第十六話 地下遺跡の情報
俺は《魔喰剣ベルゼラ》を手に、マニと共に冒険者ギルドへと足を運んでいた。
俺一人で本当は向かうつもりだったのだが、マニも《魔喰剣ベルゼラ》の出来栄えを直接目で確認しておきたかったそうだ。
俺としても、魔導剣の扱いがわからない内に気の知れないものと
荷物を運ばなければならないことを考えれば、マニが補佐としてついてきてくれるのならば、これほど心強いことはない。
……そう考えると、だんだんとマニがそこまで考えて鍛冶屋を閉めて同行を申し出たのではなかろうかと思えてきてしまう。
物凄くありがたいし、必要なことではあったのだが、本当に申し訳がない。
冒険者ギルドでは、冒険者に対する簡単な講習から始まり、
俺も数年前に講習を受けたことがある。
今回冒険者ギルドを訪れたのは行先の魔迷宮の選定である。
かつて王国が軍を築き、大掛かりな大討伐を行って以来、国内においては地上で、特に生息圏内においては、魔獣を見ることは稀となった。
しかし魔獣達は、人の簡単に行き来できない地下深くにて根城を築く様になる。
この彼らの巣である地下迷宮のことを魔迷宮と指すことが多い。
もっとも広義での魔迷宮は、魔獣の住処である地の全てを示すこともあるので、一概にはいえないのだが。
俺は休憩用の椅子に座り、マニと《魔喰剣ベルゼラ》の試し斬りを行う場所について話し合っていた。
俺もあまり金銭に余裕はない。
さすがにこれ以上マニに迷惑を掛けたくはないし、できることなら試し斬りの場で闘骨を稼ぎたかった。
それに以前呼び出したベルゼビュートの化身は、ギルバードとモーガンが二人掛かりでようやく一体を安定して仕留められるD級の魔獣、
今の俺ならば、ベルゼビュートの化身を三分近く維持することができる。
上手く行けば、D級の闘骨を二つくらい持ち帰ることができるかもしれない。
「……そういう意味では、《戦鼠の巣窟》がちょうどよかったんだけどな」
俺は溜息を吐く。
冒険者ギルドの情報曰く、現在の《戦鼠の巣窟》は俺が脱出したときよりも随分と危ないことになっているそうだった。
下層の
冒険者ギルドの方でも注意喚起と共に討伐要請が出ている。
しかし、俺の様な駆け出し冒険者が手を出すべき案件ではない。
こんなときこそ軍が動くべき案件だろうと思うのだが、まだ悠長に冒険者ギルドで要請が出ているということは、しばらくは動くつもりがないらしい。
軍部の連中はいつだってそうだ。本当のギリギリまで動こうとしないのだ。
「やっぱりそこを避けるとなると、《ロマブルク地下遺跡》しかないんじゃないかな?」
「《ロマブルク地下遺跡》か……」
《ロマブルク地下遺跡》は、千年前に邪悪な双頭の
確かに《ロマブルク地下遺跡》ならば距離も近いし、低階層ならば危険な魔獣も少ない。
上手く二階層を探索すれば、単体のD級魔獣と遭遇できる機会もあるはずだ。
「それに、さっき話してる人がいてたまたま聞いただけで本当かどうかはわからないのだけれど、
マニが声を潜めて俺へと言う。
「ほ、本当か?」
マニがこくりと頷く。
子供と同じくらいの全長を持つ。
足が速く、多彩な闘術(闘気や魔力を用いた特異技能のことであり、魔法とは違い魔核を必要としない)を持つが、決定的に威力に欠ける。
あまり強くはないが闘骨の価値が高く、レベルもよく上がり、殻もそれなりの値がつくため、冒険者達からよく狙われる魔獣なのだ。
外見は完全に金色の輝きを放つ
「まぁ、眉唾の話だけれどね。これだけを目的にするわけにはいかないけれど、《戦鼠の巣窟》が狙えない以上、ちょうどいいし」
『多少速かろうとも、妾の手に掛かればすぐである。スープの礼は返さねばならぬからの。期待しておくといい、きっちりと働いてやろうではないか』
ベルゼビュートが楽し気に言う。
「それは凄く嬉しいんだけど……その、人気のあるところではあまり声を掛けないでくれ。反応するのも少し恥ずかしいから……」
俺は頭を下げ、小声で《魔喰剣ベルゼラ》へと声を掛ける。
『む、むぐぅ……』
《魔喰剣ベルゼラ》に埋め込まれた魔核が、ちかちかと弱々しく光る。
「受付で《ロマブルク地下遺跡》の最新地図を購入しておくかい?」
「いや、ついこの間、俺が運び屋として同行した
「キミ……そんなことをしていたのか」
マニが目を細めて俺を見る。
俺は思わず目を逸らした。
基本的に魔迷宮の地図の売買は許されていない。
金銭目的に適当に作られた偽情報が出回ることが多いから、という建前ではあるが、本音のところでは冒険者ギルドによって地図の販売を独占するためだろう。
発覚すれば売った者にも、売られた者にも罰金刑が下される。
冒険者ギルドの地図の写しを勝手に大量に販売していた場合は、冒険者ギルドの除名は無論のこと、投獄や都市からの追放まであり得る。
冒険者ギルドの背後には軍がついており、こういったことへの調査は厳しい。
……俺も本当は売るべきではなかったのだろうが、生活が厳しかったのだ。
原本なので、万が一のときもそう酷い処罰は受けないだろうと思いたい。
「……まったく、前々からそこまで困っていたのならば、僕に相談してくれればよかったじゃないか」
マニがはぁ、と溜息を吐く。
「……いや、普段が頼りっぱなしだから、どうにかなりそうなことで頼りたくなくて……」
「そんなこと言って軽犯罪に手を出されたらそっちの方が冷や冷やするよ……。最近は特に、軍に手荒な人が多いだとかよくない噂を聞くのだから、妙な真似はしないでくれよ……」
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