第125話 他人の恋路は蜜の味? その3


 口の中に広がるのが綿菓子の甘さなのか、それとも好きな子に食べさせてもらったから甘いのか分からないが気分は最高だ。


「甘い」


「うん、知ってるよ」


 そう言って綺姫も一口食べてペロリと口の周りを舐めたが、その仕草がイタズラっぽさと同時に妖艶さを兼ね備えていて控え目に言ってエロかった。


「っ!?」


「綺姫~!! ちょ~っと違うのも見に行こう!!」


 現に今も秋津大輝くん12歳が真っ赤になっている。以前にもリゾート地で出会ったアルカ君も魅了されてたし綺姫は年下キラーなのかもしれない。だが今回は周囲を見ると他の男性諸氏もチラチラ見ているし、より危険だ。


「やっぱり、じぇーけーは凄いです海咲!!」


「あれくらいじゃないと、こう君は気付かないよね……」


 小学生女子の謎の呟きも聞こえたが俺は大人達に断りを入れると綺姫の手を取り移動する。人目の少ないエリアまで移動しベンチに座ると視線は無くなった気がした。




「星明、そんなに二人きりになりたかった?」


「ふぅ、綺姫はもう少し周りを気にして欲しい、凄く目立つから心配だ」


「それタマにも言われるけど、そんなに?」


 俺が頷くと綺姫はゴメンと呟いた後に「ヤキモチ焼いた?」と聞かれ俺は少しだけ焼いたと言った後に本音を漏らした。


「それ以上に心配……家の事もだけど俺は君を守りたいんだ」


「うん、分かってる」


 ならどうしてと思う気持ちと俺じゃ頼りないからという諦観の念もあって俺には分からなくなっていた。だからつい綺姫に本音を言ってしまう。


「でも、まだまだ努力が足りないみたいだね」


「むしろ頑張り過ぎだと思う、星明、はいア~ン」


 そう言われて俺は黙って口を開けて一口わたあめを食べさせられる。まるで聞き分けのない子供をあやす母親のようだと思った。


「やっぱり甘い」


「でしょ? でも星明と出会わなかったら二人で甘いなんて言ってられなかったと思うんだ」


 急にトーンダウンした綺姫は俺を見て言った。その顔は先ほどと変わって愁いを帯びた表情が綺麗で俺はまた恋人の魅力に気付いてしまった。


「それは……」


「アタシ毎回言ってるけど、星明が自分のこと陰キャとか言うの嫌い」


 綺姫は俺をそう言って良く鼓舞こぶしてくれている。嬉しい反面どこか俺には過大評価だと思っていて受け入れられずにいた。


「だってアタシの大好きな人を認めないなんて本人がそう思ってるの嫌だもん」


「綺姫……でも、俺は」


「星明はカッコ良いんだよ、何より私を救い出してくれた。私、今でも初めて星明に抱かれた日の夜を覚えてる」


 あの二ヵ月と少し前の夜を俺も覚えている。他の女との情事は忘れたが綺姫とのキスは全て覚えてるし過ごした思い出は全部……全部? なぜか心のどこかで引っ掛かる気がしたけど俺は断言した。


「ああ、俺も覚えてるよ」


「じゃあ分かって、星明は凄い事いっぱいしてるんだよ!!」


 綺姫は言った。あの夜から始まったと、あの時、自分を助けようと必死な後ろ姿が頼もしくて全部を失った自分を守ってくれて嬉しかったと目を潤ませていた。


「でも、始まりは……綺姫を金で無理やり……」


「ふ~ん、それがなに?」


「いや、だから――――「いまアタシは星明と居て幸せなの、それ以外はいらないし、だから……」


 だから自分は悪い女だと綺姫は言った。俺は違うと即座に否定したが綺姫は首を横に振るばかりで困惑する。綺姫ほど心許せる女の子は他に居ないからだ。


「アタシさ星明の秘密を知った時にチャンスだって思った」


「へ?」


 その瞬間、綺姫の顔が一瞬だけ恐ろしく見えた。でもそれは俺の気のせいで次の瞬間には無邪気に笑って言った。


「アタシでも星明を支えられる、重荷を背負ってあげられるって、そうすればずっと一緒に居られるって……やっぱ重い、かな?」


「ああ……なるほど、ダメだな俺は……やっぱり」


 俺は何度も後悔と思い違いを繰り返し、その度に悶々としていた。何か有る度に迷って悩んでを繰り返し決断しているようで何も決められずにいたんだ。綺姫と違って俺は何も決めてなかった。


「綺姫はとっくに覚悟を決めてたんだね……俺は自信が無くて最後の一線を越えられなかったのに」


「うん、だから静葉さん利用して正式に星明の婚約者になりました!!」


 その行動力と思い切りの良さは俺より凄いと思う。綺姫は俺が自分のことを過小評価してると言うけど今の決断力を見せられたら自信も無くすさ。


「なら俺は綺姫が支えてくれるようなカッコいい俺にならないとね」


「うん!! でも大丈夫、今のままでもカッコいいから!!」


 そう言って綺姫は当たり前のようにキスをして来た。だから俺も我慢出来ず背中に手を回す。逃がさないように離さないように強く抱き締めた。




「綺姫もう大丈夫……」


「ほんと?」


 そう言って手を握られるけど俺もいい加減踏ん切りを付けなきゃいけない時期だと思えて来た。これも綺姫に気付かされたことだ。


「ああ、学校でも言ったけど変わりたい。口だけじゃなくて今度は本心から……綺姫とこれから先、何年経ってもずっと一緒に居たいから」


「星明……うん」


 そして我慢出来ずに綺姫と再度キスしようとした時だった。


「あ~、君達……周り見ようか」


 いきなり横から甚平姿の男性が気まずそうに声をかけてきた。その後ろには顔を真っ赤にした小学生組と香紀までいた。


「「あっ……」」


 まずい……一部始終をすっかり見られた俺達は固まったが更に男性の後ろから女子二人が前に出て俺達に向かって言った。


「い、今のって……海咲!?」


「プロポーズ、だよね……梨奈!?」


 キャーと騒ぐ二人を見ながら最近の小学生は大人だなぁ……と俺は軽く現実逃避しそうになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る