第134話 トリプルデート その1
◆
「星明、どう?」
「似合ってるよ綺姫、でも一度も見たこと無い服だね」
今の綺姫はマリンブルーのワンピース姿で少し大人な装いだ。何を着ても可愛く着こなす俺の彼女が今日も可愛いと俺は感動していた。
「こういう日のためにタマと咲夜と一緒に買ったのです!!」
俺が姫星祭の準備で遅い時に三人で集まってケーキバイキングに行ったらしい。そして、その帰りに服も見て来たらしく例の夏のバイト代で買ったそうだ。
「そうか、綺姫も楽しんでるようで安心した、にしても遅いな皆」
「咲夜は八上さんも一緒だから大丈夫だろうし、タマは……っと来た来た!!」
「お待たせ二人とも!!」
見ると目的の瑞景さんを伴い海上がやって来た。瑞景さんは薄いブルーのシャツに黒ジーンズというラフな格好だ。行くのが遊園地なのだから当然かとは思う。実際、俺も下は黒のチノパンとシャツだから人の事は言えないだろう。
「タマかっこいい~」
「そう? 動きやすさ重視」
そして海上は肩出しの白のトップスにデニムのホットパンツという露出度過多な恰好だ。今も綺姫が俺の腕に抱き着いてなければ危なかった。
「星明は病気だけど、ダメだからね?」
「分かってる、だから綺姫が傍に居てくれるんだよね?」
「も~、仕方ないんだから~」
それに、こういう名目で綺姫と触れ合っていられる役得も有る。トラウマの象徴の病も綺姫と一緒なら盛り上がる要素の一つにしかなり得ない。だから最近は病気になんて負けないと強くなれている気がしていた。
「ごめ~ん、みんな~」
一番最後に合流したのは浅間と聡思さんペアだ。しっかり手を繋いだまま手を振っていてるのを見て綺姫が嬉しそうにしていた。そんな聡思さんはグレーのスラックスパンツと上は黒のシャツと薄手のこげ茶色のジャケット姿だ。
「咲夜が見てそれかぁ……」
「だってさ、タマ……服が他に全身真っ黒とかばっかでさ……ぶっちゃけコーデのしようが……聡思兄ぃ、お願いだから服買って」
そういう浅間は少し短めの白のプリーツスカートにベージュのシャツそして薄手で水色のカーディガンを羽織っていて、失礼ながら一番女の子っぽいと思った。
「何よ葦原?」
「いや、夏とは違って随分と――――「星明~、アタシの服だって咲夜にコーデしてもらったんですけど~!?」
綺姫が俺の腕に抱き着くと大きな胸の間に俺の腕がギュッと包まれる。昨晩の行為を思い出しそうになると、かんざしをこれ見よがしに取り出し見せて来る。今日は髪を解いているからバッグの中に入れていた。
「はは~ん、葦原が見惚れちゃったか、悪いわね~、アヤ?」
「星明、こういうのも浮気だと思う……」
「ちっ、違うんだ、珍しかっただけで俺の中で一番は、綺姫だけだから!!」
半分本当で半分嘘だ。浅間の恰好をもし綺姫してくれたらなんて思ってしまった。だから見惚れたのは間違いは無いけど、決して浅間だけに目を奪われたんじゃない。あくまで服の方に視線を奪われただけだ。
「ふ~ん、もう一回!!」
「綺姫が世界で一番だ!!」
それでご満悦な綺姫が頬にキスをして何とか許してくれた。基本的に最近の綺姫は仲直りの度にキスをしてくる。そんな感じで合流した俺たちは瑞景さんのレンタカーで目的地へと向かった。
◆
「ここが南武オータムパークアイランドか」
「ちょうどミカ兄がチケットの用意が有ってね~」
海上が笑みを浮かべて言うが目は笑っていない。そんなんじゃバレるんじゃないかと思うが瑞景さんは普段と変わらない。今日までに五人で話し合った限り瑞景さんは簡単に口は割らない。だけど一つ分かってる事が有る。
「じゃあ各々カップルで別れてお昼に集合でいいよね?」
「うん、さんせ~」
綺姫の言葉に浅間が同意して俺も続こうとしたタイミングで瑞景さんが動いた。
「いやいや最初は皆で回らないか? せっかく久しぶりに再会できたんだしさ」
「いや、でもさ……ほら、咲夜とかアヤも」
海上が暗にカップル別で行動しようと言うが普段は空気を読む瑞景さんが今回はガン無視している。
「だけど俺たちと違って四人は来るのは初めてだろ、最初の一つか二つくらい良いじゃないか」
「でも瑞景さん……ま、仕方ないか」
最後は聡思さんが折れる形で六人行動になった。だが、これは俺達の予想通りの展開だ。今回は向こうが監視するんじゃない俺たちが監視する。そして作戦を仕掛けるのは綺姫と浅間それに聡思さんがトイレに行って三人になった時だ。
「あの瑞景さん、やっぱり別行動しませんか?」
「いやいや、午後からはバラバラなんだしさ」
「ミカ兄ぃ、じゃあ、お願いあんだけど咲夜と八上さんだけでも別行動ダメ?」
「どういう意味だ?」
そこで海上は高校生組だけで話したと言う嘘話をした。浅間が今回のトリプルデートで聡思さんと仲を深めるために計画したのが狙いで、一度バラけた後に俺や綺姫と再合流して二人の様子を見ようという話だ。
「なるほど、それで何度も……もちろん良いよ」
それを聞いて改めて本当に狙いは俺達なのだという推論は確信へと変わる。だけど何で瑞景さんは俺や綺姫を監視しているのだろうか。謎は深まるばかりだ。
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