第115話 世界の表と裏 その1
◆
――――星明視点
「――――ということで決定事項は以上、一年も含め問題無く進んでると思う」
「ここまで質問ある人いる~?」
週も明けて三日、放課後は今日も今日とて文化祭の準備だ。俺は去年までは指示される側だったが始まる一ヵ月前から準備が忙しかったのを初めて知った。
「ちょっといい?」
「ん? な~に愛ちゃん?」
「うちのクラスもだけど演劇が多過ぎない?」
二組の委員がホワイトボードを指差して言った。確かに三年だけでも俺の一組と他は六組以外の四クラスが演劇で演目は言わずもがなだ。更に一年と二年も含めると実に半数以上が演劇だ。
「確かに、使用時間を考慮すると最大でも一日で三回が限界だな」
「え? 時間的に六回くらい出来ないの?」
「綺姫、準備に軽いリハも考えて一クラスに二時間は必要だ」
「そ、そうなの?」
綺姫の言葉に手を上げて答えたのは去年も演劇を唯一やっていたクラスの委員で俺の意見が正しいと言った。
「それに……」
「え? まだ有るの?」
「うん、アヤちゃん……演劇部のこと忘れてない?」
文化祭では演劇部も当然ながら演目を行うし、演劇部以外の音楽系の部活のライブや他にも部活紹介も有ると時間は更に削られる。
「ご、ごめん、そこまで考えてなかったよ」
「大丈夫、それを今から話し合って解決するんだよ綺姫」
「う、うん、そっか星明!!」
「皆も
それを聞いた下級生の数名が何か小声で話しているのが気になった。書記の子と綺姫がホワイトボードに決定事項を書く間に俺は私物のノートPCで議事録をまとめていく。その後も会議は何とか踊らずに進んだ。
「全体で八クラスまで減ってもらったが……ふむ」
「あのさ星明、演劇って体育館のステージ以外でもできないの?」
「そうだね、出来るとは思うけど一度ちゃんと学校側との話し合いが必要になるから、今この場で判断できないかな」
あくまで決められた予算や設備の中でやるのが文化祭だ。それ以上の祭をしたいなら上に掛け合うかしか方法は無いと思う。
「でも、みんな頑張ってるし……ダメ?」
「分かった、じゃあ俺から顧問の先生に案を話してみる、皆はどう……かな?」
俺が言うと三年生は異議な~しという返事で二年や一年はザワザワした後に「分かりました~」と返事をくれた。その後また小声で下級生らが俺を見て話している。今日は解散だが、やはり俺のような元陰キャの指示では不満が有るのだと思う。
◆
――――綺姫視点
解散した後も星明がパソコンで作業に入って少し遅れると言われた私はタマと一緒に失礼な下級生を締め上げようと動いた。昨日も私とのエッチを我慢してプリントを作ってた星明をコソコソ悪く言うのは許せない。
「う~ん、悪くかは分からないから、アヤ」
「絶対に星明が自分たちのクラスの演劇を奪ったとか言ってたんだよ!!」
「いや、う~ん……ま、探ってみますか」
後を
「にしてもさ、葦原先輩ってさぁ……」
「うんうん」
やっぱり星明の愚痴だ許せんと出て行きそうになるのをタマに押さえられる。どうしてと目で言う私にタマは無言で下級生たちを見るように視線を動かした。
「マジでいい人だよね~、あのクズ井と大違いで私達の意見も全部聞いてくれるし、しかも改善点までプリントにまとめてくれてさ」
「だよね~、クズ井なんて去年は委員でも無いのに三年の先輩を『俺にボコられてえのか?』とか言っててマジでウザかった」
「え? マジ?」
なんか話が色々と違うんですけど……どういうこと? それに須佐井って去年そんなことをしてたの? ぜんぜん気付かなかったと私が見るとタマが頷いたから本当みたい。
「うん、去年の三年はクズ井の信者が多くて言えなかったんだ」
「そうだったんだ~」
「てかアヤ先輩も去年からクズに振り回されてたじゃん、しかも三年のクズ井狙いの
今度は私の話題になった。言われてみれば一年の時や去年なんかは上級生にウケが悪くて何回か衝突していたのを思い出す。
「たしかにクズが問題起こすと謝って回ってたしね~」
「そうそう人良すぎって、それも彼女だからかな~って思えば付き合ってないって言うし、ガチで不思議だった」
私って周りにそんな風に見られてたんだ。あれ? じゃあ何で星明のこと話してたんだろと思っていたら疑問はすぐ解消された。
「でさ、やっぱ葦原先輩って結構よくな~い?」
「うんうん分かる、フツメンで話しやすいし、実際会ってみると意外と気さくで優しいお兄さんって感じで~」
「私、放送委員から聞いたんだけど大病院の御曹司なんだって~!!」
「は? マジで、須佐井と違って実家自慢しないから知らなかったんだけど」
「そういうとこも大人じゃね?」
「「「わかる~!!」」」
こ、これは……ま、まさか……星明のことを下級生の女子の委員だけがコソコソ話していた本当の理由って……。
「私、一回くらいアタックしてみようかな~って」
「ちょっと止めなよ~、主役の二人だよ?」
「でもアヤ先輩と話す時だけフッと笑うの、あれ超タイプなんだよね~」
「分かる~、しかも朗読劇通りならアヤ先輩奪うくらいワイルド系でしょ?」
こ、これは、星明にモテ期が来ちゃった!? これは非常に由々しき事態だと私は来た時とは違う意味で戦慄していた!!
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