第22話 事件発生 その2

 男の子を自分の部屋に入れるのは尊男以外では初めてだ。もっともアイツは二度と部屋には入れたくない。そもそも私の前に顔を出すのだって出来ないだろう。私はそんな事を考えながら星明を見た。


「あの……ね、その……」


「何か言い辛いこと? もしかして事件関連か?」


「うん、アタシ怖い……」


 私の顔を見た星明の顔は先ほどと同じ目で本当に私を心配してくれているのが分かって安心する。今の私には頼れる人は星明しか居ない。


「そうか……でも綺姫が無事で安心した」


 その言葉にホッとした。目の前の星明は学校にいる時と同じ格好だけど眼は学校とは違って優しい感じがして不思議だ。だから私は自然と願望が口から出る。


「一人でこの家に居たくない、怖い……よ、助けて」


 せめて一晩だけでいいから一緒に居たかった。この家じゃない場所で出来れば星明と過ごしたかった。とにかく今は私を連れ出して欲しいと思って星明を見た。


「分かった綺姫」


「ありがと……よかった」


 これで今夜は安全だ。そう思って安心した私は次の星明の一言でさらに良い方向に裏切られることになった。


「よし、じゃあ荷物まとめて、あと必要な物はバッグにまとめて、触って良い物なら俺も手伝うから」


「へ? どういう……こと?」


「事件が解決するまで俺の部屋で一緒に暮らそう綺姫」


 どうしよう凄い嬉しいんですけど……いきなり同居なんて急展開過ぎる。そりゃ昨日まで泊ってて一緒に生活してたから私は全然問題無いし、むしろ大歓迎で嬉しい誤算で嬉しい……言ってて変になってきた。


「わ、私、そんなつもりじゃないし、で、でも――――」


 でも星明が良いならすぐに荷物をまとめて一生お世話になりますって言おうとしたら星明は急に神妙な顔つきでハッと気づいたような顔をして口を開いた。


「あっ!? そうか綺姫の気持ちを考えて無かった!? 安全を考えたら一番だと考えて……でも君が嫌だったらホテルに部屋を用意するから……」


 いやいや私は嫌だなんて一言も言って無い。今のは日本人的な遠慮する文化みたいな感じで一回くらいは迷った振りしないとマズいかな~って思っただけで私の本音は一緒に住む気満々だ。


「待って、待ってよ星明!!」


「ごめん、だけど――――「私マンション行くの嫌じゃない、ただ星明に迷惑かけたくないだけだから!!」


「えっ? 迷惑じゃない!! ぜんっぜん迷惑じゃないから大丈夫!!」


 こうして私と星明の同居生活が決まった。私はバッグ二つに残されていた地味めの私服と必要な物を詰め込んで最後に迷ったけど、いつものカチューシャを拾うとカバンの中に入れ家を出た。



――――星明視点


 何とか綺姫の説得に成功すると外で待ってくれるように頼んでいた吾郎さんにマンション前まで送ってもらうことになった。


「何かドライバーみたいなこと頼んで、すいません」


「気にするな兄貴の指示だ……それに食堂での話で天原には借りが有ると分かった」


 この借りとは綺姫の家のドアやポストの器物損壊のことで綺姫は今回の犯人の仕業として警察に言ったらしい。つまり吾郎さんの罪を他人になすりつけた形になる。


「借りって……そんな私は……」


「とにかく気にすんな、じゃあな二人とも……」


 そう言って吾郎さんは車で行ってしまった。俺は綺姫の荷物の一つを受け取るとエレベーターに乗る。そのまま無言で部屋まで到着すると同時に溜息を付いていた。


「取り合えず一安心か」


「うん……あっ、そうだ今日からよろしくね星明」


 部屋に入って安心したのか綺姫に笑顔が戻っていた。ぎこちない笑みなのは疲れているのか、それとも再びこの部屋に戻って来たからかは分からないが今は彼女を休ませるのが第一だ。


「部屋はここの和室を使って」


「ありがと、やっぱり広いな~何か同棲するみたいでワクワクするね」


「ど、同棲……」


 こんな展開、俺には一生こないと思っていたけど綺姫の言う通り今の俺達は同棲を始めたカップルに見えなくもないのでは……いやいや今回は仕方なく一緒に生活するだけだ自分の分を弁えろ。


「あっ、ごめん……アタシ安心したらつい本音が……」


「そっ、そうか、取り合えず水とウーロン茶しか無いけど何か飲み物持ってくる」


 慌てて部屋を出て今言われた事をふと考える。本音とは部屋が広いと思ったことなのか、それとも同棲するみたいの方なのか、できれば後者だと嬉しいけど俺は怖くて聞くことが出来なかった。




 あれから少し夜は遅いが俺は綺姫を外に連れ出した。必要な物を揃えたり明日以降のために二人で準備を整えるためだ。


「綺姫、あと必要な物は?」


「う、うん……もう大丈夫だよ」


 俺も少し分かってきた事が有る。綺姫は見た目がギャルっぽいだけで実は優しく気配りの出来る子で同時に意外と遠慮するタイプだ。俺の中でギャルとは図々しく遠慮しない生き物だと思っていたから意外だった。


「遠慮してない? その……色々と盗まれたから衣類関係は?」


「じゃ、じゃあ……下着はコンビニのでいいから、あっダメだ、コンビニのって意外と高いから別んとこで」


「今は開いてる店も少ないからコンビニにしてもらう、これ命令だから」


 そして一緒に何度か買い物をしてる中で一番いい解決方法がこれだった。綺姫は俺が代わりに金を出すのはもちろん貸すのも拒否していた。本人いわく返す当てが無いのにダメだと前に俺に言われた言葉が効いているらしい。


「また命令……でも星明の命令って私に優し過ぎだし……」


「俺がしたいだけだから従ってもらうよ」


「うん、ありがと」


 俺の言葉の責任も有るし強引だが一番確実な手で動く。これは四門さんの教えだ。相手の弱みを突いてでも自分のしたい事をやれと俺に教えたのはあの人だった。

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