第124話 他人の恋路は蜜の味? その2


「ふ~ん、そんなことが……アタシ夜逃げで忙しくて覚えてないよ」


「あっ……ま、まあ俺達が小学生の頃の話だから」


 綺姫の返答に俺も霧華さんも複雑な心境になるが触れずに、そっとしておくことにする。実際は俺もジローさんや七瀬さんにお世話になっている時に無理やり飲酒させられながら命令で調べさせられた情報で割と曖昧だ。


「はぁ、星明くんも反社との付き合いも飲酒もダメよ」


「はい……霧華さん」


「ま、私の義理の兄は悪い先輩に中学の時に酒飲まされたけど、それで人生が崩れることは無かったわ、ただ法に目を付けられたら終わりよ」


 だからバレずに上手く法を利用して生きなさいと言われた。弁護士としてどうなのかと思うが霧華さんの話ではアメリカで生活していた時に父親から学んだらしい。どうも海外と日本では感覚が一部で異なるようだ。



――――綺姫視点


 星明と霧華さんとの話もそこそこに私は出店が気になっていた。なんせ十年以上振りの祭だから……そして既に遊んでいる小学生組とお目付け役の香紀くんを見つけて声をかける。


「おっ、やってるね~?」


「天原さん……それに兄さん達も、二人は金魚すくい対決だそうです」


 私と後から追いついた星明を見て報告して来た視線の先で梨々奈ちゃんと海咲ちゃんが金魚すくい対決をしていた。二人はバチバチに火花を散らしていて真剣勝負中だ。これ気付いてない鈍感な所は、お兄ちゃん譲りかもね香紀くん。血は繋がってないのに似ちゃってる。


「香紀はやらないのか?」


「俺はもうそんな子供じゃないよ」


 そんな二人を尻目に私も密かにやってみたいと思って目が泳ぐ。小さい頃から家が貧乏だったし、お祭に行ったのも一回しか無いし気になる事は気になるのだ。


「じゃあ綺姫、俺達はやろう」


「えっ、でも……もう高校生だし」


 香紀くんじゃないけど私も金魚すくいをやりたいとは思うけど今は大人だし、と思っていたら星明は私の手を強引に取って二人分のポイを貰っていた。


「一人じゃ恥ずかしいから一緒にダメかな?」


「仕方ない、付き合ったげるよ!!」


 初めての金魚すくいはドキドキして浴衣が濡れないように気を付けたりポイがすぐに破れて星明の分も使ってマジになったりして大興奮だった。


「楽しかった?」


「うん、夜店のおじさんオマケでデメキンも入れてくれたよ~♪」


 私の手には小さなビニール袋に入った黒いデメキンとオレンジのワキンが入っている。一匹も取れなかったから貰えたのだけど夜店のおじさんが千円以上使ってくれたからサービスと言われ私は真っ青になった。


「アヤさん下手っぴですね~」


「慣れて無いのバレバレ~」


 対して年下の子達は慣れたもので海咲ちゃんは去年は出禁を食らったらしい。愛莉さんがしっかり桶を店から持って来ているから予想済みだったみたいだ。


「こら、綺姫たちはデートなのに付き合ってくれてんのよ感謝しな」


「二人には無理にお願いしたんだから」


 そして二人の母親の愛莉さんと梨香さんが娘を叱っていた。同年代の子がいるのに二人の年齢は意外と離れていて梨奈ちゃん達は遅い時の子らしい。


「悪いわね、子守お願いしちゃって」


「いえいえ、二人を見てるの楽しいですから」


 もちろん星明とのお祭デートは楽しみにしていたけど二人のバトルを見るのも意外と楽しんでいたりする。三角関係とまでは言えないけど未来の弟はモテていた。しかもお母さん達を見ると二人とも将来有望だから香紀くんチャンスだよ。


「どうしたんすか天原さん?」


「香紀くんに女難の相が見えてね」


 何ですかそれと言われて将来のお姉様からのありがたい言葉だと言ったら二人の母は笑っている。やはりお気付きですねと見ると静葉さんだけは頭を抱えていた。


「綺姫、他に見たいものある?」


「こういうお祭は初めてだから何でも珍しい……かな」


 私が過去に行ったのは商店街でやる祭ではなく、打ち上げ花火が上がる夏祭り的なやつだった。だから商店街主催のお祭は初めてで全部が珍しい。でも定番の物を食べて無いから懐かしくて私は呟くように言った。


「わたがし……欲しいかも」


「分かった、行こう」



――――星明視点


「あま~い、ほら星明もア~ンして」


「いや、俺は、その」


 綺姫がアニメキャラのプリントされている袋を持って綿菓子を笑顔で頬張っていた。それを見ているだけで癒される。なんて可愛いんだ反則級だろ俺の彼女……いや婚約者は世界一じゃないだろうか。


「甘いの苦手じゃないよね?」


「でも皆、見てるし」


 実は意外と気になるのは周囲の視線だ。香紀はもちろん小学生組の四人は俺と綺姫をチラチラ見て来る。静葉さんも気になっているようだし他の大人たち三人も笑みを浮かべていた。


「私達は気になさらず、ア~ンをお見せ下さい」


「そうそ、本物見てベンキョーしたいし」


 俺と綺姫から何を勉強したいのか謎だが二人は興味津々だ。そういえば香紀は二人に両腕を掴まれていてキチンと子守をしていて偉いな。中学生になってから自覚も出たようで兄としても嬉しい限りだ。


「ほらリクエストだよ星明、口開けて~」


「う、うん、ア~ン……」


「おいしい?」

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