第126話 つきまとう過去 その1


「はぁ、梨奈それに海咲ちゃんも……二人にはまだ早いから……」


「え~、でもパパだってママにプロポーズしたでしょ?」


 香紀と男子二人はボーっと俺達を見ている中で女子に詰め寄られ甚平姿の男性は、たじろいでいた。ん? 梨奈ちゃん今この人のことパパと言わなかったか?


「そっ、それはさておき二人とも……お祭でも風紀面を考えると少し注意せざるを得ないと思うんだが?」


 人目の付かないベンチとはいえ商店街のお祭中に若い男女が乳繰り合っていたら注意くらいされるだろう。謝った後に綺姫が梨奈ちゃんのお父さんを見て言った。


「星明、なんかガッコーの先生に叱られてるみたいだよ~」


「お姉様、だってパパは学校の先生ですから」


「そうなんですか?」


 なるほど教師か……だから俺達みたいな学生にも気軽に声をかけて来るし違和感なく喋れるんだ。だが次の男性の言葉が引き金で事態は明後日の方向に進んで行くことになる。


「ああ、君達が噂のAAカップルか」


「ダブルエー? アタシの胸はE以上は有ります!! むしろ星明のせいで最近また大きくなってます!!」


「綺姫!? その話は大声で言わないで!!」


「はぁ、どうやら説教と教育が必要らしいね……」


 その後、俺達は目の前の甚平姿の教師、工藤彰人さんに灸をすえられてしまった。後で確認したら彼こそが工藤警視のお兄さんでダブルエーとは葦原と天原の頭文字を取って言われている俺達のことだと教えられた。


「「すいませんでした……」」


「学校でも無いし姉妹校とはいえ他校の生徒、このくらいにしておこう」


 その割に五分は説教された気が……いや、余計なことは言わないでおこう。お説教がまた始まるかもしれない。


「兄さん……俺の兄さんが……」


 そして俺の兄としての尊厳は吹き飛んだようだ。ある意味で香紀にとっては兄離れの良い機会なのかもしれないし、俺もあいつの前では変に兄貴ぶってたからこれで良かったのかもしれない。


「あっ、いたいた皆、探したわよ」


「あなた今日は見回りでしょ、良いの?」


 静葉さんと梨香さん、つまり目の前の工藤教諭の奥さんもやって来た。しかし見回りとは何だろうか。


「うちの生徒は少ないさ来月の方が盛り上がるだろ? それに二人がな‥‥‥」


「二人がどうかしたの?」


 そこで嬉々として梨奈ちゃんと海咲ちゃんが話し始めた。本当に女子は好きだな。この手の恋愛系は……ん? 待てよ……まさか二人が香紀と親密なのはそういうことなのか?


「星明は意外と鈍いからね~」


 最後に綺姫の締めの言葉で俺達は昼の喫茶店で夜はバーの「SHINING」に移動となった。今日は店を閉めて店長が待っているらしい。




「アキさんもキスの一つや二つ許してやれば良いじゃないっすか」


「そうは言うけどね勇輝くん……娘達の前だから……つい」


 バーにやって来ると先に待っていた霧華さん、そして海咲ちゃんのお母さんの愛莉さんと大柄の店主が待っていた。この人が大輝くんと海咲ちゃん二人の父親か。


「いえ俺も配慮が足りませんでした」


「ラブラブですいませ~ん」


 綺姫が冗談めかして言うと勇輝さんは驚いた顔を隠さずに呆れた顔で俺達を見た。


「あぁ……なるほど、似てるな」


「総裁が気にするのも分かるだろ?」


 俺達には分からない誰かの話をしながら二人は酒を飲んでいるが俺はチャンスかも知れないと思って口を開いた。


「総裁って……その、千堂七海さんのことですか?」


「ああ、そうだ。俺らのボスだ」


「お話を聞いても……良いですか?」


 俺は静葉さんが香紀や子供たちと奥の席で話しているのを見て咄嗟に聞いていた。横の綺姫も俺と同じ気持ちで頷いていた。だから知りたいと思った俺が知らない過去の話を……。


「まあ酒で口が軽くなってるし……仕方ないか」


「違いねえ、じゃあ漢同士話すか?」


「ストップ、なら私達も良いかしら? 女だけど?」


 そう言ってカクテルのグラスを持って乱入して来たのは工藤教諭の奥さんの梨香さん。そして弁護士の霧華さんだった。


「二人は構わないか?」


 俺達は黙って頷くと目の前の秋津勇輝さんはニヤリと笑って何を聞きたい?と俺達に挑戦的に言った。だから間髪入れずに俺は口を開いた。


「俺と、いえ俺の実家とあなた方の関係……です」


「ま、そうなるか……って言っても実は俺はそこまで関係無い。あるのはアキさん、そして梨香さんだな」


 俺が尋ねると勇輝さんは二人を見て言う。そういえば工藤警視も俺の実家のことを話していたし二人が俺のルーツに関係有るのは当然か。


「あっ!? アキさんって工藤さんだったんですね!! 男の人だったんだ!!」


 工藤彰人あきとだからアキさんか……そんな綺姫の疑問が解消されるのを聞いて俺は改めて工藤夫妻を見た。


「まず一つ、俺は今の君の実家に対し隔意かくいは無い」


「あの、警視から少しだけ聞きました地元だと」


 俺が言うと答えたのは梨香さんだった。


「そうね……私達も優人くんも仲都國なかつくに市の出身よ」

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