第十七章「偽りの二人の関係」

第161話 一触即発、大爆発? その1


 後夜祭のステージで軽音楽部の校歌のロックVer.が響く中で俺は涼しい顔をしている春日井さんを見た。


「真実なんですね?」


「そうだね、でも様々な人間のプライバシーそれに君や君の実の母親、そして天原さんの過去にも関係するから話すには場所が悪いかな」


 その情報量の多さに俺は固まった。色んな人間のプライバシーに関わるのは理解できる。俺の過去それに離婚した母に関係しているのも分かる。だけど最後の一つが問題だ綺姫の過去に関係している?


「うっ……なん、で? ぐぁっ……頭がっ!?」


 綺姫の過去と聞いた瞬間、頭痛がした。かなり強烈で膝から崩れ落ちる。遠くで綺姫の声が聞こえた気がする。


「やはりか……これを飲むんだ葦原くん」


「そんな、怪しい、ものを飲め、るかよっ!!」


 これはサインだ。激しい頭痛の後に性衝動および暴力的な衝動が起きる。目の前の人が強いのは理解してるが暴走状態は男なら半殺し、女は犯すという最低な人間になるから今すぐ離れて欲しい。


「心配しなくていい、Ⅰ因子への特効成分の有る抑制薬だ。人体実験は済ませて既に認可待ちのレベルだから安心してくれ」


 普通に心配するレベルなんだが……しかし有無言わせず目の前の人はカプセルを俺の口の中に押し込むと無理やりペットボトルを俺の口に突っ込んだ。


「ほ、星明!! ちょっとあんた何してんの!?」


「あ~、もうシンは……ごめんね綺姫ちゃん……シン!! 乱暴過ぎ!!」


 遠くで女性の声が聞こえた。女……そうか女なら犯せば……いや、ダメだ。それだといけない。そうだ落ち着け葦原星明。


「二人とも静かに!! 五分は抑えなきゃダメなんだ!!」


 何かが聞こえる。俺の奥に眠る暴力的な何かの衝動。分からないけど壊して犯して全てを俺の思うままにすれば、それだけで……と、俺が思った時だった。


「あ、え? これ、は? 赤い……光?」


「星明!! 星明!!」


 綺姫の声が聞こえる。でも俺の意識は奥に吸い込まれる。もう一人の俺でもいるのか? 深層心理ってやつか? と思った時だった。脳内に声が響いた。


(はい、そこまでだ腐れ外道、眠れ)


 その声が響いた瞬間、俺は意識を失いそうになる。深い闇に堕ちていく中で俺は頭痛が収まり同時に青い光に包まれるイメージを見た……それが何なのか分からないまま今度こそ俺は意識を失った。



――――綺姫視点


「星明を、離せぇ!!」


 目の前のメガネの優男、信矢さんに殴り掛かるけどビクともしない。私なんて完全に眼中に無いようで星明の脈を取ったり、おでこの熱を測ったりしている。


「あ~、もう!! 事情話さないから、綺姫ちゃん本当に落ち着いて大丈夫だから、ね?」


「何で、何で星明だけいつも苦しまなきゃいけないの……星明が何したってのよ!! やっと皆と文化祭できて普通に友達できて楽しんでるだけ!! 夜の街に居たのって、そんなに悪いの!? ねえ答えて!!」


 言い終わると同時に狭霧さんに抱き締められて落ち着いた。ずっと昔、誰かが抱き締めてくれた感触に似て冷静になると今度は目から涙が止まらなかった。そして私を見て信矢さんも口を開いた。


「本当に、その通りだね……でも一つ前進だ。やはり君が安全装置セーフティか彼の症状がここまで進行しても耐えられた原因は君だったか」


「そういう難しい話、わかんない」


「君が居たから星明くんは耐えることが出来たって意味さ、でも血縁じゃない安全装置は新パターンだ……だから発見が遅れたか、とにかく彼に報告しなくては」


 何かまたブツブツ呟いてるけど私の怒りは少しだけ収まった。だって星明の表情が穏やかになって寝息を立てたから。


「シン、どうなの?」


「大丈夫、仁人先輩の薬だ……折り紙付きさ」


「そういう隠し玉有るなら早く言ってよ~」


 二人の会話の意味は分からないけど星明はもう大丈夫みたい。でも、どうすべきかと思っていたら信矢さんは私に振り返って言った。


「天原さん、安全な場所に彼を運ぶから付いて来て欲しい」


「言われなくても!!」


「ふっ、昔の狭霧に似てるよ君は……行こう、足は既に用意してある」


 それだけ言うと私はすぐに立ち上がった。少なくとも信矢さんの処置で星明の症状が抑えられた。だから全て聞くまでは絶対に二人に付いて行こうと決めた。


「ちょっと綺姫どうしたの!?」


「葦原!? ちょっと大丈夫なの?」


 ここで大音量の演奏が終わり私や星明が居ないのにタマと咲夜が気が付きやって来た。幸い、あれだけ騒いだのに気付いた人は少ないのが不思議だったけど今はそれどころじゃない。


「今から行って来るから後よろしく!!」


「いや、ちょっとアヤ!?」


「行くってどこに!?」


「お願いタマ、咲夜も!!」


 それだけ言うと私は星明を背負って先に歩く信矢さん達を追った。そして校門前に停車してある見覚えの有る車を見て驚愕した。


「な、なんでぇ……」


「春日井支社長!! お迎えに上がりましたぁ~、お? 何だ綺姫じゃないか~!!」


「あら案外と早い再会ねぇ、元気だった~?」


 その車は先月くらいに見たばっかで、てか運転してるのは私の母で声かけて来たのは私の父なんですけど……一体どうなってんの?


「詳しくは車内で、これで少しは信用してもらえた?」


「いえ、この二人が居るなら信用度、逆に下がるんですけど」


 だって私こいつらに捨てられたんで!!


「う、う~ん、ご両親……だよね?」


「はい、狭霧さん!! でも捨てられました!!」


 大事なことなので口で改めて宣言しました。二人は困惑して苦笑している。ここに来てやっと二人を言い負かした感じがして少しだけ気分が良くなった。

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