第179話 取り戻したい思い出 その3


「だけど、あくまで父さんの証言だけだよね……」


「でも当時を知ってるのって、お義父様だけだし確定だよ!!」


 ここ数日で俺が父と話した中には当然だが過去の話も有った。写真やデータは全て破棄されたが、もちろん当時を父は覚えていて俺と綺姫はいつも屋敷の庭で遊んでいたらしい。


 そして夏祭りのおぼろげな綺姫の記憶の中で俺達を叱ったのは、やはり父だった。その少し後に引き離され綺姫と両親は夜逃げしたそうだ。そんな話を思い出しながら俺は別な事を思っていた。


「いや、一応は綺姫のご両親も――――「え? アタシって親とか居ないし~、今は身元保証人になってくれてる義理のご両親しか居ないから!!」


「まあ……そう、だね」


「星明ん家と違って事情が最低だから許さないし、お義父様のように苦しんでるようなタイプじゃないよアレは!!」


 それもその通りだなと納得した。それに綺姫とご両親の問題だから口を挟む問題では無いだろう。そんな話をしていると不意にインターホンが鳴って出ると狭霧さんが夕食を一緒にと呼びに来ていた。



――――綺姫視点


「ごめんね、お客さんに手伝ってもらっちゃって」


「いえいえ~、美味しい夕ご飯ごちそうになりましたから」


 私は下の階に越して来た春日井さん家にお邪魔して夕食後の後片づけを手伝っていた。星明は信矢さんとリビングで子供たちの相手をしていた。どうやら子供達が寝た後で私達に話が有るらしい。


「そういえばモニカちゃんから聞いたけど料理得意なんだって?」


「えっ、そんなアタシそこまでは……」


「だって、あの元王宮メイド長のモニカちゃんが絶賛して……あっ……」


 何かまずい事を普通に喋ってたみたいで顔色が悪くなった後に聞かなかった事にしてと言われ私は頷いた。


「それもアタシ達のためなんですよね、黙ってま~す」


「ごめんね、私って昔からシンに口が軽いとか言われててさ……」


「誰でもうっかりとか有りますし~」


 それに自分も最近は高確率で星明に色々と注意される。付き合うまでは優しかったのにと言うと狭霧さんはフフッと笑った。


「それ、あるあるだよね、私もシンが高校までは甘やかしてくれたのに大学行き始めてから厳しくなって来てさ~」


「そうなんですか!?」


「そうだよ幼馴染あるある、付き合うようになってから楽しい事も増えたけど厳しくなったって言うか……愛の鞭?」


 私と星明も正真正銘の幼馴染と判明したけど幼馴染歴は狭霧さん達の方が遥かに長い。言わば先輩幼馴染だから新米幼馴染の私は教えてもらう必要が有ると思う。


「そうなんですか……それで二人の出逢いって、どんな感じだったんですか?」


「えっとね私が四歳の頃にシンの家の隣に引っ越して、その時からなんだ」


 家が隣同士で小さい頃から一緒で今は結婚して三人の子持ち。凄い理想の幼馴染カップルだ。絶対にコツを聞かなきゃと私は密かに闘志を燃やして聞き役に徹する事にした。


「え? じゃあ高校の時にヤクザと傭兵に拉致されたんですか!?」


「うん、梨香さん……当時はマネと一緒にね。でもシンや工藤先生とか他にも七海先輩たちが皆で助けてくれて大変だったんだよ~」


 大変ってレベルじゃないと思う。てか傭兵って何? 今まで何で動乱と呼ばれているのかが謎だった例の事件。聞いた話では誘拐事件だと思っていて違和感が有ったけど納得した。銃弾が飛び交う高層ビルを舞台に戦ったならそれは動乱だよ。


「てかマネって何の話ですか?」


「あ~、私って高校の時、少しだけアイドル見習いやっててね」


「そうなんですか……てか梨香さんがマネージャー!?」


 狭霧さんって金髪碧眼のハーフ美女だし今だって普通にJDで通じそうだから昔アイドルやってても違和感は無い。そんな話を聞いてたら気付けば子供達が寝る時間で私と星明への話が始まった。



――――星明視点


「では、やはり俺は……」


「ああ、綺姫ちゃんは問題無いけど星明くんは過去を思い出すほど因子が強まり危険だと研究部門は見ている」


 俺と綺姫は改めてⅠ因子の危険性そして対処法についてレクチャーされていた。そんな中で問題になったのが俺達の過去や思い出への探求心だ。


「そんな……星明だけだなんて」


「僕も調査はするし出来る限り何とかしてあげたいが具体的には君達の卒業まで待って欲しいのが現状なんだ」


「信矢さん、気になっていたんですけど何で卒業までなんですか?」


 実は当初から気になっていた。俺は爆発するタイミングが分からない時限爆弾のような存在だ。すぐ処理すべきなのに卒業を待って対処すると言われた。しかし世界規模の問題なのに対応が悠長に過ぎると思う。


「実は時間の他に大事な要素も有るんだ、それは場所だ」


「場所……なんですか?」


 場所だと? 綺姫の疑問に俺も意味が分からない。だから先を促すように信矢さんを見ると話は意外な方へと繋がった。


「君達を迎える専用の治療施設、あれの完成が来年の三月なんだ」


「え? そんな事ですか?」


 正直かなり拍子抜けな答えだった。

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