第二十話 VS生活費
今回の戦果は上々であった。
帰路にも魔獣と鉢合わせしたため、集まった闘骨は
総額で六十五万テミスとなった。
そして今回の魔迷宮探索では、
これは換金していない。
できれば、マニに次の魔導剣を作る際に使ってもらおうと考えている。
ガロックの性格なら、この件を理由に今後因縁をつけてくるようなこともないだろう。
部下の方はちょっと怪しいが……多少冒険者への見下し意識は見えたものの、一度は衝突したロブも含めていい奴だった。
拗れればガロックは俺達の肩を持ってくれる算段は高い。
俺達に余計なことは仕掛けてこないはずだ。
それに《黒狼団》はラージン商会直属の探索団である。
ラージン商会は、冒険者に支援金を渡して灰色教団討伐の支援を行ってくれたこともある。
軍と対立する危険だってあったはずだ。
会ったことはないが、会長であるラゴール・ラージンは一般市民を守るため、身を切ってまでリスクを取った人物である。
冒険者と探索団の間で諍いが起こったとして、過剰に探索団を庇い立てすることはきっとないはずだ。
冒険者ギルドで換金を終え、俺は貨幣の重みを手で確かめていた。
こんな纏まった大金を手にすることはなかなかない。
「馬車の十五万テミスを引いても充分な利益だ。目標が七十万テミスだったわけだけど、この分を合わせれば余裕で超えるな」
俺は
誰が聞き耳を立てているかはわからないので、一応隠して持ち歩いているのだ。
変わったものを手に入れたとなれば、質の悪い冒険者から目を付けられることは珍しくない。
『むふふ……これだけ纏まった金額が手に入ったのであれば、しばらくの食費は心配せんでよいのう。期待してよいのであるよな? 期待しておるぞ、ディーン?』
ベルゼビュートが思念の声を掛けて来る。
「普通の
マニが周囲の目を気にしながら、俺へと小声でそう告げた。
「さ、三十万テミス……!」
「こ、声が大きいよディーン」
マニにぱっと手で口を塞がれた。
「悪い、つい……」
ふと周囲を見る。
俺達の様子を見て、何事かと周りの冒険者達の中にちらほらとこちらを観察している人物の姿があった。
……まずい、気を付けようとしたところで早速人の目を引いてしまった。
「全く、ディーンは、すぐそういうことを大きな声で言うんだから……。そういうことは、二人だけのときに言ってくれないと、僕だって恥ずかしいだろう?」
マニが少し照れる素振りを見せながら、やや声を張ってそう言った。
こちらに気を向けていた冒険者達が、興味を失くしたふうに別の場所へと歩いて行った。
「なんだ、ただのノロケかよ」
人相の悪そうな冒険者が、ぽつりとそう漏らしたのが聞こえてきた。
上手く誤魔化されてくれたようだ。
マニの機転に助けられた。
……少しだけ、気恥ずかしかったが。
「どうしたんだい? そんなに顔を赤くしなくたっていいんじゃないのかい、ディーン」
マニは周りの冒険者達を確認してから、悪戯っぽく笑って俺へとそう言った。
「そ、そういうマニだって、少し赤くなっているぞ!」
「な……! そ、そうかい?」
マニは最初は涼し気な表情をしていたが、俺の言葉に頬を赤くし、自身の顔を手で確かめるように触れていた。
「……私は邪魔だったようだな。とっとと金銭を分配して、解散してもらいたいのだが」
エッダが露骨に不機嫌そうにそう口にした。
目つきがいつにも増して怖い。
しまった。
せっかく魔迷宮探索の打ち上げ会に招くことに成功したというのに、早速彼女の機嫌を損ねてしまった。
「ごめんね、エッダさん。でも別に今のはその、周りを誤魔化そうとして言っただけで……その、そういうわけじゃあないんだ。別にその、僕とディーンは、まだそういう関係ではないし……」
マニは顔を真っ赤にして、言葉尻を濁しながらそう口にする。
「それで弁解になっていると、そう思っているのか?」
エッダが更に呆れたように目を細める。
「わ、悪い、エッダ。そうだ、剣の話をしよう!」
「お前……まさか、それで私の機嫌を取れると本気で思っているのか……?」
エッダが呆れを通り越し、驚いたように口を開ける。
「そもそも……お前、わかっているのだろうな?
「……あ」
勿論、当然のことではあったが、手に入れた闘骨の価値が思ったよりも高かったという部分に意識が向いて、肝心なところが頭から抜ける。
……六十五万テミスから、馬車代の十五万テミスが引かれる。
そこに
今回、前衛である俺とエッダは二、運び屋であるマニの取り分は一という話になっていた。
一人当たりの取り分は俺とエッダが三十二万テミス、マニが十六万テミスとならなければならない。
……
となると、俺の今回の貨幣の取り分は二万テミスとなる。
お、思ったより余裕がない……!
通常種の
いや、それだけ強かったけれども!
「新しい魔導器の金属はあるのか? 生活費が残るといいな」
エッダが俺の慌てふためく顔を見て、満足げに笑う。
「だ、大丈夫だよ、ディーン。いざというときは、ほら、また僕が貸すからさ」
しれっと『また』と言われているところが辛い。
冒険者は無尽蔵にお金が掛かるとは知っていたが、こんなに強くなったのにここまで余裕ができないとは驚きだった。
もう変に適正武器に拘らず、
いや、実際、そういう冒険者も珍しくはないだろう。
『わ、妾の食事……』
ベルゼビュートが、切なげな声でそう漏らす。
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