞きたいことも有った。
「だと良いんですけど……綺姫も外では控えよう」
「うん、お家でいっぱい可愛がってね星明~!!」
苦笑する星明は顔が真っ赤だ。最近は髪型のお陰で顔も見えるし表情にも変化が増えて嬉しい。どんどん私好みになってる感じがして懐かしさすら覚えてしまう。
「そうそう例の柔道部員達だけど全員が少年院行きに決まりそうだよ、ちょっとズルをして遠くの場所に指定させたから半年は大丈夫さ」
「そんな事が可能なんですか?」
「本当は無理だけど、特別な矯正施設にも行かされるから、それ込みさ」
それを聞いて安心した。私の下着を使って商売したり、もっとえげつない事をしていた連中が私の卒業まで目の前に現れないのは心から安心する。出来れば永遠に近付いて欲しくない。
「その、それで……須佐井は?」
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