第十七話 ロマブルク地下遺跡

 《ロマブルク地下遺跡》は《戦鼠の巣窟》と比べれば、そう遠いところではない。

 金銭に余裕もないため、荷物を担いで《ロマブルク地下遺跡》の近辺にある村まで歩いて移動した。

 宿を取って一夜を過ごしてから《ロマブルク地下遺跡》を訪れる。


 《ロマブルク地下遺跡》は巨大な石の台形となっている。

 その台形の頂上には大きな四角い穴が空いており、下りの階段が内側に向けて存在し、そこから内部へと降りることができるのだ。

 周囲四面にある大きな階段から上まで上がり、内部へと降りていくことになる。


 《ロマブルク地下遺跡》を訪れたのは初めてではないが、いつ見てもこの遺跡の大きさには呑まれそうになる。

 なんというか、この石の巨大な台形を眺めていると、自分がとてもちっぽけな存在に思えてくるのだ。


「非常食オッケー、水オッケー、火炎石オッケー……。よし、食事もしっかりとったから半日は何も食べなくて問題はないし、準備は万端だな」


 ……《ロマブルク地下遺跡》では、途中で水を供給できる見込みが薄い。

 もし水を出す魔法か、魔力を込めれば水が流れ出て来る水泉石でもあれば荷物が大幅に軽くなるのだが……残念ながら俺はそんな便利な魔法は持っていないし、水泉石は消耗品で価値が高く、俺の様な三流冒険者が気軽に使える代物ではない。


『のう、ディーン、妾は何も食わせてもらっておらんぞ……』


 ベルゼビュートがぼそぼそと思念で俺に語り掛けて来る。


「……悪いけど、本当に余裕がないんだ。ベルゼビュートは、別に何も食べなくても問題ないんだろう?」


『な、なんと! なんという惨い仕打ちをするのだ! 妾は大悪魔ベルゼビュート様であるぞ! 昨日に赤いスープを呑みほしたことをまだ根に持っておるのか!』


「いや、昨日のことはもういいんだけど、単純にほら、お金がな?」


『妾だって、こう、何も食べなければ辛いのであるぞ! 精神的に! さすがにわざと失敗するような真似はせぬぞ。しかし、心が満たされないがばかりに、肝心なときに魔法が上手く発動してやれなくなってしまうかもしれぬなぁ……』


「そういう陰湿な脅し方は本当にやめてくれ! 万が一そんなことされたら俺死ぬんだからな!? 仮にそんな死に方しそうになったら、死力を振り絞って二度と人が拾えなさそうなくらい深い穴の底に放り投げるぞ!」


『なっな、なんであるとぉ!? ディーン、貴様、この妾を脅しておるつもりか!』


 魔導剣に埋め込まれたベルゼビュートの魔核がちかちかと光る。


「ほ、ほら、二人共落ち着いて……。上手く闘骨を持ち帰ることさえできたら、大悪魔様のために御馳走を振る舞うことだってできるじゃあないか、ね?」


 マニが俺の肩を叩き、《魔喰剣ベルゼラ》を横目で眺めながらそう口にした。


『むぅ、妾は今食べたいのであるがな……。仕方あるまい、探索が終わるまでは待ってやるとしようではないか。しかし、妾を待たせるのだから、相応のものを用意してもらえねば困るぞ!』


 ぶつぶつと文句を言いながらも、ベルゼビュートは大人しくなった。


「……サンキュー、マニ」


 俺が小声で言うと、マニはこっそりとグッドサインを返してくれた。


 俺とマニは《ロマブルク地下遺跡》の階段を上がったところで、最後に自身へと《イム》を使い、智神の評価を確認する。


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《ディーン・ディズマ》

種族:《純人族レグマン

状態:《通常》

Lv:13

VIT(頑丈):26+8

ATK(攻撃):29+10

MAG(魔力):29+22

AGI(俊敏):21+8


魔導器:

《魔喰剣ベルゼラ[D]》


称号:

《駆け出し剣士[E]》

《火の素養[F]》《造霊魔法・下位[E]》


特性:

《智神の加護[--]》


魔法:

《イム[--]》《トーチ[F]》

《プチデモルディ[E]》

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 ……よし、これで少し自信が持てた気がする。

 今の俺は運び屋の頃とは違う。

 レベルがあるし、それにマニの打ってくれた、ベルゼビュートの魂が宿る《魔喰剣ベルゼラ》がある。


 それに最悪の場面に陥っても《プチデモルディ》を使えば窮地を脱することができるはずであるし……どの程度実用性があるのかはわからないが、《暴食の刃》もある。


 《イム》で《世界記録アカシックレコード》による自身の評価を確認した俺は、内部へ続く階段を降り、《ロマブルク地下遺跡》の中へと進んでいく。

 その途中で背負っていた荷物を一度マニへと預けた。


 今回、彼女は運び屋として同行してもらっている。

 マニは荷物を背に、右手にマナランプを、逆の手に地図を持ち、周囲を照らしながら俺の後ろからついて来る。


「今回は試し斬りだし……揉め事を避けるためにも、人の少ないところの方がいいね。地下一階層は鉱石の採取に来ている人がメインで、大した魔獣は生息してない。さっさと降りてしまおうか。このまま真っ直ぐいけば、地下二階層への階段に当たるはずだ」


「そう言えば、黄金魔蝸ゴルド・マイマイの目撃情報は、第何階層だったんだ?」


「盗み聞きしただけだから何とも言えないね。ただ、一階層って感じではなかったよ。二階層か、三階層じゃないかな? 四階層まで潜ることのできる人は滅多にいないけれど、見たって言っている人がそんな凄い人には見えなかったからね」


 もう狩られている可能性も高いが、せっかくなので狙っていきたい。

 順調に二階層へと降りることに成功した。

 マニが少しマナランプの明かりを弱くする。


 ここからは運悪く魔獣に囲まれればそのまま死んでしまうことだって考えられるし、できることならば他の冒険者達とも無暗に遭遇したくはない。

 魔迷宮の底で強盗が行われたとしても、よほど連続で続かなければ、軍も冒険者ギルドも気に留めない。

 そもそも本当に人の手によるものだったのかもわからないからだ。


 特にここ最近、都市ロマブルクを中心に、魔迷宮内で強盗の手に掛かって死んだのではないかと見られる冒険者の死体の発見率が上がっているという。

 被害者の中には、それなりに腕の立つ中級冒険者の名前も挙がっている。


 仮に冒険者狙いの強盗がいたとすれば、そんな奴と鉢合わせすれば、俺の様な駆け出し者はひとたまりもない。

 遭遇しない様に願うばかりである。

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