第六十一話 大将鬼《ゴブリンロード》狩り
「はぁっ!」
俺は《闇足》を用いて目前の
虚を突かれた
闘術の《闇足》は、足の裏に闘気の膜を張って足音を消し、かつ歩行速度を早めた移動ができる、といったものだ。
俺はエッダに剣術を指南してもらい、効果的な《闇足》の使い方を身につけつつあった。
《魔喰剣ベルゼラ》の一閃が
棍棒で致命打を外されたが、それだけだ。
踵を返し、
《闇足》はエッダの多用している《瞬絶》と比べれば速度の変化はずっと小さい。
だが、それでも効果的に用いれば相手の意表を突くことができる。
《闇足》の足を擦る奇妙な移動は、相手の予測と遠近感を狂わせる。
小細工だ。
拮抗した戦いの中で素直に使って通用する戦術ではない。
だが、ステータス下の相手を素早く倒すのに適している。
しかし、今は時間を掛けられない状態だった。
「見張りを素早く倒せてよかったね。ディーンは、本当に強くなったよ」
背後からマニが声を掛けてくる。
「前の高レベルの
ゴヴィンとの交渉に応じた俺は、
俺はエッダとセリアを村に残し、マニを連れて《剣士の墓所》へと向かったのだ。
人間に近い戦略を立てられるといわれている。
今も俺達の襲撃を警戒して、部下に周囲を見張らせていたのだ。
だからこそ、今の
「死体を見られたらまずいことになる。先へ急ごう」
俺はちらりと
さすがに闘骨を取り出している余裕はなかった。
「……本当に、
「大丈夫さ、C級くらいなら、これまで何度だって相手をしてきたじゃないか」
「これまでの相手は単独だったよ。
ガロック、俺とエッダとマニで、ようやくどうにかなったのだ。
《黒狼団》が散々疲弊させた上でアレだったのだ。
あのときの俺はガロックとエッダに肝心な地力を要する部分を頼りきりだった。
それなのに今回は、そのガロックとエッダ抜きで挑むのだ。
マニが不安がる気持ちもわかる。
「……でも、やるしかない。軍と俺達の力差は大きい。普通にパルムガルトに向かうだけじゃ、いつか連中に捕まって処刑されるのが順当な最期なんだ。目前の困難一つ突破するのに、最大のリターンを得るために、危険な道を選ばなきゃならない。そうしないと、軍の奴らを出し抜けない」
俺達がここで負わなければならないリスクと、得なければならないリターンだ。
俺達を躍起になって捜しているカンヴィアとジルドから発見されるわけにはいかない。
村人の協力がなければ、彼らを振り切るのは恐らく不可能だ。
「それはわかっている。でも、連中からもう少しは譲歩を引き出せたかもしれないよ」
「……ゴヴィンは、村人に自分は影響力があると言っていた。あの条件は逃せない。結局粘れば、それだけこっちの心象は悪くなるんだ。村人の意識が絡む以上、武力で脅すのも悪手になりかねない」
少し進んだところで《オド感知・底》が反応を示した。
複数の気配がある。
俺はマニに待機してもらい、《闇足》を用いて先へと向かった。
まずは敵の規模を確認する必要があった。
それ次第では、諦めなけばならないことだって有り得る。
そして、見つけた。
木々の奥の崖壁に大きな亀裂が入っている。
あれが《剣士の墓場》だ。
そしてその周辺に、七体の
彼らの奥に、
ぎょろりとした目つきに、緑と灰色の混じったような肌。
大きなぎっしりと並ぶ牙に、鋭い爪。
間違いない、アレが
地上に座り込んで大きな焼いた肉を咥えて、カカカと笑っていた。
あいつ一体でも、今の俺が敵うかどうか怪しいくらいだ。
それに加えて、決して弱くはない護衛が七体いる。
エッダがいれば全く違っただったろうに、と思う。
そうなれば俺とベルゼビュートで二人倒しつつ
そして最後は全員で、護衛のいなくなった
楽な戦いではなかっただろうが、明確な勝ち筋はあった。
だが、主力のエッダがいない以上、そんなことはできない。
俺はすぐに戻り、マニに見た状況を話した。
「引き返すべきだよ。さっきの一体以外に、他に見張りにだしている
「マニ、ここで引き返しても、将来的に魔導尉に囲まれるリスクが上がるはずなんだ。何か手はないか? 俺も、正面から戦って勝てる規模だとは思わない。だが、本当に勝ち筋はないのか?」
マニは俺よりもずっと視野が広い。
彼女の考えが聞きたかった。
無理だと、できっこないと、彼女自身が否定してしまったようなものでもいい。
「……純粋な危険度は、
だが、とマニは続けた。
「
マニはそう言って、
マニは不安げな表情を浮かべていたが、決心したようにきゅっと口許を固め、俺へと向き直った。
「やろうか、ディーン。あの鬼の大将を出し抜いて、僕達の手で斬ってやろう」
『フフッ! 言うではないか、マニよ。だが、妾もおるぞ!』
マニの言葉に、ベルゼビュートがそう返す
彼女のドヤ顔が目に浮かぶ。
「ああ、三人でやってやろう」
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