第178話 取り戻したい思い出 その2


「綺姫ちゃん、病院だから静かにね」


「す、すいません……つい」


 静葉さんに言われて綺姫も落ち着いたようだ。相変わらずというか二度しか遭遇して無いが破天荒な両親だ。


「そう言えばコソコソ院内を歩き回っていたが、あれは逃走ルートの確認や病院の内部情報を探っていたのか……」


「あっ……私も見た覚えが」


 父と静葉さんが思い出したように当時を振り返って言うと綺姫は泣きながら土下座しそうになっていた。そして俺は慌ててそれを止めていた。


「綺姫!! 大丈夫だから落ち着いて!!」


「でもぉ、星明ぃ……あのバカ親もうダメダメだよぉ……」


 俺が父と静葉さんを睨むと二人もつい口が滑ったようで黙った。実際、俺の記憶の手がかりになると思って過去を回想していたらしいから怒るのは筋違いだがタイミングが悪過ぎた。


「ゴホン、まあ、その何だ……君と両親が関係無いのは判明している訳だ、だから何と言うか気落ちするべきでないと、その……愚考するが……」


「父さん!! 大人しくストレートに言ってくれ!!」


 俺が言うと少しの沈黙の後に「気にするな」と小声で言った。今までの父とは真逆で色んな意味で驚かされる。だが昔の父はこんな感じだったと静葉さん達が言うから本来はこんな感じだったんだろう。


「ありがとうございますぅ……アタシ一生かかっても償いますからぁ……」


「私も似たような立場だ。それに星明が世話になっている件も有る……だが、それに関して一つ重大な問題が有る」


 父が神妙な顔をした後に俺を睨んでいた。前は怒り狂っていたが今は静かに怒っている感じで何か嫌な予感がする。


「な、何だよ……父さん」


「お前そこの天原の娘、いや……綺姫さんを傷物にしたそうだな?」


「き、傷物って……ま、まあ、それは……」


 その父の言葉で俺は数ヵ月前の綺姫との出会い、いや再会の時の状況を冷静に振り返ってみた。竹之内先生にも前に言われたが俺のやってた事は犯罪でグレーゾーンからハミ出て真っ黒だったのを思い出していた。




「でも、あの時は……」


 確かに綺姫とは勢いで色々と致してしまっている。だけど治療と言う面も有ったし今は両思い同士の幼馴染で全てが悪じゃないと思っていたら父は予想外な話を持ち出した。


「静葉の話では彼女に対し金銭で無理やり肉体関係を強要したと聞いたが?」


「え? そ、それは……」


 あの時は他に方法が無かったし今すぐ父に対し言い訳が思い浮かばない。そして落ち込んでいた綺姫がキリッとした顔をして口を開いた。あ、これはマズいと思ったのだが遅かった。


「ち、違うんですお義父様!! アタシが親に売り飛ばされた所に星明が来て『俺に買われるのと他の男に抱かれるのどっちが良いんだ?』ってベッドで泣いてるアタシに言って少し強引に抱かれた後に1200万円で買われただけなんですっ!!」


「綺姫、それは語弊が……」


「なっ……ほ、星明!! そこに直れっ!!」


 その後、父だけでは無く工藤先生にも説教された。それから父は改めて監視を強めて欲しいと先生に頼んでいた。そして紆余曲折あったのだが俺と綺姫の同居は普通に認められた。じゃあ何で俺は怒られたんだ?




「「お世話になりました」」


 俺と綺姫は検査入院期間中も特に問題無く予定通り帰宅の許可が下りた。そして本日は退院の日だ。


「じゃあ二人とも避妊はしっかりすること、良いわね?」


「分かりました静葉お義母様!! 元気な子供を産んでみせます!!」


 どうやら綺姫は静葉さんの言葉の意味が分かって無いようだ。静葉さんに再度の指導を受けているが天然なのか計算なのか半分以上を受け流していた。一方で俺は神妙な顔で話し合う父と大人二人を見た。


「では工藤くん、春日井くんも星明と綺姫……さんの二人を頼む。二人とも思った以上に暴走気味で強めに抑えて欲しい」


「お任せを院長、風紀には厳しく行きますので」


「病状を加味すると二人はイチャイチャしてる方が良いんですが……ま、監視はしますから孫がいきなり出来る事は無いですよ」


 監視は厳しくなるのは確定だ。ここ数日で父とは何度も真剣に話し合って互いの考えをぶつけ合った。今までのこと、母のこと、何より綺姫と俺のことだ。


「星明、私がお前に何かを言う資格は無い。だが今後はサポートは出来る……いきなりで難しいだろうが……困ったら連絡して欲しい」


「ああ、分かったよ父さん……ありがと」


 俺は父と握手をして別れを告げると工藤先生の車でマンションに戻った。そして十日振りの部屋で綺姫は真っ先に自室に駆け込むと何かを探していた。


「うん、有った!! この箱!!」


「綺姫どうしたの? 今日は信矢さん達が一緒に飯をって……それは!?」


 部屋の隅で開封された段ボールの中には厳重に封印されていた例の赤いカチューシャが有った。一時は忌むべき対象とされていたが今は無罪放免となったから無事に解放されたらしい。


「うん、星明がお祭で買ってくれたカチューシャ出してあげたんだ~」

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