最終話 二人の決断と世界の行方
◆
――――星明視点
綺姫も思い出したらしい。あれは皆で初詣に行き二次会でカラオケに行った日だ。
「あの夜は色々と盛り上がったよね!!」
笑顔で言う綺姫だが実は三が日が終わるまで綺姫と二人で求め合い最後まで盛り上がってしまった。その時に何回かアレを使わなかった覚えが有るんだ。
「夜明けの三れっ――――「それ以上はストップだ綺姫!!」
周りの海上や浅間は固まっていて俺はあの時にデキた子かと綺姫のお腹を見て思った。そして視線を上げると快利さんと目が有った。
「くっくっくっ……いやぁ、分かるぜ!! 覚えあんだろ?」
「…………はい」
その言葉に俺は観念した。快利さんは先ほどまでの渋い表情から一転して笑い転げていて、こんな人が救世主で世界を救った人なんだろうかと若干、不安になる。
「いや~、俺も最初の子の時はデキたって言われた時、お前と似たような顔してたらしいぜ。ま、慣れるから心配すんな!!」
「はぁ……快利、彼は一般人ですよ? それより……結論から言いましょう。貴方たちの子ですがI因子を遺伝しています」
その言葉で一気に場が氷った。そのタイミングで七海さん発案で場所を移す事になり行き先は父の病院だと宣告され迎えの車がやって来た。
「おっ待たせしました~秋山区長!!」
「ただ今、到着……あら綺姫じゃない奇遇ね?」
手配されたリムジンが到着し驚いていた俺達だったが更に驚いたのは運転席から出て来た男女の存在で俺は固まり綺姫は叫んだ。
「何でここに居るのよ父さん、母さん!!」
「そりゃ私達、今は区長の専属ドライバーだからよ、ねえ?」
「ああ、逃亡中に秋山区長に助けられてから雇ってもらったんだ~!!」
綺姫がブチ切れてご両親に掴みかかるから俺は無理やり体を動かし止めようとしたが無駄だった。当の綺姫の両親のトドメの一言が「初孫だ~万歳!!」だったから綺姫を盛大に煽る結果となった。
「快利くん、あなたが二人を?」
「俺んとこ年中人手不足なんで……知ってますよね?」
「そうでした……それよりも、この後が大変ですよ、あなたも私もね」
「分かってますよ俺も覚悟して来たので、あと民主派ですが近い内に黙らせます。本国の陛下との協議も終わりましたので潰す事が決まりました」
こんな
◆
――――綺姫視点
「こんのバカ息子が!!」
「うぐっ!?」
私の検査が終わり病室に戻ると真っ先に殴られたのは星明だった。そして殴ったのはお義父様。ちなみに私は静葉さんにお小言を言われた後に「おめでとう」と言われ抱き締められ泣いていた。
「まあまあ、信矢さん達に代わって俺も謝罪します葦原さん」
「君が言うのなら……バカ息子と義理の娘が大変世話になったな救世主くん、それに千堂グループにも多大なご迷惑を……」
お義父様がサラッと私を娘扱いしてくれてると思って静葉さんを見ると頷いてくれた。病室の隅の方で実の親共が分かったように頷いているけど今は無視。感動が台無しになる。
「それに関して当グループの責任は大きいと考えてますよ。ですから例の件も含め改めて謝罪させて下さい葦原院長」
「君ほどの天才に言われれば私も溜飲が下がる……それに星明の薬の件では本当に助かった……心から感謝したい」
こうして千堂グループとの和解は仁人さんのお陰で上手く行った。それに快利さんとモニカさんの仲介も大きかった。今さら記憶が戻ったからだけど二人は、いや正確には快利さんは規格外の有名人で世界を救った救世主だった。
「では後は二人について……ですね」
モニカさんの言葉で私達に視線が集まった。いま病室に居るのは私達の両親と快利さんとモニカさんそれに仁人さんと七海さんだ。
「結果は陽性……まさか孫を作って戻って来るなんて……」
私は静葉さんの言葉に苦笑しながら「すいません」と言うしかない。約束を破ってしまった。でも後悔はしてない。だって星明と私の子だから。
「何も言い返せない……」
「当然だ、それで救世主が来たのなら他にも何か有るのだろう?」
お義父様の言葉に頷くと星明は快利さんを見た。さっきまで銀色の鎧姿だったのに、いつの間にか背広に着替えている。ちなみにモニカさんはメイド服のままだ。
「まず悪い話から……綺姫さんのお腹の子ですがI因子を遺伝しています」
モニカさんの言葉で私のお腹に視線が集まる。そして星明はまだ満足に動かない体で私を庇おうとゆっくり立ち上がった。
「本当……なんですか?」
「記憶が戻ったのなら俺の常識を超えた力を理解していると思うが?」
挑発するように言う快利さんの目は私達を品定めしているような感じで少し不気味だ。そして手にはいつの間にか先ほどの銀色の剣が握られていた。
「ええ、有り得ない話ばかりですけどね……」
