第143話 警告と陰謀の影
俺が言うとレナさんは珍しく顔を赤くして席を立つと小谷に掴みかかってキャットファイトになっていた。俺はその様子を見て色んな意味で驚いた。
「梨恵あんたは余計なことばっか言って~!!」
「
「これがレナさん、いえ佐々木美里さん、なんですね」
こんな風に砕けた様子を初めて見た。これがこの人の素で俺が見ていたのは全部が夜の街のナンバーワンのレナさんだったんだと思い知らされた。
「別に見せる気なんて無かった……ただ梨恵が小生意気でね、昔っから!!」
「やめへよ~美里お姉ちゃ~ん」
従姉妹でも上下関係はキッチリするみたいだ。そんな風に苦笑していると綺姫が近付いて来て俺の腕に抱き着いた。
「何となく分かったけど全部話して下さい!! レナさんも小谷さんも!!」
ただ唯一、状況がイマイチ理解出来てない綺姫はご立腹だった。
◆
――――綺姫視点
「と、まあね私も身の回りを綺麗にしようと思っただけよ」
「それなら星明を渡せなんて言わないで下さい!!」
あれから話を聞くと小谷さんや星明の言う通り私達をからかいたかっただけらしい。でも本当にそれだけなのか私は疑問だった。隙あらば星明を連れて行きそうな雰囲気は有ったと思う。
「はいはい悪かったわ、それで本題なんだけど」
「本題?」
「まあね、これも大事な用だったけどセイメーあんたに忠告よ」
そう言って今までと違って真面目な顔でレナさんは私と星明を見ていた。
「聞きましょう」
レナさんは小谷さんに確認して来いと言って個室のドアを確認させる念の入れようで私は何か嫌な予感がした。そして開いた口からは意外な単語が出た。
「千堂グループに気を付けなさい」
「え?」
私はポカーンとした顔で何を言ってるか理解出来なかったけど星明は何かを察したようで顔色が変わった。そしてすぐに頷いていた。
「それは理解しているつもりです、そう先方に伝えて下さい」
「そう、ならいいわ……これは表立ってあんたに言えない人間からの警告よ」
星明が相手を察したようだけど私には分からない。尋ねると知らない方が良いと言われ、続けてレナさんはもう一つ大事な話をした。
「それと、もう一つ『二人の周囲に怪しい動きや探るような連中がいたら注意しろ、全て千堂の手の者だ、俺を含めてな』だそうよ」
「その人は二重スパイ?」
「さあ? ただ私を介して警告したかったみたい……街を去る私なら接触しても怪しまれないと思ったんでしょうね」
でも私には疑問だった。千堂グループは味方なはずだ。星明の実家も助けてくれたし、総裁の七海さんは私達に個人的に援助まで申し出てくれた。それに静葉お義母様と交流も有るから私は納得が出来なかった。でも星明は違うみたい。
「そうですか……最後に面倒をかけました」
「ま、私も最後のお仕事よ、ここの払いもその人持ちだしね。さてと私も身の振り方を考えなきゃいけないわね……」
実家には帰れないのは親と対立してまで夜の街に来たからで覚悟はしていたらしい。そう言って自嘲している横顔は少しだけカッコいいと思った。後悔はしてるけど自分の選択は間違ってないと思っていると聞かされたからだ。
「じゃあ行き場が無いんですか?」
(あの時の私みたいに……)
「大丈夫よ何とかなるわ、後輩がいるからそいつを頼ろうと思ってる」
尋ねると他にも何個か頼れるルートは有るから大丈夫だと言っていた。ジローさんの店にお世話になってから少しづつコネも作っていたらしい。
「……でもジローさん関係のコネは」
「ええ、まずは後輩よ、そいつ大学中退して実家を継いだらしいし、この間久しぶりに連絡来てね、その実家が今は大変らしいの」
「あ、それって、しーちゃん先輩?」
小谷さんが言うにはレナさんは中高一貫の女子高に通っていたらしく、その当時の後輩だそうで当時から頼れる人だったそうだ。
「だから私の事は気にしないで良いのよ小娘、それにセーメイも」
「そう……ですか」
「それと、小娘……ううん綺姫、セーメイは私が仕込んだ最高の男よ!! 捨てる気が有ったら連絡なさい、すぐ引き取るから連絡先はこの番号ね」
「絶っ対に有り得ません!!」
メモを渡された私がそう答えるとレナさんは「よしっ!!」と言って気が済んだと言って小谷さんを連れて店を出て行った。荷造りも有るらしく小谷さんは明日も付き合わされるらしい。
◆
――――星明視点
「行っちゃったね……星明」
そう言って二人の出て行ったドアを見つめる綺姫の表情は複雑そうだ。しかし俺は綺姫ほど感傷的にはなれなかった。
「でも一歩を踏み出せたなら良かったよ」
「星明は、それで良いの?」
「ああ、お世話になったし恩人だけど逆に言えばそれだけだ」
だって俺には今、一番大事な女の子が隣に居るんだ。レナさんは綺姫に用が有ると言っていたが本当は俺に活を入れるために来たのかもしれない。
「そっか……じゃあ星明、今夜はいっぱい頑張ろうねエッチも!!」
「あっ、綺姫!! この流れでそれなのか!?」
いきなり今夜も頑張りたい宣言をした綺姫は俺の手をガッチリ掴むと逃がさないと俺を威圧する勢いだ。最近の綺姫はさらに肉食系になっている気がしないでもない。
「だって星明はぜっ~たいに今夜レナさんを思うよね? だから今夜は絶対に寝かさない!! 夢の中でも浮気はダメ!!」
俺が確実にレナさんの夢を見る訳じゃあるまいしと言ったが綺姫は譲らない。結局、最後は頷いて家に帰ると本当に昼までノンストップで致してしまった。翌日が祝日なのも全て綺姫の計算の内だと知ったのは昼食の時だった。
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