第四話 大悪魔の魔核
『よくぞ思い直したの、ディーンとやらよ。妾を置き去りに帰還しようとしたのは万死に値するが、その一点のみ貴様は評価するに値する』
俺はベルゼビュートの魔核を抱えると、魔核の靄が逆巻き、光を点滅させながら念を送ってくる。
「で……その、七大罪王のベルゼビュートが、なんでこんなところに転がっているんだ?」
『……妾は、《
ベルゼビュートが話を続ける。
『その気になれば妾は《
ぞっと寒気がした。
S級の悪魔など、その気になればこの世界を滅ぼしかねない存在である。
魔核だけとはいえ、本当に安全な存在だといえるのだろうか。
「……そ、それで、なんでこっちの世界に来たんだ?」
『奴らは入念に六柱で連携を組んで妾を殺しに来た。さすがの妾とて、まともに抗うことはできぬかった。しかし、妾は並の悪魔ではない。身体を引き裂かれた妾は、それでもまだ魔核に自我が残っていた。実は前例のないことではない。かの魔神サタンも、身体を失っても魔核だけで生きながらえていたという』
……魔神サタン、か。
悪魔の始祖であり、悪魔の中の悪魔だとされている。
架空の存在かと思っていたが、七大罪王の一角からその名を聞くことになるとは思わなかった。
『魔核だけならば跳ばせるかもしれぬと思い、他の下位悪魔が使った
ベルゼビュートの魔核が得意気に輝く。
まぁ、百年の間、|戦鼠(ムース)のケツの下だったけどな、と俺は心中で返しておいた。
『いや、久々にまともに知能のある者と喋ったわ。これまで退屈で仕方なかったのだ。さぁ、妾をこの薄汚い穴から連れ出すがよい。生涯妾の足となり、妾に尽くし、妾に悦びを齎すことだけを生き甲斐として生き続けるという名誉をやろう』
……本当にこいつ、持ち帰って大丈夫なのだろうか。
いや、死んでいて何もできないのなら……魔道具の材料として売り飛ばせるかもしれない。
本当にS級悪魔の魔核であれば、俺の想像も及ばない値がつくだろう。
そうなってくると、無事に売買できるかどうかも怪しいが……。
「……というより、そもそも、無事に出られるかどうかも怪しいんだ」
『なに……?』
「……ここには
『不甲斐ない奴であるのう……。あんな奴、妾の全盛期であれば指一つで引き裂いてやれたぞ』
百年間尻置きにされていた奴がよく言えたものだ。
「なんとか、俺に力を貸してくれることはできないか……?」
『貴様、
「そ、そんな無茶な……」
《プチデモルディ》はE級魔法に当たり、媒介に用いた魔核の悪魔を一時的に精霊として使役することができる魔法である。
だが、D級以上の悪魔に対して使用した際には、本来の能力を発揮させることはできない。
「俺の魔導剣だと、《トーチ》くらいしか発動させることができない……。俺自身、
魔法を習得するには、師匠か魔導書による手引き、本人の素質、そして練習に用いられる魔導剣がなければできないのだ。
そんなものが揃っているのは、軍の上層部くらいだろう。
『仕方あるまい。妾が《プチデモルディ》の魔法を教えてやろうではないか』
「だ、だけど、魔導器が……」
『妾の魔核を使うがよい。本来の魔導器は、動物が魔核を扱えるように金属や闘気で調整されたものであり、そのままの魔核を扱うことはできんだろう。だが、妾は自我も残っておるし、妾の意志で補佐してやることができる。妾を用いて《プチデモルディ》を使うのだ』
……魔導器は、ある。指南も受けられる。
そうであれば……簡単ではないが、《プチデモルディ》の習得もできるかもしれない。
「……わかった、やってみるよ」
『うむ、よくぞ言った! 《プチデモルディ》さえあれば、妾もこの石ころではなく、生前に近い実態を持つことができる……』
「……なるほど、そんな石ころで外に出て楽しいのかと思っていたけど、そういう狙いがあったのか」
『き、貴様っ! 今、妾の心臓を石ころと言ったのか!? 撤回するがいい! さもなくば貴様は地獄を見ることになるぞ!』
「ええ……ご、ごめん……」
……確かに、自分の心臓が石ころ呼ばわりされたら怒る気持ちはわかる。
わかるが、別に俺が言い始めたわけじゃないんだけどな……。
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