「だが全て真実だ。その上で再度問う、返答次第では世界を守るため俺は非常な判断を下すかもしれない」
「それはつまり……俺と綺姫の子を?」
「ああ、世界平和のためならば俺は自分の手を汚す事は厭わない」
その言葉に私は星明と見つめ合うと頷き合って答えを出した。
「なら俺と綺姫も一緒に消して下さい」
「うん、この子が生まれて来れないならアタシ達も……ね」
その言葉に星明と私の考えは同じだと分かって嬉しくなった。だけど一瞬の静寂の後に病室に怒号が響き渡った。
◆
――――星明視点
「何を言っているんだ星明!!」
「そうよ綺姫ちゃん!!」
怒鳴ったのは俺の両親だった。抵抗も出来ず父に胸倉を掴まれるが俺は決断を変える事は無い。たぶん少し前の俺なら綺姫の腹の子を犠牲に二人で生き残る選択をしたはずだ。でも今は違う。
「魔王と、あの化物と融合して分かった……あの邪悪な思念は他者に悪影響しか与えない」
「うん……しかも自分の意思を無理やり捻じ曲げられて……ね」
I因子は最低最悪の病だ。感染していた俺達だけが分かる感覚で不幸しかまき散らさない。俺達の責任で子供に遺伝させたのなら全てを断つため自分達も一緒にこの世から消える。これが俺達の決断だった。少しでも残したら危険なんだ。
「綺姫……ごめん」
「ううん、一緒の気持ちで良かった星明……愛してる、から」
「俺もだよ綺姫……愛してる」
抱き締めた腕の中で綺姫が僅かに震えている。だから俺は綺姫を抱き締めたまま覚悟を決めて快利さんに向き直った。
「とまあ最悪の判断はそれだ……ま、お前ら三人とも救うからな? 俺が」
「「へっ?」」
そう言うと快利さんの手に今度は緑色の刀が握られていた。両手に剣と刀を持っているのは物騒だが何をする気だ? 武器を突きつけ俺達を救うとは意味が分からない。するとモニカさんが笑顔になって口を開いていた。
「言いましたよね、まず悪い話からと……次に良い話をしましょう」
「まず葦原、この場では星明それに綺姫と呼ばせてもらう。まずI因子だが星明から完全に取り除いた。残る問題は綺姫と腹の子だ、ここまでは分かるな?」
「はい」
そこから快利さん達の話が始まった。I因子の危険性から今までの魔王との因縁と奴の悪事なども聞かされた。綺姫や両親達は驚いていたが俺はそれ程でも無かった。覚醒した際に奴の知識と記憶も共有していたからだ。
「そこで星明、お前が重要になる、お前の脳内の情報を全て俺のスキルで念写する」
「それは良いんですけど、それで何を?」
I因子の元である魔王は研究者としての側面も有ったそうで、その知識量は凄まじく奴の貯えた様々な研究成果を俺の記憶から回収できれば様々な分野に応用が出来るそうだ。
「その知識で俺は改めて『人造魔王計画』再始動させる。ただし、あくまで治療目的で計画名も『I因子撲滅計画』と変更する予定だ」
「あのぉ~、それのどこが良い話なんですか?」
俺は今の話だけで快利さんが何を言いたいのか理解していた。綺姫は分かって無い様子だが周りの人間もほぼ話の内容が分かっていた。
「快利さん、それって……まさか俺達の?」
「ああ、当グレスタード王国特別独立自治区『七愁時因』は今この時より君達を我が国へ迎え入れる。理由は当王国の『I因子撲滅計画』への参加協力のためだ」
快利さんの言葉に続いてモニカさんも頷くと口を開いた。未だに理解できてない綺姫への説明のためだ。
「綺姫さん、その計画の内容は様々な人々を救う事を目的としていますが、その中には当然これから生まれてくる二人の子も含まれているんです」
「えっ、ええええええええ!! じゃあ産んで良いんですか!?」
「それを決めるのも二人次第……さて、どうします?」
「もちろんI因子と一家心中するのも君たち二人の決断で止めはしない。ただ……おススメはしない、この神刀で二人は今すぐにでも完治させる事は可能だしな?」
そう言って緑の刀を快利さんは見せて来た。この人は自治区とはいえ実質的な
「綺姫……さっきの話なんだけど……」
「う、うん……星明、そのぉ、やっぱりアタシも……」
俺達の決心は秒で崩れ、やっぱり生きたいと即方針転換していた。二人して子供の事や自分達の責任も考えて格好つけたが問題が一瞬で解決した以上は仕方ない。しかも魔王を倒し俺たちを助けてくれた快利さんの計画なら信頼できる。
「ふっ、では二人に再度問おう、俺の国に来てくれるか?」
そう言って手を差し出して来た快利さんの手を握り返していた。そして、ここから俺達の新しい物語がスタートする事になったんだ。
――――エピローグへ続く
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