第十九話 《オド感知・底》
「……オドに由来した技能を奪う……信じがたいけど、実際目前にした以上、信じざるを得ないね。本当にとんでもない力だ。《闘術》も《魔法》も、習得には本人の才覚と、長い時間が必要となる。《特性》に至っては、後天的に得られるものじゃあない」
『ふふん、当たり前であろう。妾は、《
マニとベルゼビュートが対話している間、俺は必死に
『それで……貴様は、何をしておるのだ?』
「決まっているだろ? 魔獣を倒したんだから、闘骨を取ってるんだよ」
……なんだ?
ベルゼビュートは魔導器を知っていたのに、闘骨の価値を知らないのか?
『……冒険者が闘骨と魔核を狙っておることは知っておったが、
「ああ! 元が人骨だから、ちょっと相場は下がるが……上手く捌けば、五千テミスくらいで買い取ってもらえるんだ!」
宗教上、人骨の闘骨を魔導器に用いることは許されていない。
倫理面や、冒険者同士の殺し合いの抑制の意味合いがある。
……だが、戦争があった頃には軍の一部で研究されていたのではないか、という話もある。
……人のアンデッドは、グレーゾーンに位置付けされている。
一応アンデッド化した時点で生前の状態から闘骨が急変するため、人のものそのものではないと、いえなくもない……というのが建前だ。
一昔前までは王国全土で禁じていたらしいが、今ではその法は撤廃されている。
完全に禁じてしまうと、アンデッドの魔獣が放置され、魔迷宮外に漏れだすリスクが急増するからだろうとは、マニの考えである。
ただ、アンデッドの闘骨は、大きな店では扱われない。
小さい経営難の、マニの様な鍛冶師が購入し……出来上がった魔導器を、安くで手に入ると、俺の様な冒険者が購入するのだ。
『そ、そうか……。おい、マニとやら、五千テミス……貨幣の単位は知らぬが、きっと貴様がそういうからには大した価値なのであろうな』
「ああ! ちょっと我慢すれば、五日分くらいの食費にはできる!」
『……ディーンには妾の所有者として、もっと大きく出てほしい者なのだがな。E級魔獣の、それもさして値がつかないらしいアンデッドの闘骨を必死に漁っているのを見ていると、妾がさもしくなってくる』
「五千テミスは、僕達にとっては本当に大金なんだよ……。ディーンは特に、いつも限界で生きて来たから……」
俺は
「よし! マニ、仕舞っておいてくれ!」
「ん」
俺が投げた闘骨をマニが掴む。
『終わったか……。では、とっとと先に進もうではないか!』
俺は続けて、闘骨から近い部位を中心に骨を採取用ナイフで叩き、強度を確かめていく。
『ど、どうしたのだディーン?』
「闘気を受けて、オドが切れた後も強度が増している部分があるんだ。そこをとっておけば、五十テミスくらいで買い取ってくれる店もある……」
『そんなところに時間を掛けてどうするのだ! とっとと奥へと進むのだディーン!』
《魔喰剣ベルゼラ》が不機嫌そうに振動する。
「そ、そんなところとはなんだ!」
『闘骨の百分の一ではないか! 時間と荷物の容量の方が勿体ないではないか!』
「往復の間の食費や、消耗品もあるんだ……。馬車は使っていないから移動費はそこまで高くはならないが、油断していたら経費の方が高くなることだってザラに……!」
「ディ、ディーン……補佐役以外の冒険者は、あまりそんなところまで集めないよ」
「……」
マニからも諭されてしまった。
ふと、俺は思い出す。
……闘骨は依頼主に回収されるが、他の素材はそのままくれることが多いのだ。
だから俺は必要以上に
元運び屋の悲しい性質が出てしまった。
そうだ、俺はもう運び屋の補佐ではない。
金策のためにあれこれと画策するよりも、自分が強くなり、より高位の魔獣を狩れる様に精進することが大切なのだ。
「……そう、だな。悪い、ベルゼビュート……俺が間違っていたよ」
『わ、わかればよいのだ。妾もあまりこの話を蒸し返す気にはならぬ。ほら、行くぞ、な?』
「ああ……とっとと先に進むとするか」
『うむうむ、じゃんじゃん闘骨を集めて、妾と馳走を摘もうではないか』
俺は床に散らばった骸骨へと目線を降ろし、手を合わせて拝む。
そして再び《ロマブルク地下遺跡》の通路を歩く。
……今回の目標金額は、少し欲張って五万テミスくらいだ。
これだけあればベルゼビュートに御馳走を振る舞ってやることも十分にできるし、マニから借りているお金や、《魔喰剣ベルゼラ》の未払いの鍛冶費用の返済にも繋がる。
地下三階層から降りて来た単独のD級を狙うことができれば、難しいことではないはずだ。
D級の闘骨は四万テミス程度の値がつくことが多い。
「……ん?」
通路を歩いていて、妙な感じがした。
いつもより、周囲のものがはっきりと認識できる気がするのだ。
感覚が鋭敏になっているというわけではなく、勘が働くのだ。
なんとなく、死角にあるはずのものの配置に想像がついたりする。
それが常に働き、五感を補強してくれるのだ。
そうか、《オド感知・底》か!
大気や土壁の中にも微量ながらにオドは眠っている。
だが、その質や量に差異があるため、その違和感を《オド感知・底》は教えてくれているのだろう。
「ちょっと待ってくれ、試したいことがある。さっき
俺はマニを呼び止め、その場に止まって目を閉じ、オドの感知に集中する。
はっきりとは見えないが……なんとなく、強いオドのある方向が分かる気がする。
この勘が働く方向に行けば、逸れたD級魔獣を効率的に見つけることができるはずだ。
「よし、これなら……!」
進む道を選ぼうとしたとき、俺の意識を、もっと強いオドの影が過ぎった。
高いオドを持つ者が、凄い速さで移動したのを、確かに俺は感じ取った。
「
半分忘れかけていたが、ここでは
高いオドを持ち、高速で動き回る……と来れば、奴の可能性が高い。
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