第158話 文化祭狂騒曲の表と裏 その5

 

「なんで、あんたが……」


 聡思兄ぃのトラウマで自殺したはずの女がそこに居て私たち二人は一気に混乱して焦った。だが次に目の前の女が名乗って問題はすぐに解決する。


「もしかして君達は姉を知ってるのかな? 失礼、僕は、いや私は須佐井詩月、あの不肖の姉のおとう、いや妹さ」


 妹……たしかにそっくりかも。そういえばタマとかアヤが遭遇したって話を聞いた覚えが……でも三人が遭遇したのは、あのクズの兄って言ってなかった?


「えっ、ああ……そうですか、失礼しました」


「姉の知り合いで良いのかな?」


 知り合いどころか仇です。そんで、あんたの弟は私の親友とその彼氏の敵だと言いたいのを飲み込んで二人の話を聞く。たぶんタマや葦原ならそう動くはずだから。


「……実は同じ大学で」


「そうだったのか……ん? そうか、もしかして君は八上聡思くんでは?」


 その言葉に私も聡思兄ぃは驚いていた。何で向こうが私たちを知ってるんだろう。会った事も無いはずだし変だ。


「はぁ、そうですが……」


「警察の方から姉の被害者の話を聞いててね、ぜひ謝罪とお礼をしたいのですが今お時間いいですか?」


「えっ、あの……まあ、少しなら」


 いけない聡思兄ぃは完全に流されてる。だから私は咄嗟に口を挟んでいた。


「だったら私のクラスに来ませんか!? 模擬店!! 模擬店やってるんで!!」


「ふふっ、いいんじゃない詩月、せっかくだし行きましょ?」


 もう一人の美女にアシストされる形で私の狙い通りに動き出す。今の時間ならタマも戻ってるし葦原とアヤも居る可能性も高い。仲間のいる場所なら何とかなると思った私だったけど、なぜか目の前の二人はニヤリと笑っていた。



――――星明視点


 瑞景さんの話を聞き終わると俺は悩んでいた。しかし新たに乱入して来た四人への対応に追われ今はそれどころでは無かった。


「どうしてだ……なんだよ今の状況は?」


「ほら、ボーイさん私にお料理運んで下さらない?」


 なんでレナさんが髪切ってこんなとこ来てんだよ。しかも須佐井詩月まで女装してるし一体どうなってるんだ。


「あっ、では――――「失礼しまぁす!! お客様ぁ!! トラブル防止のためにヤベー女にはアタシが対応します!! 特にあんたは危険なんで!!」


「まあ、相変わらず接客がなってないわね泥棒猫、こんなパンフの表紙になっても小娘のままね?」


 そして綺姫は二人が来た瞬間に臨戦態勢に入って敵意剥き出しだ。終始こんな感じでクラス中が触らぬ神に祟りなしといった雰囲気になっている。それにレナさんも普通に楽しんでる。


「ミサ先輩って二人と知り合いだったんですか? 聞いて無いんですけど」


「さあ? 佐々木美里として会うのは初対面よ。それに過去は気にしないで雇ったんでしょ詩月?」


「あ~、僕も、じゃなくて私も迂闊だったか……タイミング良過ぎた気がしたんだ」


 二人も混乱していたが連れて来た浅間と聡思さんも困惑していた。だが他にも動揺している人間がいた。それが瑞景さんだ。先ほどの話も気になるが今は目の前の問題を解決しないといけない。


「いいかい、星明くん」


「何すか瑞景さん……先ほどの話もですけど今は……」


「だからだ、まず彼女、須佐井詩月だが正真正銘の女性だ、訳有って最近まで男装をして過ごしていたそうだ」


 そんな重大な話をサラッと言わないでくれ。でも納得した。俺は彼女と握手した時には男なのに変だと思った。今思えば女性用の香水なども理由が有ったのか。


「やあ額田くんコソコソ何してるんだい?」


「貴女の事情を葦原くんにね」


 視線をスカートに向けて言うと詩月さんは「なるほど」と笑みを浮かべた。そのタイミングで動悸が激しくなる。目の前の男装していた女性も美人の部類だったのを忘れていた。


「そっ、それより詩月さん、あの二人なんとかして下さい」


「あれこそ君が解決すべきでは?」


 だから俺は未だに言い争いしてる綺姫とレナさんを見て言うが至極まともな正論で返された。うん、確かに俺の問題だ。とにかく他のメンバーに今は任せるか。


「あなたが、しーちゃん先輩だったんですね?」


「懐かしいね……梨恵ちゃんかな?」


「ええ、それで今回の件にも貴女は一枚噛んでたんですか?」


「残念ながら違う、先輩と再会したのは最近でね。信用出来る人間を探してたんだ、それと秘書検定持ちの人をね」


 そういえば後輩の実家が大変だとレナさんは言っていた。これは俺が須佐井を追放した件なのか? たしかに息子が薬物と窃盗で逮捕されたら普通に大変だ。

 そして危ない会社と言ってたのは須佐井建設のことだったのか。恐らく俺と綺姫に接触してすぐに行ったのだろう。


「えっ!? レナさん秘書検定持ってるの!?」


「ええ、通信講座でね、あの店って資格手当とか付けてくれんのよ」


 そんな夜の街なのに資格手当とか有ったのか、あの店……いやジローさんが考え付くはず無いから七瀬さんか四門さんのアイディアだろうけど。


「ア、アタシも将来のために取ろうとしてたのにぃ……」


 そしてサラッと俺たちの会話に入って来た綺姫とレナさん。後ろを見ると海上と浅間は疲れ切って突っ伏し聡思さんは首を横に振っていた。

 こんな感じで俺達の姫星祭は二日目が終了した。何か忘れてるような気もするが些細なことだと思う。

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