第十二章「主役になる二人の関係」

第111話 天国と地獄 その3

――――星明視点


「えっと、こう?」


「そうですアヤ先輩、葦原先輩もう少し寄って下さい」


「ああ、分かった」


 カシャカシャとスマホのシャッターの音が響く。今は昼休みで俺は廊下で綺姫の腰に腕を回し記念撮影……されていた。


「「ありがとうございま~す」」


 女子二人組が抜けると次は男女のカップルだ。ネクタイの色は一年生のようで初々しいなと思ってしまう。


「じゃあ次、お願いしま~す、撮ろ?」


「う、うん。すいません先輩方」


 女の子の方が引っ張ってるのは俺達と同じだと思わず笑みを浮かべてしまった。すると囲みの何人かが「あっ」と言った。しまったキモかったかもしれない。


「悪い、キモかったか?」


「いえ逆です!! 葦原先輩の笑顔はレアなんで!! 絶対に普通の写真よりご利益あるから、りっくんチャンスだよ!!」


「うん、分かったマヤちゃん!!」


 実はあの騒動の後から噂が流れた。それは俺達の写真をお守り代わりにスマホに保存すると恋愛成就などのジンクスが有ると噂が広がり校内で一大ブームとなっていた。


「小野のやつ……」


「あはは、小野っちも謝ってたじゃん、やり過ぎたって」


 犯人は小野と放送委員そして第二マスゴミ研究会だった。思わず第一はどこに有るんだと尋ねたら姉妹校に第一が有ると言われた。どうやら姉妹校の生徒会長が間違えてマスコミをマスゴミと誤字のまま承認して以来、十年以上も変わってないらしい。


「これ金取れるでしょ実行委員長様?」


「勘弁してくれ海上……」


 さらに朝一で俺は学校側から半強制的に文化祭実行委員長に任命された。そして綺姫が副委員長だ。だが変化はまだまだ続いて次は翌日の全校朝礼だ。


「では葦原星明くん、天原綺姫さん!!」


「「はいっ!!」」


「感謝状、貴殿は――――」


 校長の前で俺達は警察から犯人逮捕の協力に関しての感謝状を読まれていた。本当は警察署で読まれる予定だったが俺の体調を考慮して見送ってもらったのだが、この話を警察側が学校にも連絡したのが問題だった。


「以上、代読させてもらいました、二人とも本当に素晴らしい!!」


「「ありがとうございます」」


 感謝状の件を知った教頭が校内の雰囲気向上のため利用しようと動き須佐井の事件を早く風化させるため全校朝会での代読と授与を依頼されたのだ。見返りに今回の俺の暴力行為は警察への協力だと正当化する取引を持ち掛けられ俺は断ることが出来なかった。


「客寄せパンダの気分だ」


 俺達が壇上から振り返ると拍手と喝采さらに口笛まで鳴り響く。


「でも、皆が星明のこと認めてくれたのアタシ嬉しい!!」


 俺は大事な君にだけ見てもらえれば良いと思っていた。でも綺姫が喜んでくれるなら道化も悪くない。明日以降は実行委員長としての仕事も有るし俺の学校生活は更に忙しくなりそうだ。



――――須佐井尊男 視点


「ううっ……ここは?」


 俺は気が付いたら暗くてジメジメした場所にいた。辺りに目を凝らすが暗くてどこか分からない。


「起きたか尊男……僕が分かるか?」


「お前は……し、しづきぃ!!」


 この世で陰キャの次にムカつく奴が出て来やがった。口元だけ笑ってるのが腹立つコイツは須佐井詩月しづき。背は高いのが父さん譲りで空手に柔道も俺より上で気に食わない人間だ。でも何でこいつがここに?


「酷いなぁ、僕達はてる姉ぇも入れて血を分けた三姉弟きょうだいじゃないか」


「何で追い出したオメーがここに、ママは? それに父さんはどうしたんだ!! 姉ちゃんも、何で!?」


 飛び掛かろうとした瞬間に顔面から何かにぶつかった。よく見ると鉄格子が目の前にあって周囲を見回すと俺は自分が大型の檻の中にいるのに気付いた。


「はぁ、相変わらずバカな弟だ。僕は父さんの名代、てる姉ぇからも最後の言葉を預かった『金返せ』だって、あと母さんは……今は喋れる状態じゃない」


 こいつ詩月しづきは俺たち三姉弟の二番目で昔から気に食わないクズだった。だから俺が罠にはめ家から追い出した。


「なのに何で、お前がここに?」


「それは僕が跡継ぎに変わったからさ」


「何でお前みたいな奴が――――「残念な弟に変わり僕が須佐井建設を引き継ぐ、お前は用済みさ。良い引き取り手も見つかったしね」


 そう言うと奴は何かの紙を取り出し見せた。そこには奴の署名で引き渡し物が人間一名となっていた。まさか、その人間って……。


「待て、俺はどうなる!? 裁判とか色々あんだろ!?」


「本当にバカだなぁ、もう釈放されたんだ国も司法も関係無いんだよ? そして今からお前は行方不明になる」


「は?」


 意味が分からないけどマズいのだけは理解できた。そんな俺達の会話の中に割って入る男がいた。さっき俺を眠らせた男だ。


「もう良いか? そろそろ運びたいのだが」


「大丈夫です。どうぞこれを引き取って下さい、それと千堂総裁には今回の須佐井建設の忠節と献身をよろしくお伝え下さい」


 目の前の男に詩月が頭を下げている。あの男は弁護士じゃねえのか? 一体どうなってんだ……意味が分かんねえ。


「実の弟を売り渡し忠誠を誓ったあんた達は高く評価されてるぜ詩月ちゃん?」


「ありがとうございます。これで父も喜びます、では後はお願いします」


 父もだと……父さんもなのか今までは助けてくれたのに。そうしている間にも詩月は出て行こうとしている。待ってくれ俺を置いて行くなよ。


「待て、俺を置いてどこに!? どういうことだ!?」


「喜べ尊男、お前は最後に我が社の役に立つ、しかも千堂グループのラボで人類全体にも貢献できる実験体としての未来も約束されたんだ」


 言ってる意味が分からない。俺はこれから学校に戻って復讐しなくちゃいけないのに……だが扉は無情にも閉じられ周囲は真っ暗になった。

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