第七話 地下三階層へ

 ガロック率いる《黒狼団》の三人組をエッダの剣技によって退かせた俺達は、遠回りすることなく当初の目的であった地下三階層へと無事に突入することができた。

 ここで狩りをして魔猿マーキィの群れを狙っていく手筈になっている。

 単騎の牙鬼オーガもこの階層では出没するはずなので、余裕があれば挑んでみるのもアリだろう。


 ただ……その前に、エッダにもう一度言っておきたいことがあった。


「な、なあ、エッダ……」


「どうしたディーン?」


「ガロックがあっさり下がってくれたからよかったけど……本当に、結構賭けだったから、危ない真似は止めてくれよ」


 頭のガロックが部下同様に、あの後も突っかかってくる可能性は充分あった。

 ……というより、今回の件に関しては引き際のガロックが妙に素直すぎて不気味だったくらいだ。

 プライドが高いが故なのかもしれないが、それでも少し引っ掛かる。


 俺の言葉を聞いたエッダが、不機嫌に目を細める。


「お前が後手に回り過ぎているのだ。引けば付け上がるだけであろう」


「多少は抵抗する意志を見せないと、どこまでもいいようにされるだけだけど……実際に剣を向けるのはリスキー過ぎる。もしあの三人が全員殺す気で掛かって来ていたら、俺達に勝ち目はなかったんだぞ」


 武器を交えての交戦は、無論拗れれば殺し合いまで発展しかねない。

 その覚悟があるとポーズを示すのと、実際に剣を振るうのとでは話が大きく異なる。

 今回はガロックがハンデをくれたお陰でエッダが一本取った形ではあったが、実戦闘であればあそこからでも巻き返されていた可能性が高い。

 俺とマニが加わって三人でガロックに掛かれば勝負はわからないが、向こうにも二人部下がいたのだ。


「少なくとも今回は上手く行ったのだ。無事に済んだことにしつこく文句を重ねるな」


「い、いや、文句じゃなくて……俺は今後のリスク管理について……!」


「そもそも発端は、お前が念入りに下調べしていたこの魔迷宮が半ば連中の専属狩場になっていたことであろう」


「そ、それは俺が経験不足で視野が狭かったのは認めるし、申し訳ないと思ってるが……俺は行動の責め合いをしたいわけじゃなくてだな!」


「落ち着きなよ二人共。ほら、目的の階層に着いたんだし、仲違いしてる場合じゃないよ」


 マニが俺とエッダを諫める。

 ……別に俺も、喧嘩腰になったわけじゃなくて、もう少しリスク管理を考えて欲しいと思っているだけなんだがな。

 今回がなまじ上手く行ったため、エッダがこれでいいのだと考えてしまいそうで怖いのだ。


「エッダさんも、せっかく活躍したのにディーンが小言ばかり言うから拗ねてしまったんだよね。ディーンは几帳面なのだけれども、こういうところが昔から気が回らなくてね……」


 マニが冗談めかして笑いながらそう言った。


「そうだったのか……それは悪かった。さっきの行動が必ずしも間違いだったとは思ってないよ。向こうが仕掛けて来るのを回避できそうになかったし、俺も対応に困っていたからな。本当に助かった。ただ、同じように動くと危険なときもあるかもしれないというのを、一応頭に入れておいて欲しいと……」


「そういうわけではない! 私は単に、間違ったことをしたと思っていないだけだ。妙な邪推をしてくれるな!」


 エッダが眉間に皺を寄せ、顔を赤くした。

 さ、更に機嫌を損ねていないか……?


「そ、そうか、わ、悪い……。とりあえず、この話はまた帰ってからにしよう……」


「フンッ」


 エッダが足を早める。

 マナランプを手にしているマニが、慌てて彼女を追い掛けた。


 俺も二人を追って早足になった。

 かなり不機嫌なのではなかろうかとエッダの表情をちらりと確認したが、普段通りに戻っていた。

 やっぱりマニの口にしていた通りに拗ねていただけなのではと思ったが、声には出さないでおくことにした。


「あんまり離れると危ないぞ、魔猿マーキィは狡猾らしいからな……。感知はしてるから、俺も不意打ちは来ないと思うけど……」


 魔猿マーキィもそうだが、《黒狼団》も厄介なので彼らを警戒するためにも《オド感知》を広めに用いていた。

 ガロックの口振りでは、他にも《黒狼団》の団員が何人もこの《力自慢の狩場》を探索しているようであった。


 言っている傍から、魔猿マーキィの気配を感知した。

 一体……じゃないな。三体一緒に行動している。


「先の道に魔猿マーキィが三体いるみたいだ。エッダ、行けるよな?」


 戦鼠ムース三体なら全く臆する必要はないが、魔猿マーキィは素早く、力もあり、おまけに連携も取ってくる。

 同じD級魔獣で括るには差が大きすぎる。

 少し、危険な戦いになるかもしれない。


「全く問題ない。頑丈さは戦鼠ムースと大差ないか、個体によってはそれ以下なのだろう?」


「心強いよ。じゃあ、マニはここからは下がり気味で頼む」


 マニは運び屋として同行している。

 それに俺とエッダのレベルが二十台半ばなのに比べて、マニは【Lv:15】だ。

 まだ魔猿マーキィと戦えるレベルではない。


 ただ、余力があればできればマニもレベルは上げておきたいはずだ。


「でも……安全に手出しできそうな場面があったら、積極的に攻撃してくれよ。オドの配分については気に留めなくていいからな」


「ああ、勿論僕もそのつもりでいるよ。今回の金策が上手く進めば、君の魔導器を打つ手筈になっているからね」


 マニが《悪鬼の戦槌ガドラス》を構えてウィンクした。


 鍛冶師にとってもレベルは命である。

 一つレベルが上がれば鍛冶師としてできることが十は増えるとは、マニの談である。

 鍛冶師は戦いを主な生業にしている一般的な冒険者とは異なるため、【Lv:20】もあれば街で上位一割の一流鍛冶師だといえる。

 今回、マニのレベリングが上手く進めば、【Lv:20】付近までレベルを持っていくことができるはずだ。

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