第14話 困惑と本音の間の隠し事


 俺は彼女の言葉がすぐには理解出来なかった。思考停止している俺に綺姫は矢継ぎ早に話し始める。


「そもそも私とする時は毎回キチンとしてくれるし、そりゃ痕とかは凄いけど……他の人も……なんでしょ?」


「いや、それは……まあ、しました」


 やっぱりそっかと呟いてガッカリする様子が謎だが彼女はすぐに俺の方を見て何故か両頬を叩いて気合を入れ直し「よしっ!!」と言って視線を上げた。


「な、ならさっ!! 私が一番お金出して……星明に買われたんなら、それくらいは普通っていうか……当然だし、むしろ……もっと!!」


 ここで俺の頭の中で疑問が浮かんだ。綺姫の態度が今まで抱いてきた嬢たちと違ったからだ。今まで行為後は「お疲れ~」的なノリで事後にこんな態度を取られたのは初めてだった。


「でも俺は……学校じゃ陰キャで病気持ちで……」


 そして俺は今さら罪悪感を感じていた。彼女から見れば助けられたのかもしれないが俺は金の力を使って彼女と無理やり関係を持った情けない人間だ。だから自然と色んな言い訳が口から出ていた。


「その陰キャって言葉、私は嫌い……それに星明って学校で人を襲わないように、ずっと一人で頑張って来たんでしょ?」


 だが綺姫は俺の現状や内心を理解してくれた。彼女の言う通りでこの病気が他人にバレたら学院生活が破綻するのは確実で入学からずっと一人で耐えてきた。


「皆に迷惑にならないように、ず~っと頑張って来た星明は凄いよ、私なら絶対無理、泣いちゃうから……」


「でも昨日もせましたよね? 記憶が曖昧で申し訳ないですが」


「うん、すっごいされちゃった……凄かったし」


 どうしてだろう何か言葉の意味が違う気がしたのは気のせいか、いや気のせいに違いない。そこで互いに沈黙した後に先に口を開いたのは綺姫の方だった。



――――綺姫視点


 起き上がると体の節々、特に腰が痛いのに少しの苦痛と満足感を私は覚えていた。昨日というか日付けが変わってたし今日まで散々、目の前の彼に抱かれた証拠だ。


「それより今日は急がないと、ね?」


「いや、まだ話は――――「私は気にしないよ、お仕事だしね? あ、でも体中にいっぱいキスマーク付けられちゃったから、それは困っちゃうかな~?」


 私が言うと星明は露骨に動揺している。この数日で分かったのは星明は思った以上に紳士的だったという誤算で同時に押しに弱いタイプな事だ。


「わるい、いつもは店から帰るだけで後の事なんて考えて無くて」


「そっか……じゃあ私、シャワー浴びて来るね~」


 浴室に入る前にチラっと見た星明の顔が明らかに後悔しているのを見て私は自分の勘が当たっているのを確信した。そこで思い出すのは夜の街で会った時の事で最初は本当に怖かった。


「ふんふ~ん♪」


 でも私が泣いて懇願すると話を聞いてくれてヤクザ屋さんに話をしてくると言って出た。だから私はチャンスだと思って星明を囮にして逃げ出そうとした。


「だけど声が聞こえて気になって覗いたら、私のために……」


 星明は私を助けようと必死にあの恐いヤクザ屋さんを説得しようとしていた。親には捨てられ初恋の幼馴染にも目の前で見捨てられ途方に暮れていた私を助けようとしてくれたのは星明だけだった。


「しかも最後は私を庇って殴られて……怪我まで」


 何度諦めろと言われても首を縦に振らない星明は最後は私のために殴られた。だから私は我慢出来ずドアを開けていた。


「あんなのズルいよ……体張って助けてくれるなんて、反則だし」


 私の愛読書(立ち読み)の漫画でヒロインを守っていた王子様みたいで、だから私は覚悟を決めた。それに、そんな星明なら一度くらい体を許しても良いと思えた。


「で、でも思ったより悪くない初体験だったし……てかタマと咲夜が言ってたのと全然違くて気持ち良くて……えへへ」


 初めてを思い出すだけで自分がだらしない顔をしてるのが分かる。それで星明に抱かれたことで自信を付けた私は夜の街でもやっていけると思えた。だけど、そこで待ったをかけたのも星明だった。


「私……買われちゃったんだ、これって1200万円分働くまで俺の傍にずっと居ろって意味だよね、つまり一生返さなければ……」


 それから今日まで星明に三回抱かれた。色々と激しかったけど凄く満たされて最後は頼られた。こんな充実感は生まれて初めてで最後は私の胸の中で眠った星明の寝顔が愛おしかった。


「あの寝顔は私だけしか知らないはず……だって他の女とはエッチして終わりだけど私は一緒に寝れるんだから……」


 店で話した夜の街の人達に聞いた星明の評判は凄まじく良かった。いわく天性のテクニシャンで教えれば技術の吸収も早い。そしてレナさんは星明は私が育てたと言ってて腹が立った。


「でもいい……これからは私がいる……もう私だけがいればいいんだから」


 それだけ呟くと私は浴室で洗濯の終わった制服に着替えた。いくら星明が元気過ぎても何度もエッチしたら疲れるし今日は大事な話し合いが有るから自重する。


「さぁ~て、頑張りますか!!」


 気合を入れ直すと私は十年越しの幼い初恋をあっさり捨てて切り替えると新しく見つけた片思い相手の待つリビングに向かう。初恋は実らないと聞くけど私はそれで良かったと思えた。だって代わりに最高の運命の相手に巡り会えたから。



――――星明視点


「さて、着いた……ここが八岐金融のビル」


「うっわ、なんか趣味悪いね~」


 なぜか先ほどから上機嫌の綺姫と八岐金融のビル前まで来たけど不安だ。それに彼女から恋人同士なところを見せ印象付けた方がいいと言われ腕を組んで来た。彼女は嫌ではないのだろうか。


「まあ、モスグリーンのビルなんて不気味か……」


 そんな話をしながらビルに入るとエレベーターの扉が開いて中から出て来たのは二人の男女で目が合ったと同時ににらまれた。


「お? 待ってたよセイメー大先生よ~」


「来たかセイメー、それと君も」


 それは八岐金融の暴力・脅迫担当のムツゴローコンビだった。

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