第十五章「繋がり始める二人の関係」

第141話 想定外 その1

――――綺姫視点


「え? 嫌ですけどアタシ達もうラブラブなんで、入る隙間無いんで」


 いきなり星明を返せとか言い出した目の前の女に私の怒りは最初から有頂天だった……って違う、前に星明に使い方が違うって注意されたんだ今度また聞こう。


「なら体ではどう? 満足させられてるの?」


「とーぜん!! 今夜もばっちり盛り上がる予定でした!!」


 そう、そもそも今夜は二人で熱い夜の予定でそれを邪魔して来たのも腹立つし、そもそも星明は物じゃなくて私の将来の旦那様だから。


「子供のお遊びでしょ? 可哀想ねセイメーがっ!!」


「そんな事ありませ~ん!! 毎晩、優しく星明に教えてもらってま~す!!」


 確かに夜のそういうのは目の前の本職には勝てないだろう。だけど星明と付き合って、もうすぐ一ヶ月、体だけなら二ヵ月以上の付き合いで、その間にも二人で愛とか色々と育んで来たから絶対に負けない。


「そうなんですか先輩?」


「まあ最初の頃は……って、お前は何を聞いてんだ!?」


「いえ実は私まだ処女なんで参考に、あ、このエビチリ美味しいですよ~」


 何か私とレナさんが言い合いをしてる間に星明と小谷さんが和んでるのは腹が立つ。あんなに嫌ってたのに……まさか、これが寝取られなの!?


「お前は余裕だな……あと綺姫これは社交辞令で嫌々話してるから心配しないで」


「アタシ、顔に出てた?」


「綺姫は素直なだけだから気にしないで」


 私はすぐに顔に出るからと友人二名それに今も逃亡中の両親にも言われたことが有る。亡くなったお爺ちゃん譲りだそうだ。


「じゃあ美里お姉ちゃんの奢りだし北京ダックも追加しましょう」


 そう言って小谷さんがオーダーした北京ダックや他の料理を私の食べられる量にサッと取り分けてくれる星明はやっぱり優しい。


「ちゃんとレディーファーストは出来てる……か、教えた通りね」


「なっ!?」


 星明は出会った時から女の子に丁寧で、そつなく優しく器用なのは夜の街での経験だと聞いていた。そういえば最初に会った時も「星明は私が育てた」みたいに言ってたのを思い出した……許せん。


「てか先輩って美里お姉ちゃんの店に出入りしてたんですよね?」


「まあな、それよりお前こそ夜の街に詳しいな」


「親族の中で私と私の母くらいしか美里お姉ちゃんと連絡取ってないんで事情も知ってるんです」


「そう、か……」


 なんとなく最後の星明の声のトーンの変化の方が気になった。そして星明と目が合って私はアイコンタクトを取ると座って取り分けてもらった料理を一口食べる。私と入れ替わるように星明が目の前の女と向き合っていた。



――――星明視点


「それにしてもレナさんの本名が美里だったなんて初めて知りました」


「ちなみに苗字は佐々木なんで佐々木美里ですよ~」


 小谷の言葉に改めて普通の名前だと思わされる。三年以上も世話になっていたのに俺はそんなことも知らなかった。いや知ろうとしなかったのが正解か。


「改めてよろしくねセイメー?」


「佐々木さんですか……レナさんも普通だったんですね」


「源氏名なんて勝手に付けられたからね」


 レナさん、いや佐々木美里さん、この女性には色んな意味でお世話にもなった。そして小谷の母親とは親同士が姉妹らしい。


「違いない。俺もセイメーは勝手に付けられましたから」


「ジローさんと七瀬だっけ付けたの?」


 自衛のためと言われたがジローさん達にはもう一つ言われていた。今までの自分と訣別しろと大病院の御曹司ではなく夜の街の謎の請負人セイメーになって別人として過ごせば世界が変わると言われた。


「はい、ジローさんに事務所に引っ張られて、ですね」


「じゃ、その後すぐに私とシたって訳ね~?」


 そう言って綺姫を見てニヤァと意地悪く笑った。綺姫は怒りながら水餃子を食べた後に小谷に追加のオーダーをしていた。


「なっ!? べ、別に過去の女が何言っても今さらですから~」


 プルプル震えて泣きそうな綺姫が可愛らしくて見ていたいが言ったら怒られそうだし下手な事を言ってレナさんを刺激するのも恐い。だから俺は一気に動くべきだと判断していた。


「そうだね綺姫……でも奢り分くらい話は聞きますよ、ただしカノジョ同席で」


 綺姫と手を繋いでテーブルの上で見せつけるようにして言うとレナさん、いや佐々木さんは面白く無さそうな顔をした後にゴマ団子を箸で突き刺して食べた。


「あん時の小娘が誰一人として女を寄せ付けなかったセイメーの恋人だなんて……後からジローさんから聞いて……ほんと」


「あの時は綺姫とこうなると思ってませんでした」

「あの時からアタシ、星明を狙ってました!!」


 俺が照れくさくて目を逸らして言うと逆に綺姫は堂々と俺の知らなかった事実を言い放った。あの時から、つまり一回抱いた後から綺姫は俺の事が好きだったのか。


「「えっ?」」


「うわぁ……テンプレのラブコメ展開じゃん、美里お姉ちゃん完敗じゃん」


 小谷が「やりますねえ」とか綺姫に言うと満更でも無い顔になっててコロッと騙されている。一応は警戒すべき相手だとは思うのだが。


「あんた、どっちの味方なのよ!!」


「私は中華の奢りと先輩らとの関係気になってただけだし」


 そこで言い合いを始めた二人を見て俺は溜息を付いて口を開いた。いい加減この茶番に付き合うのも面倒だ。


「で? 本題は何ですかレナさん」


「はぁ、ま、挨拶よ。あ・い・さ・つ」


 挨拶とは唐突だな、俺と綺姫へのお礼参りとか下らない事じゃないのは見て分かる。だから俺は黙って目で先を促した。


「それで?」


「うん、私ね今月で夜の街、出て行くことになったの」

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