第八話 魔猿狩り
足音を抑えながら前へと進む。
「そろそろ気付かれない様に、少し《マナランプ》を弱めていくよ」
「そうだな」
マニの言葉に俺は頷く。
「一体は片付けろ。残りは私が引き受けてやる」
エッダが魔導剣を抜きながら、小声でそう言った。
「いや、いくらお前でも、
俺は言いながらも《オド感知》で、三体の
こちらに気がつけば、何かしらの反応を見せるはずである。
「キ、キキ……」
「キ……」
微かに鳴き声が聞こえる。
その途端、
こちらに気が付いたのだろう。
「接近してるのがバレたみたいだ! 仕掛けるぞ!」
エッダが一直線に前へと駆ける。
俺も彼女の後を追って走った。
通路の角の先から、二体の
体格は人間とさして変わらず、手足はむしろ細長い印象を受けた。
外観からはあまりがっしりとした印象を受けないが……こいつの一撃は、
深い皺の様な目が開く。
金色の残忍な瞳が、先頭を駆けるエッダを捕らえていた。
「すぐに終わらせてやる」
エッダが前傾し、地を脚で蹴った。
彼女の身体が加速する。
《瞬絶》を使っているようだ。
「《トリックドーブ》!」
俺は剣を掲げる。
魔法陣が展開され、そこを潜る様に一体の
《鉱物の魔ソラス》の
エッダが魔導剣を大きく振るう。
二体の
二体を牽制するための大振りだった分、動きが読まれて回避されてしまったようだ。
宙に跳んだ
だが、エッダはそのことは想定の範囲内だったらしく、余裕を以て身体を逸らして回避する。
二体の爪が空振った。
「ほう、《黒狼団》のボス猿よりは厄介かもしれぬな」
……エッダは相当連中に苛立ちを覚えていたらしく、口許に笑みを浮かべてそんな冗談を零していた。
そのとき、先の通路の角より、三体目の
敢えて一体身を引き、油断を誘ってから畳みかけるつもりであったらしい。
事前に話には聞いていたが、魔獣とは思えないほどに狡猾だ。
「でも……既に感知で押さえてるんだよ!」
俺の放った
まさか隠れていた自身に対して魔法攻撃が放たれているとは予想していなかったらしく、
「ギッ」
首からの上で小さな爆発が巻き起こった。
先の二体が、エッダを挟み撃ちにして飛び掛かる、
「左は任せろ!」
俺は叫びながら前に出て、左側の
が……思いの外、
俺は少し弾かれ、エッダと背をぶつけてしまった。
「わ、悪い、力負けした……」
……彼女がいなければ、地へと倒れていたかもしれない。
レベル的には対等に戦えるはずなのだが……やはり、《魔喰剣ベルゼラ》の闘気の補正はD級下位の冒険者向けの値になっているため、そこが少し足を引っ張っている形になっている。
《魔喰剣ベルゼラ》は魔力の補正は高いが、他はそこまで高くはない。
やはり、【Lv:25】以上の魔獣と一対一でまともに白兵戦をするのは少し厳しい。
まだ本格的な探索が始まったばかりだ。
こんなところで《プチデモルディ》は使えない。
「だったら……《マリオネット》!」
俺は魔法陣を浮かべる。
オルノア司教から奪った
魔力で自在に操ることのできる糸を生み出すことができる。
俺は自身の右手に、魔力のダマの様なものを纏わせた。
これがどうやら《マリオネット》の糸玉となるようだ。
俺は《魔喰剣ベルゼラ》を左手に持ち、右腕を前へと突き出しながら、大きく前へと出た。
「キキィ!」
やはり、速い……!
だが、やってやる!
俺は一歩下がりながら、爪を受け止める様に大きく右腕を伸ばす。
そして、
そして、透過させる際に……右手に帯びていた《マリオネット》のダマを、
これが範囲の広い部位であれば、透過させ損なっていただろう。
「キィ……?」
不思議そうに声を上げながら、俺との間合いを保ちながら回り込んでくる。
俺は左手だけで《魔喰剣ベルゼラ》を操り、
「今だ!」
俺はその瞬間、右腕を大きく引いた。
先程付けた《マリオネット》の糸に引っ張られたのだ。
その反面、生命力はそこまで高くない。
動きさえ封じてしまえば一気に倒しきれるはずだ。
俺は左腕で《魔喰剣ベルゼラ》を振るった。
「キィイイッ!」
闘骨付近を斬った。
普段は闘骨を傷つける恐れがあるためあまり狙わないが、魔獣にとって闘骨は大きな弱点の一つだ。
まず確実に敵戦力を減らしたかったため、闘骨付近を狙うことにしたのだ。
《トリックドーブ》をぶつけた三体目もまだ生きているのだから。
……しかし、この深みと感触なら、闘骨本体は無事だろう。
悲しいかな、俺も伊達に長々と運び屋をやっていたわけではない。
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