第20話 崩れ始める偽りの日常 その3
◆
あれから図書室に行き図書委員にも綺姫のことを尋ねたが成果は得られず家に急いで戻った。もしかしたらマンションに来ているかもしれないと思ったからだ。
「いないか……」
部屋に戻ると整理整頓された部屋を見て彼女を思い出す。二人で掃除した部屋は広くて清潔になったが物寂しかった。理由は分かっている彼女が居ないからだ。
「落ち着け……心当たりは……」
自分に言い含めるように呟き時計を見ると午後三時過ぎで次の心当たりを探そうと俺は八岐金融のビルへと向かった。変装している時間も惜しいから制服姿のまま行くと六未さんが居てすぐに通してもらえた。
「じゃあ綺姫はここに居ないんですね?」
「少なくとも私は知らない、てか来ないだろ普通」
六未さんは俺達が先日お土産に渡したケーキを食べながら話を聞いて答えてくれた。冷静に考えたらそうだった。
「そう……ですか」
「うちを疑ってんの? 話まとまった以上は手出しはしない」
「そう……ですよね、でも綺姫が学校に来なくて俺どうすれば……」
正直な所、少しだけ期待した自分がいた。何か別件で綺姫が呼び出されたか最悪の場合は拉致されたかも考えた。例えば両親が見つかったとかで綺姫を呼び出したなんて仮定まで考えたほどだ。
「ふぅ、じゃあ兄貴たちに連絡してみる、あんたはこの後どうする?」
「ありがとうございます!! 俺は次はジローさんのとこに行こうかと……」
「分かったジロー兄さんへ連絡は私がしといてやる、行きな」
「すいません、では失礼します!!」
俺は六未さんに頭を下げると今度は急いで事務所を出てジローさんの店に向かうために駅前に走った。
◆
そして俺は本日会うのは二度目となる人物と駅前で遭遇した。
「今日はよく会うじゃん葦原……」
「
駅前にいたのは海上だった。何でという疑問の言葉を飲み込んで何を言うべきか考えていると向こうが勝手に喋り出していた。
「私もアヤを探しててね、ここら辺で会ったんでしょ?」
「あっ……ああ、そう」
「ん? ど~したん? ああ……咲夜は駅の反対口探してっから今いないよ」
正直なところ浅間は苦手だから助かった。俺は相槌を打ちながらスマホを開いて時計をチラ見する。それだけで察してくれたようで海上は俺をすぐ解放してくれた。
「ああ、何か急いでる感じ? わるい」
「あゃ、天原さんを見かけたら俺も連絡する……じゃあ」
綺姫と口走りそうになって緊張したけど何とかごまかせた。そんな事より今は綺姫を探さないといけないと頭を切り替え俺はジローさんのいる店へ向かった。
「ふ~ん……ただの根暗じゃないかアイツ……さて私もアヤを探さなきゃね」
そんな海上の呟きにも気付かず俺は改札をダッシュで抜けると電車に滑り込んだ。
◆
「来てねえぞ? てか一人で来れねえだろ嬢ちゃんじゃ」
「拉致ったりとかしてませんか!?」
前回ジローさんに逆らってから無駄に根性が付いたせいで色々と物を言えるようになっていた。それに頭に血が上って冷静じゃなかったようで目の前の人も呆れたトーンで俺の質問に答えていた。
「してねえよ、少し落ち着けやガキ」
「……そうですか、すっ、すいません」
「なんつ~か意外だなガチでゾッコンじゃねえか」
それを言われて俺は何と答えていいか複雑だ。綺姫は俺の提案に乗ってくれた得難い存在で共犯者だ。ただのビジネスパートナーなだけで俺は自分でも、どうして焦っているのか理解出来なかった。
「それは、その……」
「オメーはもっと女にゃ冷めてる奴だと思ってたぜ、今までも女に告られたことくらい有ったろ?」
それに曖昧に頷くと思い出す。実は何度か告白された事は有った。でも俺は彼女らの告白に欠片も心が動かなかった。打算的で明らかに俺を金づるとして見ているのが丸分かりだったからだ。
「人の悪意は分かりやすいんすよ……俺はよく知ってるんで」
「オメーの親か、でも義理のカーチャンは良い人なんだろ?」
「まあ、俺の事を気にかけてくれてますよ血の繋がった父や母よりも……ね」
義理の母は俺と自分の連れ子である義理の弟とを分け隔てなく育ててくれた良い人だった。もう一年以上会ってないけど元気だろうか。
「てかよ、オメー肝心なとこは調べたか?」
「肝心なとこ?」
「天原の嬢ちゃんの家だよ、行ったか?」
そこで数秒間、俺は完全に沈黙した。そして「あっ……」と小さく呟いた。ジローさんにすぐに行けと怒鳴られると急いで彼女の家に向かう。そこで俺は予想外な人に出くわした。
◆
「これって……何が?」
「泥棒だってよ……セーメイ?」
「へ? 四門さん、それに吾郎さんも!? 泥棒って一体?」
俺が綺姫の家の前に到着した時には家の周りは野次馬が取り囲んで見えなくなっていた。昨日は気付かなかったが玄関のドアの一部が陥没し、ポストもひしゃげて落ちて端に寄せられていた。
「あれ壊したのテメーか吾郎?」
「悪い兄貴、つい……な」
「ったく、六未もオメーもガキ相手に何してんだよ」
二人の会話でムツゴローコンビによって綺姫が店に連れて来られた時の話を思い出す。そんな会話を聞いていると玄関が開き中から制服姿の警官二人と綺姫が出て来たから思わず叫んでいた。
「綺姫!!」
「あっ……ほ~し~あ~き~!!」
綺姫が群集をかき分けてこっちに走ってくるから思わず両手を広げていた。これを横で見ていた四門さん達に後で死ぬほどからかわれるのだが、この時の俺は綺姫が無事なことに安心して他に考える余裕なんて無かった。
「良かった、大丈夫?」
「うん……ごわかったよぉ~」
泣きじゃくる綺姫をしっかりと抱きしめると群衆の視線が一斉に向いた。そして俺は無意識に後を追って来た警官二人を睨みつけて口を開いた。
「何が、有った!? 答えてもらうぞ!!」
初対面の人間しかも一人は婦人警官だったのに俺は怯まず正面を見据えた後に自ら前髪をかき上げ臨戦態勢をとる。彼女を守るために俺は本性を曝け出した。
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