第六十話 村の脅威
ロービの家の中でゴヴィンと話し合うことになった。
横になったままのエッダのいる部屋にセリアを呼び戻し、そこでゴヴィン達と対峙した。
「手配書にいなかったガキがいるらしいな」
ゴヴィンがセリアを睨みつける。
セリアがおどおどと頭を下げた。
「彼女は冒険者ではありません。事情があって……俺達は冤罪を晴らすために、別都市まで彼女を護衛する必要があります」
「お前らの事情は聞かねえ。仮に匿うとしても、深く関わりになるつもりはない、巻き込むな」
「……そうですね。魔獣について、聞かせてください」
「放置された魔迷宮が荒れ出して、今じゃ多種多様の魔獣が外に這い出てくるようになってきた。その大半は、俺ら村の自警団でもどうにかなるE級だった。だが、魔迷宮近辺に
C級魔獣であり、
C級魔獣だけでも厄介なのに、集団行動をするため一気に危険度が引き上がる。
冒険者に頼み込んでも断られたわけだ。
しかし、ある意味では
部下の
そして勝てると踏み込めば、一気に
仮に魔迷宮から出て来たのが
C級魔獣は村にとっては悍しい脅威になる。
多少戦闘慣れした村人がいたとしても、
仮に倒せたとしても、村は建て直し不可能なほどに崩壊するはずだ。
「……わかりました。エッダの回復を二日……いや、一日待ってもらえれば、すぐにでも
俺はわざと《魔喰剣ベルゼラ》へと目をやった。
脅迫のためだ。
いざとなれば、村で暴れることも視野に入れてやる、という示唆だ。
ゴヴィンが息を呑む。
無論、そのつもりはない。
追い込まれてそんなことをしても、俺達には何の得もないからだ。
だが、ゴヴィンは、俺達から恨みを買いたくはないはずだ。
本当に自暴自棄になって暴れられたときのことを考えれば、仕事をさせて約束を反故にして死地に蹴り出すというのは、彼らにとってもリスクの方が大きい。
「駄目だ、朝には向かえ」
ゴヴィンは考える素振りを見せた後、俺へとそう言った。
「あ、朝……?」
さすがのエッダもまともに動けないはずだ。
連れていくわけにはいかない。
「俺達もリスクを背負っている。軍に襲われて逃げて来たんだろ? 明日や明後日には軍が来るかもしれねぇ、そうなったら
ゴヴィンの仲間が、彼の提案を聞いて安堵した表情を浮かべていた。
この提案は
俺達の状況を見て、交渉で優位に立つためにエッダを人質にするつもりだ。
彼らの様子を見るに、俺達を怖がっている仲間に配慮して、ということもあるだろう。
武力のある俺達が優位の交渉であるが故に、俺達が折れなければ話が前に進められなくなる。
ゴヴィンは粗暴な印象はあるが、頭はいい。
ゴヴィン単体ならば説得もできるかもしれないが、ゴヴィンの仲間はそうではないだろう。
そして、ゴヴィンはだからこそ俺達が折れるはずだと理解して、こう言っているのだ。
「む、無茶であろう! 冒険者二人に、
ロービが怒る。
マニも険しい表情をしていた。
「さすがに無謀です。僕達も、ただで死ぬわけには行きません。交渉が破綻すれば、損をするのはそちらも同じことですよ。応じるつもりがあるのならば、そちらの方達は貴方が説得してください」
マニがゴヴィンの仲間を指で示す。
「俺達だけの問題じゃ済まない。わかるだろ? こいつらが応じたって、他の村の奴らがどう言うか。俺は村のために命を張って来た、人望もある。お前らが早朝に向かって、かつ
ゴヴィンの言葉に俺は驚いた。
本当にそんなことができるのであれば、軍が来たって身を隠せる。
カンヴィア達が諦めた頃に、改めてパルムガルトへ向かうことができる。
「そんなこと、本当に約束できるんですか? 破ったときには、ただでは済ませませんよ」
「……ああ、約束してみせる。
願ってもない話だ。
軍の連中を一度撒ける、最大の好機だ。
「ディーン、駄目だよ。さすがに危険すぎる」
マニが俺を止める。
だが、今すぐ村を出てカンヴィア達を掻い潜ってパルムガルトを目指すのは、あまりに危険だ。
「フン、わかりやすいではないか。ただで泊まれる状況では元々ないのだ」
エッダがふらつきながら、魔導剣を杖代わりにして立ち上がった。
「安心しろ、私も動ける」
エッダが口許で笑みを浮かべる。
だが、強がりだ。瞳は憔悴しているし、顔色もまだよくはない。
腹部の包帯には血が滲んでいた。
「……悪いけど、エッダはこの村で休んでいてくれ」
さすがに今のエッダでは戦えない。
エッダ抜きでは、あまりに無謀な戦いであることはわかっている。
だが、ここは、乗り越えなければどうにもならないのだ。
今の状態でカンヴィアとジルドを相手取るよりは遥かにマシだ。
「引き受けましょう。やってみせます、
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